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1998年(平成10年)

平成9年横審第65号
    件名
遊漁船第十一とび島丸漁船清丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、長浜義昭、西村敏和
    理事官
西田克史

    受審人
A 職名:第十一とび島丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
とび島丸…船首部に擦過傷など
清丸…船体中央部を切断されてのち廃船、船長が左肋骨骨折など、同乗者1人が顔面裂傷

    原因
清丸…法定灯火不表示、見張り不十分、注意喚起信号不覆行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
とび島丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、清丸が、法定灯火を表示しないで漁ろうに従事したばかりか、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第十一とび島丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月20日05時41分
伊豆半島三ツ石埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第十一とび島丸 漁船清丸
総トン数 19トン 0.5トン
全長 21.28メートル 5.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 731キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
第十一とび島丸(以下「とび島丸」という。)は、操舵室上部に頂部操縦席を配置したFRP製遊漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、釣り客11人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.76メートル船尾0.96メートルの喫水をもって、平成8年11月20日04時25分静岡県土肥(とい)港を発し、同県石廊埼東方の横根付近の釣り場に向かった。
A受審人は、発航操船に続いて船橋当直に就き、法定の灯火を表示して、機関を回転数毎分1,780にかけ、17.5ノットの対地速力で、伊豆半島西岸をこれに沿って手動操舵により南下し、04時40分米埼を替わったところで、甲板員と船橋当直を交替したが、同甲板員が、05時14分波勝岬の西方0.9海里の地点において、小島などが散在する三ツ石埼の沖合約1海里を迂回する進路として間もなく、腹痛を催すようになったので、同時20分同岬の南方1.5海里の地点において、同甲板員と交替し、再び単独船橋当直に就いた。
ところで、三ツ石埼の南西方には、河伍(かわご)島、牛根(うしね)島などの小島や、更にその沖に洗岩であるサク根が存在し、その周囲には岩場が広がったいせえびなどの刺網漁業などが盛んな好漁場となっており、河伍、牛根両島間の水路幅は約120メートルと狭いうえ、付近には航路標識や航海の目標となる陸上の灯火などもなかったが、A受審人は、これまで釣り場を往復する際、同水路を航行すると航程の短縮になることから、同水路を頻繁に航行していた。
A受審人は、折からの風浪により船体の動揺が大きくなったので、釣り客の仮眠を妨げないよう、陸岸に接航する進路をとることにし、レーダーとGPSプロッターとを活用して徐々に左転しながら陸岸に近づき、レーダーで河伍島と牛根島の映像を確認したうえで、05時37分石廊埼灯台から298.5度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点において、針路を両島の中間に向く136度に定め、手動操舵により進行したが、このころ、レーダーは、海面反射の影響が大きくなっていたので、アンチクラッタをかけるなどの調整を行っていたことから、両島のレーダー映像は表示されていたものの、小型船の映像が映りにくい画面を見ながら続航した。
A受審人は、操舵室左舷側の椅子に腰を掛け、レーダーを併用して見張りを行っていたが、その姿勢で見張りを行うと、船首が浮き上がって船首張出甲板前端が水平線上にあり、右舷船首に約7度及び左舷船首に約2度の範囲にそれぞれ死角を生じる状態となっていたので、両島を目視確認するため、船首を左右に振って船首死角を補う見張りを行ったものの、日出前で周囲が暗くて両島を視認することができなかった。
このため、不安を感じたA受審人は、船首死角を少なくして前路の見張りが十分に行えるよう、05時39分石廊埼灯台から295.5度3.3海里の地点において、機関回転数毎分1,400の13.0ノットの対地速力に減じ、船首張出甲板前端が水平線下になるようにして船首死角を100ないし150メートルに減少させて進行したところ、間もなく周囲が少し明るくなって、両島の島影がうっすらと視認できるようになったが、前路に他船の灯火を認めなかったので、前路に他船はいないものと思い、05時40分少し過ぎ河伍島と牛根島の手前約300メートルにあたる石廊埼灯台から293.5度3.0海里の地点において、再び17.5ノットに増速し、大きな船首死角を生じた状態で進行した。
05時40分半わずか過ぎA受審人は、牛根島東北東方の正船首200メートルのところに、法定の灯火を表示せず、とび島丸の前路をわずかに左方に移動しながら揚網中の清丸が存在し、乾電池式強力ライト(以下「強力ライト」という。)の実光は視認できないものの、同ライトで照射された清丸左舷船首部の揚網用ローラを視認し得る状況となったが、船首死角に入って視認することができず、清丸の存在にも、その後同船に衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気付かなかった。
