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1998年(平成10年)

平成10年横審第12号
    件名
引船よし丸引船列遊漁船第五新さくら丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、半間俊士、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:よし丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五新さくら丸船長 海技免状:一級小型船操縦士
    指定海難関係人

    損害
台船…左舷船尾端の外板に凹損
さくら丸…左舷船首部外板及び船首船倉に破損、釣客1人が左肋骨骨折、同1人が左頚部切創及び右胸背部挫傷、同1人が左肋骨骨折及び左血胸

    原因
よし丸引船列…法定灯火不表示、見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
さくら丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、よし丸引船列が、被引台船に法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことによって発生したが、第五新さくら丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月8日21時15分
京浜港川崎区池上運河
2 船舶の要目
船種船名 引船よし丸 台船関東1600号
総トン数 19トン
載貨重量 1,812トン
全長 19.20メートル 50.00メートル
幅 16.00メートル
深さ 3.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 257キロワット
船種船名 遊漁船第五新さくら丸
総トン数 12トン
全長 17.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 330キロワット
3 事実の経過
よし丸は、主として東京湾内の名港間において曳航(えいこう)作業に従事する鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首尾とも0.50メートルの等喫水となった空倉の鋼製台船関東1600号(以下「台船」という。)を船尾に曳航し、船首1.10メートル、船尾1.60メートルの喫水をもって、平成9年8月8日17時00分京浜港東京区の石川島播磨重工業株式会社豊州工場岸壁を発し、台船の係留予定地である同港川崎区池上運河西岸にある日本鋼管製鉄所前の岸壁に向かった。
発航後、A受審人は、曳航索の長さを約50メートルに調整し、よし丸の船尾から台船の船尾までの距離を約100メートルの引船列としたうえ、単独で操船に当たり、途中18時39分に日没となったとき、よし丸にマスト灯、舷灯、船尾灯及び引き船灯を表示したほか、マスト頂部に回転灯を表示し、船体中央付近にある煙突後部に設置した300ワットの作業灯を点灯して台船を照射するようにしたが、係留予定地まで短時間の航行であるから大丈夫と思い、曳航している台船に舷灯及び船尾灯の法定灯火を表示せず、無灯火の状態で曳航を続けた。
A受審人は、東京湾を南下したのち川崎航路を経由して京浜運河に入り、20時55分少し過ぎ機関員を台船に移乗させたのち、池上運河内の操船に備えて曳航索を30メートルに縮め、同時58分半池上信号所から342度(真方位、以下同じ。)640メートルの池上運河南口に達したとき、針路を355度に定め、機関を極微速力前進にかけ、2.0ノットの曳航速力で手動操舵により同運河を北上した。
21時11分半A受審人は、池上信号所から349度1,450メートルの地点に達したとき、船橋前部に取り付けてある作業灯を点灯し、日本鋼管製鉄所の岸壁に台船を着岸させるため左回頭を始め、このころ、周囲を見渡したが池上運河内を航行する他船を認めなかった。
21時13分少し過ぎA受審人は、池上信号所から349度1,560メートルの地点で、よし丸の船首が265度に向いたとき、ほぼ左舷正横920メートルに第五新さくら丸(以下「さくら丸」という。)が池上運河南口に達して同運河を北上し始め、その後台船と衝突のおそれがある態勢で接近していたが、同運河内を航行する他船はいないものと思い、周囲の見張りが不十分となり、さくら丸に気付かず、注意喚起信号を行わないまま着岸作業を続けた。
21時15分少し前A受審人は、よし丸が反転して175度を向いたとき、左舷前方に北上するさくら丸を初認し、同船が台船に向首接近していたが、どうすることもできず、21時15分池上信号所から350度1,560メートルの地点において、よし丸引船列の台船が、265度に向首し、ほぼ停止していたとき、その左舷船尾端にさくら丸の左舷船首が後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、さくら丸は、FRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客4人を乗せ、船首0.50メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日17時30分池上運河北方の桜堀運河北西端にある船だまりを発し、中ノ瀬航路の釣場に向かい、目的の釣場に至ってしばらく遊漁を行ったのち、20時30分ごろ富津航路北口付近を発進し、機関を回転数毎分1,900にかけ、19.0ノットの対地速力で帰途に就いた。
