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1998年(平成10年)

平成9年神審第47号
    件名
貨物船第二十五天神丸・漁船第一五栄丸漁船第二五栄丸漁具衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、工藤民雄、清重?彦
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第二十五天神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第一五栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第二五栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
第一五栄丸及び第二五栄丸の漁具が破損
第一五栄丸…右舷後方に引かれて転覆、主機の濡損等、船長が頭部打撲傷等

    原因
天神丸…操業模様の確認不十分、名種船間の航法(避航動作)不遵守

    主文
本件漁具衝突は、第二十五天神丸が、操業模様の確認が不十分で、2艘船曳網漁に従事している第一五栄丸及び第二五栄丸の進路を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年7月3日05時58分
徳島小松島港沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十五天神丸
総トン数 498トン
全長 65.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 漁船第一五栄丸 漁船第二五栄丸
総トン数 14トン 14トン
全長 18.10メートル 18.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50 50
3 事実の経過
第二十五天神丸(以下「天神丸」という。)は、砂及び石材などの輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、残土1,500トンを積載し、船首3.5メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成7年7月3日02時20分兵庫県家島港を発し、徳島小松島港に向かった。
A受審人は、04時45分ごろ鳴門海峡北方で昇橋し、当直中の機関長を見張りにつけ、自ら操船の指揮をとり、同海峡を通過した後、05時12分大磯埼灯台から079度(真方位、以下同じ。)1海里の地点で、針路を191度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
05時51分A受審人は、小松島灯台から030度4.2海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,950メートルのところに並んで低速力で南下する第一五栄丸(以下「従船」という。)及び第二五栄丸(以下「五栄丸」という。)を初めて視認し、漁労に従事していることを示す鼓形形象物を掲げていることに気付かなかったが、一瞥(いちべつ)して両船とも単独で海底を曳網(えいもう)する底曳網(そこびきあみ)漁に従事しているので両船の直近を航行しても大丈夫と思いそのまま続航した。
こうして、A受審人は、05時54分半五栄丸が左舷船首2度1,000メートルに接近したとき、同船及びその右舷側100メートルばかり隔てた従船の後方海面に多数のオレンジ色に塗られた浮子(うき)を視認することができ、海面付近を曳網する2艘船曳網(そうふなびきあみ)漁に従事していることが分かる状況となり、両船が引く漁具に向首する態勢で接近してこれと衝突のおそれがあったが、依然、両船とも単独で底曳網漁に従事しているので両船の間を航行しても大丈夫と思い、双眼鏡を使用して両船の操業模様を確認しなかった。そのため、同人は、両船が2艘船曳網漁に従事していることに気付かず、その進路を避けないで両船の間に向けて進行した。
05時56分A受審人は、ほぼ同じ態勢のまま両船と630メートルに接近したとき、両船付属の運搬船が右舷正横至近距離から自船に近寄り、運搬船乗組員が両手を交差するなどの動作をとっているのを認めたが、自船に対し、五栄丸及び従船が曳網している海面に近寄らないよう促していることに思い至らなかった。
そして、A受審人は、同じ針路及び速力で続航し、間もなく運搬船が船首の死角に入り見えなくなったので同船の船尾を替わすつもりで右舵一杯とし、機関を半速力として回頭中、船首至近の海面に浮子を視認したもののどうすることもできず、05時58分小松島灯台から037度3.1海里の地点において、天神丸は、船首が281度に向いたとき、五栄丸の船尾方100メートルの袖(そで)網に後方から72度の角度で衝突してこれを乗り切り、なおも右転を続け、330度に向首したとき、従船の船尾方100メートルの袖網に前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、日出時刻は04時51分であった。
