|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月10日00時10分 石川県金沢港北西方沖合 2 船舳の要目 船種船名 押船第三栄進丸
バージ第十久須夜号 総トン数 175トン 全長 30.00メートル 75.00メートル 幅
15.50メートル 深さ 6.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,471キロワット 船種船名 漁船第一七宝丸 総トン数 31トン 全長
23.85メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数 250 3 事実の経過 第三栄進丸(以下「栄進丸」という。)は、固定ピッチプロペラ1個を装備した鋼製引船兼押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で船首1.90メートル船尾2.40メートルの喫水となった無人の鋼製バージ第十久須夜号以下「バージ」という。)の船尾凹部に船首部をはめ込み、船首尾線が一致するよう油圧式の連結ピンにより結合して全長89メートルで一体となり、船首2.20メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、平成8年10月9日14時45分石川県能登島町の?目(えのめ)漁港を発し、福井県小浜港に向かった。 A受審人は、発航後3直4時間交替の船橋当直に当たっていたもので、22時00分能登半島西岸の海士埼灯台から267度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点で、甲板長と交替して単独の船橋当直に就き、針路を201度に定め、機関を引き続き全速力前進にかけ、自船が動力船の灯火を、バージがマスト灯のほかに両舷灯をそれぞれ点灯していることを確認し、11.5ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。 23時59分半A受審人は、金沢港西防波堤灯台から314度12.6海里の地点に達したとき、左舷船首36度3海里のところに、前路を右方に横切る態勢の第一七宝丸(以下「七宝丸」という。)の白、緑2灯を初めて視認し、翌10日00時03分同灯火を同方位2海里に見るようになり、その後同船が方位が変わらずに接近することから、衝突のおそれがあると判断した。 A受審人は、船橋前部中央に立って七宝丸の動静を監視しながら同じ針路及び速力で続航し、00時08分半方位が変わらないまま800メートルに接近したとき、短音5回の警告信号を行った。しかしながら、そのまま直進してくるので、操舵を手動に切り替え、再度同信号を行い、間近に接近したとき、避航の気配が認められなかったが、そのうちに避航動作をとるものと思い、右舵一杯をとるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった。 そして、A受審人は、00時10分少し前衝突の危険を感じて右舵一杯をとり、機関のクラッチを中立としたが及ばず、00時10分金沢港西防波堤灯台から305度12海里の地点において、栄進丸被押バージは、原速力のまま、215度に向首したとき、栄進丸の左舷中央部に七宝丸の船首が直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期に属し、視界は良好であった。 また、七宝丸は、底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.70メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同月9日22時40分動力船の灯火を表示して金沢港を発し、同港北西方33海里沖合の漁場に向かった。 B受審人は、発航時の操船に引き続いて単独で船橋当直に当たり、23時00分金沢港西防波堤灯台の至近を通過したとき、針路を305度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.2ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。 定針後間もなくB受審人は、操舵を自動に切り替え、周囲を見渡したところ、自船とほぼ同時刻に同灯台を通過した同業船20数隻がそれぞれの漁場に向けて自船から遠ざかる状況で、また、レーダーを6海里レンジとしてのぞいたが、接近してくる他船の映像を認めなかったことから気を許し、23時30分操舵室後部右舷側の海図台の上に設置したテレビをつけ、同室前部中央にある操舵スタンドから後方に下がった位置で背を柱にもたせかけ、右舷後方を向いた姿勢でこれに見入った。 こうして、B受審人は、翌10日00時03分金沢港西防波堤灯台から305度10.7海里の地点に達したとき、右舷船首40度2海里のところに、前路を左方に横切る態勢の栄進丸及びバージが表示しているそれぞれの白、紅2灯を視認することができ、その後栄進丸被押バージの方位が変わらずに接近し、衝突のおそれのあることが分かる状況であったが、付近には他船はいないと思い、見張りを十分に行うことなく、依然テレビのスポーツニュースの野球放送に興じていたことから、このことに気付かず、早期にその進路を避けずに続航した。 そして、B受審人は、栄進丸の行った警告信号にも気付かないでいるうち、00時10分わずか前ふと前方を見たとき、船首至近に迫った栄進丸被押バージの灯火を初めて視認し、驚いて舵輪に駆け寄り、操舵を手動に切り替え右舵一杯をとるとともに、機関を中立に次いで後進にかけたが効なく、七宝丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、栄進丸は、左舷側中央部に軽微な凹損を生じ、七宝丸は、水面上及び水面下の船首部を圧壊したが、のち両船はいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、金沢港北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、七宝丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る栄進丸被押バージの進路を避けなかったことによって発生したが、栄進丸被押バージが、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、金沢港の西北西方沖合において、漁場に向けて西行する場合、右舷側から接近する栄進丸被押バージの灯火を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船はいないと思い、テレビに見入り、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切る栄進丸被押バージに気付かず、その進路を避けることなく進行して栄進丸との衝突を招き、自船の船首部を圧壊し、栄進丸の左舷側中央部に軽微な凹損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。 A受審人は、夜間、金沢港の西北西方沖合において、バージを押して南下中、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する七宝丸に対して、繰り返し警告信号を行ったが、避航の気配が認められないまま、同船と間近に接近した場合、右舵一杯をとるなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、七宝丸がそのうちに避航動作をとるものと思い、右舵一杯をとるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、七宝丸との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|