こうして、A受審人は、清丸を避けることなく進行し、05時41分わずか前、同船の揚網用ローラが左舷船首死角の左方に替わったところで、同ローラに照射された明かりを認めたものの、依然として清丸の存在に気付かず、05時41分石廊埼灯台から292度2.8海里の地点において、とび島丸は、原針路、原速力のまま、その船首が清丸の左舷中央部に後方から80度の角度で衝突し、乗り切った。
A受審人は、衝撃を感じて衝突を知り、直ちに反転して救助に当たった。
当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、視界は良好で、日出時刻は06時22分であった。
また、清丸は、いせえび刺網漁業に従事する和船型FRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首・船尾とも0.3メートルの喫水をもって、同日05時30分静岡県三坂漁港を発し、前示衝突地点付近の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、同漁業に従事する場合、前日夕刻に施網して翌早朝に揚網し、帰港後にいせえびを網から外して、07時までに所属漁業協同組合に出荷することにしていたので、夜間航行することがあったが、清丸が、小型遊漁兼用船として船舶検査証書の交付を受け、日没から日出までの間の航行を禁止する旨の航行上の条件が付されていることを知っていたものの、薄明のころは出漁しても構わないだろうと軽く考え、同船に法定の灯火を設備していなかった。
05時35分B受審人は、同漁場に到着し、前日夕刻に河伍島と牛根島との間に、約20メートルの間隔で東西方向に施網した長さ約90メートル高さ約1.5メートルの刺網5網を、風下側に当たる牛根島寄りの網から順次揚網しようとしたが、同網が牛根島の近くに施網されており、周囲がまだ暗くて同島が十分に視認できなかったことから、両島の中間付近の網から揚網を始めた。
B受審人は、船首を北東風に立てて056度に向け、同乗者が、左舷船首部に設置された揚網機を操作して揚網に当たり、自らは、船尾左舷側に腰を下ろして、網の方向を確認するため単1乾電池6個を使用する強力ライトを右手に持ち、海面上からの高さ約1メートルの揚網機頂部のアルミニウム製ローラを照射し、左手で時折船外機を操作して船位を保持しながら、05時39分前示衝突地点付近に施網した2網目の西端から揚網に取りかかったとき、左舷船尾80度900メートルのところに、とび島丸のマスト灯及び両げん灯を視認し得る状況となり、その後も同船が自船に向首したまま接近していたが、網の方向を確認しながら船位を保持することにのみ気をとられ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、B受審人は、とび島丸に対し、ライトを振って注意を喚起することも、網をローラから外して衝突を避けるための措置もとらないまま揚網を続け、05時41分わずか前、約30メートル揚網したところで、左舷正横至近に迫ったとび島丸の船影を初めて認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、とび島丸は、船首部に擦過傷などを生じたがのち修理され、清丸は、船体中央部を切断されてのち廃船となり、B受審人は、1箇月の加療を要する左肋骨骨折などを負い、同乗者は、1週間の加療を要する顔面裂傷などを負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、伊豆半島三ツ石埼沖合において、漁ろう中の清丸が、法定の灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、とび島丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、伊豆半島三ツ石埼沖合において、法定の灯火を表示しないで漁ろうに従事する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、網の方向を確認しながら船位を保持することに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、とび島丸の接近に気付かず、注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもできないまま揚網を続けて衝突を招き、とび島丸の船首部に擦過傷などを、清丸の船体中央部を大破するなどの損傷をそれぞれ生じさせ、自身の左肋骨を骨折し、同乗者に顔面裂傷などを負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、伊豆半島三ツ石埼沖合において、大きな船首死角を生じた状態で、漁船が操業している可能性のある狭い水路を航行する場合、レーダーでは海面反射の影響で小型船が探知しにくい状況であったから、前路に存在する他船を見落とさないよう、船首死角が生じない速力として、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一旦速力を減じて船首死角を小さくし、前路の見通しをよくして島影を確認したとき、他船の灯火を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、再び増速して大きな船首死角を生じた状態のまま進行し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漁ろう中の清丸の揚網機に照射された明かりに気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法案5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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