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1998年(平成10年)

平成10年長審第15号
    件名
瀬渡船えりか丸プレジャーボート第2天山丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:えりか丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第2天山丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
えりか丸…船底外板に擦過傷
天山丸…船首部を圧壊、船長が肋骨を骨折

    原因
えりか丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
天山丸…注意換起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、えりか丸が、見張り不十分で、錨泊中の第2天山丸を避けなかったことによって発生したが、第2天山丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月19日15時10分
長崎県崎戸島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船えりか丸 プレジャーボート第2天山丸
総トン数 18トン
登録長 11.98メートル 6.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 661キロワット 84キロワット
3 事実の経過
えりか丸は、航行区域を限定沿海区域とするFRP製瀬渡船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.85メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、平成91191350分長崎県平島漁港を発し、途中、同日朝同県西彼杵郡大瀬戸町多以良外郷柳から同漁港近くの名乗瀬などに瀬渡した釣り客12人を同船に乗せ、柳に送り届けることにした。
14時40分半A受審人は、丸田港南防波堤灯台から180度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点に達したとき、針路を長崎県蛎ノ浦島南方の、芋島南端に向く091度に定め、機関を全速力前進にかけて手動操舵とし、21ノットの対地速力で進行した。
15時06分少し過ぎA受審人は、御床島灯台から202度1.1海里の地点に達したとき、右舷船首17度1.2海里のところに、長崎県崎戸島南方沖合に遊漁船群を初認し、その後、しばらく同一針路を保って続航したのち、15時08分少し前同灯台から174度1,800メートルの地点に達したとき、遊漁船群を避けるため、目測で針路を大瀬戸町の板浦山と金比羅山のほぼ中間に向く118度に転じて進行した。
ところで、えりか丸は、全速力前進で航行すると船首部が1メートルばかり浮上し、操縦席が船首尾線よりやや右舷側に位置していたところから、左舷船首部に約10度の死角を生じ、前路の見張りが妨げられる状況にあった。
15時08分半A受審人は、御床島灯台から163度1.2海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに、錨泊中の第2天山丸(以下「天山丸」という。)を視認でき、その後、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、あらかじめ転じた針路で余裕をもって前路の他船を航過できるものと思い、前路の見張りを十分に行っていなかったので、同船を認めず、右転するなどの衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
えりか丸は、原針路、原速力のまま進行中、15時10分御床島灯台から149度1.6海里の地点おいて、その船首が天山丸の左舷船首部に前方から40度の角度をもって衝突し、船首部を乗り切った。
当時、天候は曇で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、天山丸は、航行区域を限定沿岸区域とするFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、同日09時00分長崎県東彼杵郡川棚町下組郷平島を発し、同県崎戸島南方沖合の釣り場に向かった。
09時40分ごろB受審人は、芋島南方沖合300メートルばかりの釣り場に至って釣りを始めたものの、釣果が思わしくなかったところから、13時ごろ移動して釣り場を衝突地点付近に変更し、船首から重さ18キログラムの錨を入れ、錨に約4メートルのチェーンを取り付けて直径12ミリメートルの化学繊維製のロープをつなぎ、これを錨索として約50メートルばかり繰り出し、錨泊中であることを示す球形形象物を掲げ、後部甲板の左舷側に置いたクーラーボックスに左舷正横を向いて腰を掛け、再び釣りを始めた。
15時08分半B受審人は、折からの北北西風により船首が338度を向いていたとき、左舷船首40度1,000メートルのところに自船に向首して接近するえりか丸を初めて認め、その後、同船が自船を避航する気配がないまま、衝突のおそれがある態勢で次第に接近する状況となったが、更に接近すれば錨泊中の自船をえりか丸が避けるものと思い、速やかに有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に接近しても、機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けた。
15時10分わずか前B受審人は、自船に向首したまま、著しく接近したえりか丸に対し、立ち上がって船首部に行き、大声で叫びながら両手を振って危険を知らせたが、及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、えりか丸は、船底外板に擦過傷を生じただけであったが、天山丸は、船首部を圧壊し、のち修理された。また、B受審人が衝突の衝撃で胸部を強打し、肋骨を骨折した。

(原因)
本件衝突は、えりか丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の天山丸を避けなかったことによって発生したが、天山丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県崎戸島南西方沖合において、同県西彼杵郡大瀬戸町多以良外郷柳に向けて航行中、前路に遊漁船群を認めた場合、正船首方に存在する他船との相対位置関係が把握できるよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、あらかじめ転じた針路で余裕をもって前路の他船を航過できるものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊して遊漁中の天山丸との相対位置関係が把握できず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、天山丸の船首部を乗り切って同部を圧壊し、B受審人に肋骨骨折を負わせるに至った。
B受審人は、長崎県崎戸島南方沖合において、錨泊中であることを示す球形形象物を掲げて遊漁中、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するえりか丸を認めた場合、同船と著しく接近する状況とならないよう、機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、えりか丸が錨泊中の自船を避けて行くものと思い、同船に対して衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、同人が負傷するに至った。

参考図






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