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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年1月13日10時10分 宮城県気仙沼港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十五新栄丸 総トン数 289トン 登録長 43.44メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 698キロワット 3 事実の経過 第三十五新栄丸は、可変ピッチプロペラを装備した船体中央部に操舵室を有する鮪延縄漁業に従事する鋼製魚船で、出漁準備のために気仙沼導灯(後灯)(以下「導灯」という。)から289度(真方位、以下同じ。)1,450メートルのところに位置する気仙召港港町の仕込み用岸壁(マイナス4メートル岸壁)に右舷着けで着岸中のところ、食糧、飲料水、燃料及び餌などの積込み完了後、A受審人ほか12人の乗組員及び主機回転計の調整にあたる技術員1人が乗り組み、隣接する出航用岸壁(マイナス6メートル岸壁)に船尾着けの転係を兼ねて主機回転計調整の目的で、平成8年1月13日10時00分仕込み用岸壁を発し、直ちに船橋及び機関室の主機回転計の調整を行う予定で、港外に向かう進路で港奥を南下した。 A受審人は、離岸時から単独で操舵・操船にあたり、10時04分導灯から292度1,270メートルの地点で、針路を166度に定め、機関を回転数毎分330にかけて可変ピッチプロペラ翼角(以下「翼角」という。)15度とし、約8ノットの対地速力でほぼ港内中央部を進行した。同時05分翼角操作がフォロー式のダイヤルからノンフォロー式の押しボタンに切り替えられ、その後約2分間主機回転計の調整作業が行われた。 ところで、翼角操作を押しボタンから通常航海中に使用するダイヤル式に切り替える際に、いったん翼角を0度に戻して行う必要があった。その際、航行中に翼角を0度にしたとき、可変ピッチプロペラのブレードが急激なブレーキ作用を招き、不測の船首回頭現象を速力に相応して生じるおそれがあった。 こうして、回転計の調整後、10時07分少し過ぎA受審人は、導灯から254度1,020メートルの地点で、舵を中央に戻して翼角操作方法を押しボタン式からダイヤル式に切り替えるために翼角を0度にして前進惰力で続航中、同時08分半導灯から245度1,030メートルの地点に達したころ、翼角を0度にした状態であったので急速な減速効果とともに船首が右方に振れ始め、急いで左舵をとったが、十分な舵効を得られないまま、右舷前方の岸壁に接近する状況となった。 ところが、A受審人は、速やかに可変ピッチプロペラの翼角を上げて十分な舵効を得るかあるいは機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの適切な操船を行うことなく、前進惰力状態のまま転舵によって舵効を得ようとして、更に左舵をとったが効なく、10時10分導灯から240度1,100メートルの魚市場岸壁に、203度を向いたとき、その右舷船首が同岸壁面に48度の角度で約3ノットの前進行きあしで衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 衝突の結果、船首外板に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件岸壁衝突は、気仙沼港内において、機関回転計調整後の翼角操作切り替えのため翼角を0度にして惰力で前進中、急に船首が振れ同時に舵効を得られない状態に陥った際、操船が不適切で、速やかに船首振れによる岸壁接近を阻止する措置がとられず、岸壁に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、狭い港内で機関回転計調整後に翼角操作切り替えのため翼角を0度にして惰力で前進中、急に船首が振れ同時に十分な舵効が得られない状態に陥った場合、船首振れによる岸壁接近を阻止するよう、速やかに可変ピッチプロペラの翼角を上げて十分な舵効を得るなどの適切な操船を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前進惰力状態のまま転舵によって舵効を得ようとして、速やかに可変ピッチプロペラの翼角を上げて十分な舵効を得るなどの適切な操船を行わなかった職務上の過失により、岸壁に向首して惰力のまま進行して岸壁衝突を招き、船首外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。 |