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1998年(平成10年)

平成9年神審第60号
    件名
漁船天神丸漁船(船名なし)衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、山本哲也、清重?彦
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:天神丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:漁船(船名なし)船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
天神丸…右舷船首部に擦過傷
A丸…左舷船尾外板を大破、沈没、のち廃棄処分

    原因
A丸…速力不適切、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
天神丸…船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、漁船(船名なし)が、過大な速力で進行したばかりか見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、天神丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月4日04時40分
徳島県今切港
2 船舶の要目
船種船名 漁船天神丸 漁船(船名なし)
総トン数 11トン 1.18トン
全長 5.49メートル
登録長 13.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 29キロワット
漁船法馬力数 190
3 事実の経過
天神丸は、2艘船曳網(そうふなびきあみ)漁船団の運搬船として使用されるFRP製漁船で、しらすうなぎ採捕漁に従事する目的で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成9年2月4日04時00分徳島県今切港内の長原漁港を発し、今切港長原導流堤灯台(以下「長原導流堤灯台」という。)の南方500メートル付近に至り、船首部から海中に直径約5メートルの網を入れ、微速力で前進しながら採捕作業を開始した。
ところで、今切港は、今切川河口部からその上流約4海里にかけてを港域とし、河口部は、左岸から長原導流堤が、右岸から小松防砂提がそれぞれ東に向けて沖合に延びており、両堤の先端部の間が同港内への水路入口となっていた。そして、例年、12月中旬から3月ごろまでの夜間、同川河口周辺は、しらすうなぎ採捕の目的で船外機付小型漁船が多数集まり、それぞれ集魚灯を点灯して漁を行っていた。
A受審人は、当時船曳網漁の休漁期であったことから、知人を甲板員として乗せ、当時盛んに行われていたしらすうなぎ採捕漁を無許可のままで行うこととしたもので、当日寝過ごしたため漁場に遅れて到着し、しばらく操業したが漁模様が思わしくないまま、周囲で同漁を行っていた自船と同様の他の船曳網漁船が帰り始めたので、自船も漁を中止して帰途に就くこととした。
04時30分ごろA受審人は、航行中の動力船の灯火を表示して長原導流堤灯台から180度(真方位、以下同じ。)500メートルばかりの地点を発進し、甲板員を船尾甲板で休ませ、単独で見張りを兼ねて手動操舵に当たり、今切川河口付近には多数のしらすうなぎ採捕専門の漁船がほぼ10ないし20メートル間隔で密集し、漂泊しながら漁を行っていたので、これらを避けるため少し沖合に向けて航行したのち徐々に左転し、同時37分半長原導流堤灯台から104度300メートルの地点に達したとき、針路を今切港内への水路に向かう276度に定め、機関を微速力前進にかけて3.0ノットの対地速力で進行した。
04時39分A受審人は、長原導流堤灯台から110度170メートルの地点に達したとき、右舷船首75度650メートルに、集魚灯の強力な明かりを背景にした高速力で航行する漁船(船名なし、以下「A丸」という。)の船影を初めて視認した。
A受審人は、A丸が長原導流堤先端部に向けて進行していることから、同先端部をつけまわして今切港内へ向かう態勢となるものと思い、同船や、漁船群の動静を確かめながら続航するうち、04時39分半少し過ぎ、A丸の方位が明確に変わらないまま約200メートルまで近づき、そのまま互いに接近すれば衝突の危険があることを知った。
しかし、A受審人は、なおA丸が長原導流堤先端部付近で港内に向かうため右転するものと思い、速やかに機関を後進にかけて行き脚を止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに進行中、04時40分わずか前同船が同導流堤先端部を替わっても右転しないのを認め、あわてて機関を後進にかけたが及ばず、04時40分長原導流堤灯台から132度70メートルの地点において、天神丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、A丸の左舷船尾付近に前方から84度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、視界は良好であった。
また、A丸は、船外機としらすうなぎ採捕漁のための集魚灯及び発電機を装備したFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、知人1人を同乗させ、同漁に従事する目的で、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、同月3日20時00分徳島小松島港の徳島沖の洲導流堤灯台から310度1,500メートルの定係地を発し、同時30分ごろ長原導流堤灯台北方1,000メートルばかりの漁場に至って操業を開始した。
