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1998年(平成10年)

平成9年門審第107号
    件名
瀬渡船第六玄王丸プレジャーボート大漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、吉川進、西山烝一
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:第六玄王丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:大漁丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
玄王丸…左舷船首外板に損傷
大漁丸…左舷船首の錨巻揚機が脱落

    原因
大漁丸…灯火不表示、注意換起信号不履行

    主文
本件衝突は、大漁丸が、錨泊中であることを示す灯火を表示しなかったばかりか、接近してきた第六玄王丸に対して、注意喚起信号を行わなかったことによって発生したものである。
受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月29日04時10分
福岡県白島の男島北西方沖
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船第六玄王丸 プレジャーボート大漁丸
総トン数 4.9トン
全長 13.60メートル 11.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 279キロワット 61キロワット
3 事実の経過
第六玄王丸(以下「玄王丸」という。)は、主として福岡県白島付近に釣人の瀬渡しに従事するFRP製旅客船で、A受審が1人で乗り組み、釣人9人を乗せ、瀬渡し目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成9年3月29日03時40分関門港若松区第4区北湊泊地の定係岸壁を発し、白島の女島に向かった。
発航時、A受審人は、白色全周灯、舷灯及び船尾灯を表示し、釣人全員をオーニングのある船尾甲板に座らせ、単独で操舵と見張りに当たり、04時05分女島の71メートル頂の三角点から268度(真方位、以下同じ。)370メートルの同島北西端に着いて釣人1人を降ろし、更に、同三角点から322度200メートルにあたる、鷹(たか)の巣と称する小島に釣人1人を降ろしたのち、04時08分少し前、次に瀬渡しするカベ島に向かうため、針路を蓋井島灯台に向く033度に定め、機関を全速力前進にかけ、24.0ノットの対地速力で、操縦席に腰かけて手動操舵により進行した。
A受審人は、発航当時からレーダーを0.25海里レンジとして作動していたものの、当時、視界が良く、島岸近くで船舶を見かけたことも、障害となるものもなかったことから、レーダーを見ないまま、専ら目視による見張りに当たり、04時09分男島の128メートル頂の三角点(以下「男島三角点」という。)から284度980メートルの地点に至ったとき、右舷船首5度740メートルの同島北西岸近くに、大漁丸が錨泊していたが、同船が無灯火であったので、これを認めないまま航行した。
04時09分半少し過ぎ、A受審人は、男島三角点から310度940メートルの地点に達したとき、白島石油備蓄基地のシーバース灯の明かりでカベ島の島影が見えたので、針路を同島の南側に向く052度に転じたところ、大漁丸に向首して180メートルの距離に接近したが、依然、同船に気付かないまま続航中、04時10分男島三角点から321度920メートルの地点で、玄王丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が大漁丸の左舷船首の錨巻揚機にほぼ平行に衝突した。
当時、天候は小雨で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
A受審人は、衝撃を感じて機関を微速力に減じ、流木にでも当たったものかと思い、回頭して操舵室の屋根に備えた2個の探照灯で付近の海面を照らしたところ、大漁丸が灯火を点灯したのを認め、初めて大漁丸に衝突したことを知り、互いに損傷状況等を確認したのち海上保安部に連絡するなどの事後措置をとった。
また、大漁丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同月28日15時00分関門港若松区第3区戸畑新川の定係岸壁を発し、男島の北北西方沖合の釣場に向かった。
B受審人は、16時00分男島の北北西方1.5海里の釣場に着き、たい釣りをしたものの釣果が得られなかったので、17時40分同地を離れ、18時ごろ前示衝突地点に至り、直径20ミリメートルの合成繊維製ロープの付いた、約8キログラムの四爪錨を右舷船首から投じ、同ロープを25メートル延ばし、船首をカベ島と柱島のほぼ中間にあたる、060度を向いて錨泊した。
そしてB受審人は、甲板上3.08メートルの高さにある白色全周灯1個とその下方0.80メートルにある両色灯を表示し、更に、前部甲板上2.10メートルの高さにある各3キロワットの集魚灯2個と後部甲板上2.33メートルの高さにある3キロワットの集魚灯1個をそれぞれ点灯し、竿を取り出してあじ釣りを開始し、30匹釣れたところで霧雨が降り出したので釣りを中止して休息することにしたが、島岸近くを航行する船舶はいないから大丈夫と思い、機関停止後、電源のバッテリーが過放電するのを嫌い、全ての灯火を消灯し、他の船舶との衝突の危険に注意せず、他の船舶に対して余裕をもって自船の存在や錨泊中であることを示す灯火を表示することも、また、緊急事態に対応できるように周囲の見張りを続けることもなく、翌29日01時00分操舵室内に横たわって仮眠に就いた。
こうして、B受審人は、04時09分船首が232度を向いていたとき、左舷船首14度740メートルのところから玄王丸が接近し、同時09分半少し過ぎ同船が正船首180メートルのところから右転し、自船に向首して接近してきたが、依然、休息していてこれに気付かず、錨泊中であることを示す灯火を表示しないまま、発光信号などによる注意喚起信号を行わないでいるうち、大漁丸は、船首を232度に向いて、前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝撃で起きて灯火を点灯し、近くに停船している玄王丸と衝突したことを知り、損傷状況等を確かめるなどの事後措置をとった。
衝突の結果、玄王丸は、左舷船首外板に損傷を生じ、大漁丸は、左舷船首の錨巻揚機が脱落したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、福岡県白島の男島北西方沖合において、錨泊中の大漁丸が、錨泊中であることを示す灯火を表示しなかったばかりか、接近してきた玄王丸に対して、発光信号などによる注意喚起信号を行わなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、福岡県白島の男島北西方沖合において、錨泊する場合、他の船舶との衝突の危険に注意して、自船の存在とその状態を十分余裕をもって他の船舶に認められるよう、錨泊中であることを示す灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、島岸近くを航行する船舶はいないから大丈夫と思い、錨泊中であることを示す灯火を表示しなかった職務上の過失により、接近する玄王丸に自船の存在を認めさせられないまま、同船との衝突を招き、玄王丸の左舷船首外板に損傷及び大漁丸の左舷船首に破損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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