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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月17日02時30分 和歌山県市江埼沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第五十八幸栄丸
貨物船第一平成丸 総トン数 499トン 199トン 全長 75.30メートル 56.55メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
1,323キロワット 588キロワット 3 事実の経過 第五十八幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、船長C及びA受審人ほか3人が乗り組み、硅砂1,300トンを載せ、船首3.25メートル船尾4.32メートルの喫水をもって、平成8年10月16日09時40分静岡県宇久須港を発し、福岡県苅田港に向かった。 A受審人は、発航後、3直4時間交替の船橋当直に当たっていたもので、同日23時40分潮岬東方沖合において、C船長から引き継いで単独の当直に就き、所定の灯火が点灯していることを確認し、GPSプロッターに示されている針路線から外れないようにして紀伊半島を南岸沿いに西行した。 翌17日02時05分A受審人は、日置港灯台から238度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点に達したとき、針路を315度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で船首を少し左右に振りながら自動操舵により進行した。 その後A受審人は、前路に灯火を認めなかったことから、他船はいないと思い、見張りを十分に行うことなく、舵輪後方のいすに腰を掛け、時々GPSプロッター及び6海里レンジのレーダーを覗(のぞ)いたりしながら続航し、02時24分半市江埼灯台から256度2.5海里の地点に至り、左舷船首1度2海里のところに、ほとんど真向かいに行き会う態勢の第一平成丸(以下「平成丸」という。)の白、白、緑、紅4灯を視認することができ、衝突のおそれのあることが分かる状況であったが、このことに気付かず、同船の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じなかった。 そして、A受審人は、操舵室後部左舷側の海図台のところで、鳴門海峡の到着時刻を計算したり、潮汐表によって潮流を調査したりしていたので、依然、平成丸の接近に気付かないでいるうち、02時30分少し前船首方を振り向いたとき、船首至近に同船の白、白2灯及び船体を初めて視認し、急いで機関のクラッチを中立としたが効なく、02時30分市江埼灯台から273度3.2海里の地点において、幸栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が平成丸の船首と左舷前方から5度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期に属し、視界は良好であった。 C船長は、自室で就寝中に機関音の変化に気付き、昇橋して衝突したことを知り、事後の措置に当たった。 また、平成丸は、船尾船橋型の貨物船で、B受審人ほか2人が乗り組み、推進器等の船舶機材70トンを載せ、船首2.00メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月16日12時00分愛媛県越智郡大西町を発し、愛知県豊橋港に向かった。 B受審人は、発航後、機関部員の実弟と適宜交替しながら船橋当直に当たっていたもので、翌17日01時00分紀伊水道を南下中、単独の当直に就き、所定の灯火が点灯していることを確認し、同時40分番所鼻灯台から266度6.3海里の地点に達したとき、針路を133度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、10.2ノットの対地速力で船首を少し左右に振りながら自動操舵により進行した。 02時16分B受審人は、紀伊半島を南西岸沿いに東行中、右舷船首1度5.1海里のところに幸栄丸のレーダー映像を探知するとともに、その白、白、緑3灯を初めて視認し、やがてその紅灯をも時々認めるようになり、同船がほとんど真向かいに行き会う態勢であることを知り、同時24分半市江埼灯台から281.5度4海里の地点で、幸栄丸が同態勢で2海里に接近したとき、同船と衝突のおそれがあると判断した。 このときB受審人は、船橋前部両舷に取り付けられている投光器各1個の電源を入れ、これを前方に向けて点滅し、幸栄丸の動静を監視していたところ、同船が緑灯を強く見せており、このままでも右舷を対して航過することができると思い、その左舷側を航過できるよう、速やかに針路を右に転じることなく、同じ針路のまま続航した。 02時29分B受審人は、幸栄丸が針路を左に転じる気配のないまま接近するので危険を感じ、繰り返し投光器の点滅を行い、同時30分少し前機関を全速力後進にかけるとともに、左舵一杯をとったが効なく、平成丸は、船首が130度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、幸栄丸は右舷船首部が圧壊し、平成丸は船首部を圧壊して水線上に破口を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、紀伊半島南西岸沖合において、両船がほとんど真向かいに行き会う態勢で接近し衝突のおそれがあるとき、幸栄丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、平成丸が、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、紀伊半島南西岸沖合を西行中、単独で船橋当直に当たる場合、ほとんど真向かいに行き会う態勢で接近する平成丸の灯火を見落とさないよう、前路の見張り十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないと思い、海図台のところで鳴門海峡の潮流を調査することなどに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する平成丸の灯火に気付かず、針路を右に転じることなく進行して同船との衝突を招き、幸栄丸の右舷船首部を圧壊させ、平成丸の船首部を圧壊させて水線上に破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、紀伊半島南西岸沖合を東行中、ほとんど真向かいに行き会う態勢で接近する幸栄丸の白、白、緑、紅4灯を視認し、同船と衝突のおそれがあると判断した場合、速やかに針路を右に転ずべき注意義務があった。しかるに、同人は、幸栄丸が緑灯を強く見せており、このままでも右舷を対して航過することができると思い、速やかに針路を右に転じなかった職務上の過失により、同じ針路のまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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