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1998年(平成10年)

平成9年長審第86号
    件名
漁船第58豊安丸灯浮標衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、安部雅生、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
    指定海難関係人

    損害
船首部に破口を伴う凹傷、灯浮標は、その胴板部に凹傷

    原因
無資格者が単独で操縦、居眠り運航防止不十分、係留中の船舶に対する安全管理不十分

    主文
本件灯浮標衝突は、無資格者が、単独で操縦したばかりか、居眠りに陥り、灯浮標に向首進行したことによって発生したものである。
船舶所有者が、係留中の船舶に対する安全管理が不十分であったことは、本件発生の原因となる。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成811291110
肥前大島港第3号灯浮標
2 船舶の要目
船種船名 漁船第58豊安丸
総トン数 8.48トン
登録長 12.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80
3 事実の経過
第58豊安丸(以下「豊安丸」という。)は、Cが所有していたFRP製漁船で、平成8年11月初旬にB指定海難関係人所有の中型まき網漁業船団の運搬船として購入されたものの、船舶所有者の登録変更手続を行わないまま、網船や他の運搬船などとともに基地を長崎県西彼杵郡西海町黒口郷に定めて操業に従事していた。
ところで、B指定海難関係人は、これまで係留中の所有船舶が同人に無断で使用されたことがなかったところから、機関の始動キーを自ら保管するなどの船舶に対する安全管理を十分に行わず、同キーを取り付けたままの状態で豊安丸を係留していた。
A指定海難関係人は、B指定海難関係人所有の網船の甲板員として乗り組んでおり、平成8年11月28日18時ごろ黒口郷を出航して操業のため漁場に向かい、翌29日07時ごろ基地に戻るまでの夜間操業に引き続き、同日08時ごろから10時ごろまでの約2時間、煮干加工工場でいわしをゆでる作業に従事し、連日の操業とこれに続く同工場での作業とで疲労が蓄積した状況にあったが、作業を終えた10時ごろから船団の漁撈(ろう)長でもあるB指定海難関係人らと飲酒を始め、焼酎の湯割りをコップ2杯ばかり飲み終えたころ、個人的な所用のために友人宅を訪れることを思い立ち、対岸の長崎県西彼杵大島町間瀬東町に行くことにした。
A指定海難関係人は、間瀬東町に行くのに陸路では時間がかかるところから、海路を利用することにし、海技免状を受有していなかったものの、操舵手として寺島と大島間の水路を10回ほど航行した経験があったので一人で船を操縦しても大丈夫と思い、B指定海難関係人に無断で豊安丸を自ら操縦して間瀬東町に向かうことにした。
こうして、豊安丸は、船首0.50メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、10時57分少し過ぎ酒酔い状態のA指定海難関係人が単独で乗り組み、機関の回転数を毎分約1,700にかけ、11.8ノットの対地速力として黒口郷の船だまりを発し、立った姿勢のまま、針路を適宜転じながら手動操舵で間瀬東町に向かった。
11時08分少し過ぎ豊安丸は、馬込港マタカセ西灯浮標の西方30メートルの地点に達したとき、A指定海難関係人が針路を212度に転じて寺島橋橋梁灯のC1灯に向けて進行し、同時09分少し過ぎ屋敷ノ鼻の北西方沖合に達したとき、左舷正横60メートルばかりのところに友人の船を認めて続航した。
その後、豊安丸は、原針路、原速力で進行中、A指定海難関係人が、疲労が蓄積していたうえに飲酒したこともあって急に眠気を催し、そのまま居眠りに陥り、11時10分同橋梁灯から033度830メートルの肥前大島港第3号灯浮標に、その船首部が衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
衝突の結果、豊安丸は、船首部に破口を伴う凹傷を生じ、肥前大島港第3号灯浮標は、その胴板部に凹傷などを生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件灯浮標衝突は、無資格者が単独で操縦したばかりか、長崎県寺島水道の寺島西側水路を航行中、居眠りに陥り、前路の灯浮標に向首進行したことによって発生したものである。
船舶所有者が、係留中の船舶に対する安全管理が不十分であったことは、本件発生の原因をなすものである。

(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が、連日の操業とそれに続く煮干し作りの作業のため、疲労が蓄積した状況のもと、同作業を終えて船舶所有者らと飲酒中、個人的な所用のため、船舶所有者の船を使用して友人宅に行くことを思い立ち、船舶所有者に無断で操縦したばかりか、長崎県寺島水道の寺島西側水路を航行中、居眠りに陥り、前路の灯浮標に向首進行したことは、本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、勧告しない。
B指定海難関係人が、同人の所有する船舶を係留する際、機関始動キーを自ら保管するなどの船舶の安全管理が十分でなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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