ところで、B受審人は、もともと漁業の経験がなかったが、しらすうなぎ採捕漁を行う目的で平成8年1月に海技免状を取得し、同年11月ごろ知人を介して春日丸という同漁に用いられていた中古船を購入したものの、同漁の許可を得ただけで、漁船登録を行わないまま同年12月中旬から出漁を繰り返していた。
こうして、B受審人は、長原導流堤灯台の北側沖合で漂泊し、船尾から集魚灯を海中に入れ、浮いてきたしらすうなぎをたも網ですくう方法で操業を行い、翌4日04時35分しらすうなぎ約50グラムを獲て漁を打ち切り、船体中央部少し前方に置かれた発電機上に両色灯を、船尾部に白色全周灯をそれぞれ表示し、同乗者を発電機後部に座らせ、自らは船尾付近に腰掛けて船外機の操縦ハンドルを握り、長原導流堤灯台から002度1,100メートルの地点を発進して帰途に就いた。
B受審人は、この海域から定係地に戻るには、海岸線に接近して南下すれば、沖合に設置されているのりひび等を避けることができると人から教えられ、毎回その進路で航行していたので、しらすうなぎ採捕漁を行っている漁船群のなかをゆっくりとした速力で南下した。
04時39分B受審人は、長原導流提灯台から006度570メートルの地点に達したとき、左舷船首9度650メートルに、今切港の水路入口に向けてゆっくりとした速力で入航する天神丸が存在したが、付近漁船の集魚灯の強力な灯火に妨げられて天神丸の存在に気づかないまま、前路の今切川河口部に密集している漁船群が少しまばらになり、直進することができる状態となったことを認めた。そして、漁船群のなか高速力で航行すると船首方に存在する漁船の動静のみに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行う余裕がなくなるおそれがあったが、漂泊状態の漁船群のなかに幅20メートルほどの隙間(すきま)ができたので大丈夫と思い、引き続き安全な速力のまま航行することなく、針路を長原導流堤灯台の少し沖合に向首する180度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で進行した。
04時39分半少し過ぎB受審人は、天神丸の方位が明確に変わらないまま約200メートルに近づき、そのまま互いに接近すれば衝突の危険がある状況となったが、見張り不十分で依然これに気づかず、速やかに機関を使用して行き脚を停止するなど、衝突を避けるための措置を取らずに進行中、同時40分わずか前船首至近に迫った天神丸の船体を初めて認めたものの、何をする間もなく、A丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天神丸は右舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、A丸は左舷船尾外板を大破して間もなく沈没し、のち引き揚げられ修理費の都合で廃棄処分にされた。また、B受審人及び同乗者は海中に投げ出されたが、間もなく天神丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、夜間、しらすうなぎ採捕漁を行う漁船が密集して操業する徳島県今切川口付近において、A丸が、漁船群のなかを過大な速力で進行したばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、天神丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、しらすうなぎ採捕漁を終えて徳島小松島港に向け帰航の途中、同漁を行う漁船が密集して操業する今切川河口付近を航行する場合、高速力で航行すると船首方にのみ注意が集中して周囲の見張りを行う余裕がなくなり、今切港に入航する他船を見落とすおそれがあるから、安全な速力として周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁船群のなかに隙間ができたから大丈夫と思い、過大な速力で進行して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、入航中の天神丸を見落とし、同船との衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、天神丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、A丸の左舷船尾外板を大破させて沈没に至らしめた。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、しらすうなぎ採捕漁を終えて今切港内の長原漁港に向け帰航の途中、同漁を行う漁船が密集して操業する今切川河口付近において、高速力で接近するA丸を右舷前方に視認し、同船と衝突の危険があることを知った場合、速やかに機関を使用して行き脚を停止するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、相手船が長原導流提先端部付近で右転するものと思い、速やかに機関を使用して行き脚を停止するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、A丸との衝突を招き、前示のとおり両船に損害を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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