21時10分少し過ぎB受審人は、扇島と東扇島ふ頭との間の狭い水路の通航に備えて対地速力を18.0ノットに下げ、同時11分半池上信号所から103度140メートルの地点に達したとき、針路を334度に定め、京浜運河を横断するため機関を半速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力で手動操舵とし、池上運河に向けて進行した。
ところで、B受審人は、平素、池上運河を航行する際、日本鋼管製鉄所前の岸壁に数隻の台船が係留されているのを認めていた。
B受審人は、京浜運河を横断中、21時12分半池上信号所から349度400メートルの地点に達したとき、右舷船首6度1,100メートルの、池上運河奥の日本鋼管製鉄所前の岸壁付近によし丸の灯火を初認したものの、曳航されている台船を認めないまま、同時13分わずか過ぎ同運河南口付近において、針路を355度に転じ、釣客を早く帰そうとして機関回転数をわずかばかり上げ、16.0ノットの対地速力とし、夜間の航行であったにもかかわらず大幅に減速して安全な速力としないまま続航した。
転針後、B受審人は、前路に認めたよし丸の灯火が引船列を表していることを認めることができ、台船を視認することができないもののよし丸が引船列を構成していることが分かる状況であったが、台船がよし丸の作業灯の照射範囲から外れていたこともあって、作業船が単独で着岸作業にかかっているものと思い、速力を減じて注意深くよし丸の表示する灯火を確かめるなどの動静監視を十分に行うことなく、台船が池上運河の中央部で着岸態勢になっていることに気付かず、台船と衝突のおそれがある態勢のまま進行した。
B受審人は、行きあしを止めるなど台船との衝突を避けるための措置をとらずに続航中、21時15分わずか前船首少し左によし丸の灯火を視認したのち、船首方向に目を転じたとき、台船の船体を初認し、直ちに右舵一杯をとって機関を中立としたものの、及ばず、船首が055度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、台船は左舷船尾端の外板に凹損を生じ、さくら丸は左舷船首部外板及び船首船倉に破損を生じたが、のち修理され、釣客Cが左肋骨骨折で12日間の、同Dが左頚部切創、右胸背部挫傷で11日間のそれぞれ通院加療を受け、同Eが左肋骨骨折、左血胸で3日間の入院治療を受けた。

(原因)
本件衝突は、夜間、京浜港川崎区池上運河において、着岸のため回頭中のよし丸引船列が、被引台船に法定灯火を表示せず無灯火の状態で航行したばかりか、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことによって発生したが、さくら丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、京浜港川崎区池上運河において、左回頭して台船の着岸作業を行う場合、被引台船に法定灯火を表示せず無灯火の状態にしていたのであるから、同運河内を航行する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は同運河内を航行する他船はいないものと思い、周囲の見張りを怠った職務上の過失により、さくら丸の接近に気付かず、同船との衝突を招き、台船の左舷船尾端に凹損を、さくら丸の左舷船首部に損傷を生じさせたうえ、さくら丸釣客3名に骨折等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、京浜港川崎区池上運河において、遊漁を終え桜堀運河奥の船だまりに向けで帰航中、前路によし丸の灯火を認めた場合、池上運河内には台船が係留されているのを知っていたのであるから、速力を減じて注意深くよし丸の表示する灯火を確かめるなど動静を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は作業船が単独で着岸作業にかかっているものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、よし丸が台船を曳航して引船列をなしていることに気付かず、行きあしを止めるなど台船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の両船の損傷及びさくら丸の釣客に傷を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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