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1998年(平成10年)

平成9年門審第126号
    件名
漁船海洋丸漁船旭丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、西山烝一、岩渕三穂
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:海洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:旭丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
海洋丸…船首部に破口
旭丸…左舷後部が圧壊、のち廃船処分

    原因
海洋丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
旭丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、海洋丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、旭丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月22日16時00分
九州北岸響灘
2 船舶の要目
船種船名 漁船海洋丸 漁船旭丸
総トン数 5.3トン 2.51トン
登録長 11.95メートル 8.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 50
3 事実の経過
海洋丸は、専ら響灘でいか一本釣り漁業に従事するFRP製小型遊漁兼用漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成9年6月22日02時30分福岡県脇田港を発し、04時ごろ30海里沖合の響灘の漁場に至り、樽流し漁で35キログラムのいかの漁獲を得たのち、機関室前の魚倉に海水を張ったものの、漁獲量が十分でなかったので船首側の魚倉は空倉にしたまま、帰港の途についた。
A受審人は、14時30分蓋井島灯台から321度(真方位、以下同じ。)21海里の地点から、針路を158度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で、折からの南東風を受けて海上白波のなか、船首が浮上して前方に見張りの死角を生じていたが、前方を見張るため舷側に出ればしぶきをかぶるので、操舵室右舷寄り舵輪の前に立ってレーダー画面を監視しながら進行した。
15時57分A受審人は、右舷船首4度1,200メートルに、約1.0ノットの極端な低速力で東進しながら揚縄作業に従事していた旭丸を視認できる状況になったが、海面反射が強かったものの、レーダーの監視のみに頼り、船首を左右に振るなどして、船首浮上によって生じた前方の死角を補う見張りを行わず、これに気づかないまま続航した。
1559A受審人は、旭丸と方位が変わらないまま衝突のおそれがある態勢で400メートルに接近したとき、同船を視認して動静を監視するなり、同船の船内状況を双眼鏡で観察すれば、旭丸は自船の右舷船首の前路付近に停滞して相対方位が変わらずその速力が極端に遅いこと、又は、形象物がなくとも何らかの作業に従事していることは十分に把握でき、機関を一杯に駆動しての通常の航行状態でなく、操船の性能上自船よりはるかに劣る状態に置かれていることを十分に理解できる状況にあったが、依然として前方の死角を補う見張りを行わなかったので、これに気づかず、速やかに右転するなど、旭丸と衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、16時00分蓋井島灯台から260度6.5海里の地点において、海洋丸は原針路・原速力のまま、その船首が旭丸の左舷船尾に後方から68度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力5の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近には白波があった。
また、旭丸は、雑漁業に従事するFRP製漁船で、有効な音響信号を発する手段を講じないまま、B受審人が息子の甲板員と2人で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、ふぐ延縄漁操業のため、同日03時山口県川棚漁港を発し、05時蓋井島西方5海里ばかりに至り、西に向けて投縄を始めた。
B受審人は、投縄終了後しばらく休憩をとったのち、07時00分波津港第1防波堤灯台から336度12.5海里の地点から揚縄にかかり、漁労中を示す形象物を表示せず、針路をほぼ090度に定め、機関を毎分700回転の中立運転にかけ、時折クラッチを入れて揚縄の状態を見ながら約1.0ノットの対地平均揚縄速力で進行した。
B受審人はラインホーラーにあたりながら漁獲物と餌(えさ)を釣針から取外し、甲板員はラインホーラーの運転を調整し、約10分かけて一鉢を揚げ終わる度に、周囲を見回しながら作業を続けていたものの、当時はいつもの鰯(いわし)でなく、身の固い飛び魚を餌に使用していたので、作業に力を入れてこれに熱中していたところ、15時57分左舷船尾72度1,200メートルから衝突のおそれがある態勢で来航する海洋丸を視認できる状況になったが、揚縄作業に気をとられてこれに気づかず、同船はその後も避航の気配を示さないまま接近していたものの、揚縄作業を一時中断し、機関のクラッチを入れて前方に移動するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま作業を続けているうち、旭丸は原針路・原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海洋丸は船首部に破口を生じたが、のち修理され、旭丸は左舷後部が圧壊し、しばらく浮上していたものの、その場で右舷側から転覆したが、僚船の支援で川棚漁港まで運ばれ、のち廃船処分にされ、B受審人と甲板員は海洋丸に移って難を逃れ、のち同じく僚船によって川棚漁港に運ばれた。

(原因)
本件衝突は、九州北岸響灘において、漁場から全速力で帰港のため南下していた海洋丸と、鼓形形象物を掲げないで東進しながら揚縄作業に従事していた旭丸が衝突のおそれがある態勢で互いに接近した際、海洋丸が、見張り不十分で、前路付近を極端な低速力で進行していた旭丸と衝突を避けるための措置をとらなかったことよって発生したが、旭丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、白波の発生していた響灘において、船首浮上により前方に見張りの死角を生じたまま航行する場合、レーダーによる見張りだけでは海面反射などで小さな目標を見逃すおそれが強いから、船首を左右に振るなど、前方の死角を補う見張りをすべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、波しぶきを避けることに気をとられ、レーダー監視による見張りだけに頼り、前方の死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、右舷船首方に衝突のおそれがある態勢で接近していた旭丸に気づかないまま進行して衝突を招き、海洋丸の船首外板に破口を生じさせたほか、旭丸の左舷後部を圧壊させて転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は響灘の漁場において揚縄に従事する場合、付近は漁場に往来する漁船の通航路でもあるから、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、揚縄作業に熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷正横方に衝突のおそれがある態勢で来航していた海洋丸に気づかないまま進行して衝突を招き、前示の損傷と転覆を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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