また、五栄丸及び従船は、2艘船曳網漁に従事するFRP製漁船で、五栄丸には船団の指揮者であるC受審人ほか1人が乗り組み、従船にはB受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、ともに船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、運搬船を伴い3隻から成る船団を構成し、同日05時00分徳島小松島港を発し、同港北東沖合の漁場に向かった。
同船団では、全長が約130メートルになる袖網とその後部に接合された袋網とを、それぞれが長さ約80メートルのロープを繰り出して袖網の先端部を引き、五栄丸が従船の左舷側に位置して低速力で曳網し、運搬船は魚群探査と警戒業務を行い、各船間の連絡は無線電話で行っていた。
また、五栄丸及び従船は、2艘船曳網漁に従事する一対の船舶であることを示すよう、マストが同じ赤と白とに塗り分けられており、袋網の後端には発泡スチロール製でオレンジ色の直径60センチメートル(以下「センチ」と言う。)長さ2メートルの円筒形大型浮子が取り付けられ、左右の袖網にはポリエチレン製でオレンジ色の直径30センチの球形浮子がそれぞれ4個ずつ取り付けられていた。
五栄丸及び従船は、05時30分ごろ漁場に到着して、それぞれトロールにより漁労に従事する船舶が表示する鼓形形象物を掲げて操業を開始し、同時38分小松島灯台から033度3.6海里の地点で、針路を190度に定め、水深約14メートルの海域を1.5ノットの曳網速力で両船の間隔を約100メートルに保って進行した。
C受審人は、05時48分小松島灯台から035度3.4海里の地点に至り、左舷船尾2度1.4海里のところに南下する天神丸を初めて視認し、同船を見守っていたところ、自船と従船との間に向かって接近してくることが分かり、同時54分半ほぼ同じ態勢のまま1,000メートルに接近したとき、漁具との衝突のおそれがあると判断し、注意を喚起するため、マスト頂部の紅色回転灯を、点灯した。
ところで、同船団の各船は、いずれも汽笛信号の装置を装備せず、警告信号を行うことができなかったので、他船が曳網中の漁網に接近する場合には、運搬船がこれに近づいて警告し、避航を促す以外に有効な手段がなかった。
C受審人は、天神丸が、避航の気配がないまま800メートルばかりに接近したので運搬船を警告に向かわせ、また、自船の乗組員にも上着を振って同船に向かって合図をさせたが、更に接近してくるので衝突の危険を感じ、針路を209度に転じて続航中、前示のとおり衝突した。
一方、B受審人は、05時48分C受審人から無線電話で天神丸の存在を知らされ、同船を見守っていたところ、自船と五栄丸との間に向かって接近してくることが分かり、同時54分半ほぼ同じ態勢のまま1,000メートルに接近したとき、漁具との衝突のおそれがあると判断し、注意を喚起するため、マスト頂部の紅色回転灯を点灯した。
そしてB受審人は、同じ針路及び速力で続航し、天神丸が、避航の気配がないまま800メートルばかりに接近したとき、C受審人から右舵を取るよう指示を受けて右舵10度を取り、従船が220度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、五栄丸及び従船の漁具が破損し、従船は、右舷後方に引かれて転覆し、主機の濡損(ぬれそん)等を生じたが、のち修理され、B受審人が頭部打撲傷等を負った。

(原因)
本件漁具衝突は、徳島小松島港沖合において、天神丸が、操業模様の確認が不十分で、2艘船曳網漁に従事している五栄丸及び従船の進路を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、徳島小松島港沖合を南下中、前路に並航して曳網中の五栄丸及び従船を視認した場合、それらが2艘船曳網漁に従事しているかどうかを判断できるよう、双眼鏡を使用して操業模様を確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、一瞥してこれらを単独で底曳網漁に従事している船なので両船の間を航行しても大丈夫と思い、操業模様を確認しなかった職務上の過失により、両船が2艘船曳網漁に従事していることに気付かず、転舵して両船の船尾を十分に離すなど、その進路を避けないまま進行して漁具との衝突を招き、漁網を破損して従船を転覆させ、B受審人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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