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1998年(平成10年)

平成10年神審第38号
    件名
貨物船彌生丸漁船第二改清丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

清重?彦、須貝壽榮、工藤民雄
    理事官
中谷啓二

    受審人
A 職名:彌生丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第二改清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
彌生丸…右舷中央部に擦過傷
改清丸…船首部を大破、船長が胸部に打撲傷

    原因
彌生丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
改清丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、彌生丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第二改清丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第二改清丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時及び場所
平成9年4月6日12時00分
室戸岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船彌生丸 漁船第二改清丸
総トン数 499トン 9.21トン
全長 70.95メートル 17.43メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 882キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
彌生丸は、主として鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、船長C及びA受審人ほか3人が乗り組み、鋼材約1,523トンを載せ、船首3.9メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、平成9年4月5日20時30分大分港を発し、千葉港に向かった。
A受審人は、発航後、C船長及び次席一等航海士と3直4時間交替の船橋当直に当たっていたもので、翌6日11時45分ごろ室戸岬南方を東行中に昇橋し、同当直に備えてレーダーと肉眼で周囲を見渡したものの、他船を認めないまま、同時54分室戸岬灯台から176度(真方位、以下同じ。)3.7海里の地点で、天気予報を見るため降橋した船長から当直を引き継ぎ、針路を062度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、10.2ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
11時55分A受審人は、右舷船首22度1.4海里のところに、前路を左方に横切る態勢の第二改清丸(以下「改清丸」という。)を視認することができる状況で、その後その方位にほとんど変化なく互いに接近し、衝突のおそれがあったが、接近する他船はいないものと思い、転針に備えて船橋内左舷側後部の海図台に赴き、船位の確認にあたり、前路の見張りを十分に行わなかったので、改清丸の存在に気付かず、速やかに同船の進路を避けることなく続航した。
11時59分少し過ぎA受審人は、転針しようと操舵スタンド前に行き、右方を見たところ右舷至近に改清丸を初めて認め、汽笛により長一声を吹鳴するとともに左舵一杯とし、機関を極微速力前進としたが効なく、12時00分室戸岬灯台から160度3.4海里の地点において、彌生丸は、左回頭中、速力が約3ノットとなり船首が020度を向いたとき、その右舷中央部に改清丸の船首が、後方から88度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視程は約2海里であった。
食堂で食事を始めていたC船長は、自船の汽笛の吹鳴を聞き、急ぎ昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、改清丸は、樽流し漁に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも1.0メートルの喫水をもって、同月6日02時30分高知県室津港を発し、室戸岬南東方の漁場に至り、きんめだい30キログラムを獲って漁を終え、10時30分室戸岬灯台から123度14.2海里の地点から帰途についた。
B受審人は、発進と同時に、針路を292度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.7ノットの対地速力で自動操舵により進行し、11時50分室戸岬灯台から147度4.3海里の地点に至り、周囲を見回して他船を認めなかったことから、接近する他船はいないものと思い、翌日の出漁に備えて天気予報を見るため、操縦室下の居住区に入りテレビジョンを見始めた。
11時55分B受審人は、室戸岬灯台から152度3.9海里の地点に達したとき、左舷船首28度1.4海里のところに、前路を右方に横切る態勢の彌生丸を視認することができる状況で、その後その方位にほとんど変化なく互いに接近し、衝突のおそれがあったが、依然としてテレビジョンに見入っていて、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき行き脚を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま続航した。
こうして、改清丸は、同じ針路及び速力で進行し、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、彌生丸は右舷中央部に擦過傷を生じ、改清丸は、船首部を大破し、B受審人が胸部に打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、室戸岬南方海域において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近する際、彌生丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る改清丸の進路を避けなかったことによって発生したが、改清丸が見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、室戸岬南方海域を東行する場合、前路を左方に横切る態勢で接近する改清丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが同人は、接近する他船はいないものと思い、船橋内左舷側後部の海図台に赴き船位の確認を行っていて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切る態勢で接近する改清丸に気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、彌生丸の右舷中央部に擦過傷を生じさせ、改清丸の船首部を大破させてB受審人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、室戸岬南方海域を西行する場合、前路を右方に横切る態勢で接近する彌生丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、接近する他船はいないものと思い、操縦室下の居住区に入りテレビジョンで天気予報を見ていて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切る態勢で接近する彌生丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、行き脚を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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