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1998年(平成10年)

平成9年長審第88号
    件名
油送船金星丸油送船第五清江丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:金星丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
金星丸…右舷側外板に擦過傷
清江丸…左舷側外板に擦過傷、搭載交通艇が圧壊、同艦ボートダビットに曲損

    原因
金星丸…船員の常務(強風下における操船)不遵守

    主文
本件衝突は、金星丸が、強風下における操船が不適切で、第五清江丸に向けて圧流されたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月30日11時15分
京浜港横浜区第5区
2 船舶の要目
船種船名 油送船金星丸 油送船第五清江丸
総トン数 1,551トン 698.83トン
登録長 82.58メートル 68.06メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,838キロワット 1,176キロワット
3 事実の経過
金星丸は、船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか12人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.80メートルの喫水で、A重油積込みの目的をもって、平成7年12月29日19時10分名古屋港を発し、京浜港横浜区に向かった。
A受審人は、翌300930分ごろ浦賀水道航路に入航する手前で昇橋して操船指揮に当たり、乗組員を入航配置に就け、機関長を機関の遠隔操縦に、操舵手を操舵にそれぞれ当たらせ、西寄りの風が強いことを風速計で確かめ、10時40分京浜港港界付近に達したとき、機関を半速力としたのち漸次速力を減じながら、日本石油精製根岸第1号導標(後標)(以下「根岸導標」という。)にほぼ向首して同港第5区内の日本石油精製株式会社根岸製油所(以下「根岸製油所」という。)の専用桟橋に向けて進行した。
ところで、根岸製油所には、根岸導標から235度(真方位、以下同じ。)720メートルばかりの地点から065度の方向に存在する岸壁面に、同地点から順にC4、C3及びC2と称し、互いに125メートルの等間隔でいずれも125度の方向に延びる、長さ90ないし100メートル幅11メートルの各桟橋が設置されており、当時、C2桟橋西側には、第五清江丸(以下「清江丸」という。)が、入船右舷付け係留して荷役を行っていた。
11時00分A受審人は、根岸導標から120度940メートルの地点に達したとき、清江丸がC2桟橋西側に係留しているのを認め、同桟橋と対岸埠(ふ)頭との間に向けて左転し、以後機関を種々使用して3.0ノットの対地速力で進行した。
11時09分A受審人は、根岸導標から177度530メートルの地点に達したとき、いつものとおり、着桟予定のC3桟橋背後にある円形オイルタンク群のほぼ南西端に向首する290度の針路として進行したところ、折からの強風を左舷斜め前方から受けて3度ばかり右方に圧流され、意図に反して清江丸に接近することから、風による圧流に気付いたが、着桟予定時刻が過ぎて荷役準備が既に整っていたので何とか早く着桟しようと思い、態勢を立て直して着桟を試みるなどの強風下における適切な操船を行うことなく、船首が風下に落とされないように左舵を小刻みにとりながら進行した。
11時13分A受審人は、根岸導標から220度510メートルのC3桟橋とC2桟橋との間に至り、ほぼ行きあしを停止したところ、船首配置の一等航海士から桟橋が遠すぎて係留索をとることができないとの報告を受け、その後更にC3桟橋から遠ざかり、船首が右方に落とされて同桟橋に着桟することが困難な状況となり、なおも圧流されて清江丸に著しく接近したので、乗組員に防舷材を用意させ、機関を後進にかけて桟橋間から出ようと試みたが、及ばず、11時15分根岸導標から217度480メートルの地点で、金星丸は、305度に向いた状態で、その右舷側外板が清江丸の左舷側外板にほぼ平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力5の西南西風が吹き、視程は良好であったが強風注意報が発令され、潮候は下げ潮の初期であった。
また、清江丸は、船尾船橋型鋼製油送船で、船長Bほか7人が乗り組み、A重油などの石油精製品を積み込む目的で、同日10時35分根岸製油所C2桟橋西側に着き、左舷錨を投下し、バウライン、スターンライン、船首尾スプリングライン及び船首尾ブレストライン各1本をとり、合計6本の係留索により船首を305度に向けて入船右舷付け係留し、船体ほぼ中央部のカーゴラインマニホールドに、桟橋側チクサンローディングアームを連結して同時45分荷役を開始した。
B船長は、常時3人が甲板上で荷役の監視などに当たれるよう、全員を荷役当直に就かせ、自ら甲板上を巡回中、左舷船尾付近で搭載交通艇のラッシングが緩んでいることに気付き、これを締め直していたとき、正船尾50メートルばかりのところに、C3桟橋東側に着桟する態勢で入航してくる金星丸を認め、同船との距離が近いので、同船の監視を続けた。
11時13分B船長は、金星丸が自船の左舷正横付近に至って行きあしを停止し、その後同船が風により圧流されて自船に著しく接近する気配を認めたので、陸上作業員に連絡して直ちに荷役を停止させ、甲板上の乗組員に命じて防舷材を用意させたが、ほかになすすべもなく、A重油等約1,180キロリットルを積み込み、船首3.30メートル船尾4.60メートルの喫水となった状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、両船が用意した防舷材が効き、当初両船に損傷がなかったものの、金星丸が機関を後進にかけ、清江丸と離れようとしたとき、金星丸の船尾が左舷に振れて両船の船体が接触し、金星丸は、右舷側外板に擦過傷を、清江丸は、左舷側外板に擦過傷を生じ、次いで、金星丸の右舷船首部フェアリーダーが清江丸のボートダビット部に圧着して同船の搭載交通艇が圧壊したほか同艇ボートダビットに曲損を生じた。

(原因)
本件衝突は、強い西南西風が吹く京浜港横浜区第5区内の根岸製油所前面の狭い水域において、金星丸が、風上側である同所専用C3桟橋東側に着桟する際、強風下における操船が不適切で、風下側の同C2桟橋西側に係留中の清江丸に向けて圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、強い西南西風が吹く京浜港横浜区第5区内の根岸製油所前面の狭い水域において、風上側に当たる同所専用C3桟橋東側に向けて進行中、清江丸に接近するのを認めて風による圧流に気付いた場合、行きあしがなくなると更に圧流されるおそれがあったから、態勢を立て直して着桟するなどの強風下における適切な操船を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、着桟予定時刻が過ぎて荷役準備が既に整っていたので何とか早く着桟しようと思い、強風下における適切な操船を行わなかった職務上の過失により、強風によって圧流され風下側の同所専用C2桟橋西側に係留中の清江丸との衝突を招き、金星丸に右舷側外板等の擦過傷を、清江丸に左舷側外板の擦過傷及びボートダビットの曲損並びに同船搭載交通艇の圧壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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