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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月25日00時45分 南西諸島西之表港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十三福栄丸 総トン数 18トン 登録長 18.75メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 180 3 事実の経過 第三十三福栄丸(以下「福栄丸」という。)は、2基2軸2舵を備えたFRP製旋(まき)網漁業附属船(灯船)で、A受審人が1人で乗り組み、平成9年4月24日12時50分鹿児島県内之浦漁港を他の僚船3隻とともに発し、18時ごろ南西諸島馬毛島北西沖合3海里の漁場に至り、魚群探索を続けたが、適当な魚群に出会わなかったため、網船の漁労長からの指示で僚船それぞれが種子島西岸の西之表港に寄港して休息をとることとなり、船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、23時30分同漁場を出発し、同港に向かった。 福栄丸は、主として南西諸島の海域で月に約25日間連続して操業を行い、主たる根拠地の内之浦漁港には、月に一度漁網の修理などのために帰るだけで、操業と操業の合間には、南西諸島の諸港に寄港して食料、飲料水、燃料などの積込みを行っていた。したがって、A受審人にとっての西之表港は、過去10数年に及ぶ操業の間に、度々入港していた馴染(なじ)みの寄港地であって、その港湾事情については十分に把握されていた。 A受審人は、常々、西之表港の入港に際しては、沖防波堤と洲之崎鼻間の北側の入口から入航していたが、網船がたまたま同入口付近に港湾工事で設置されたケーソンに接触する事故があったため、大事をとって光達距離6.8キロメートルの黄色点滅灯付工事用標識灯柱が設置された沖防波堤南端と光達距離12海里の赤色等明暗灯付西之表港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)が設置された南防波堤北端間の幅員100メートルの防波堤入口から港内に入航することとし、翌25日00時27分南防波堤灯台から300度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点に達したとき、針路を同灯台にほぼ向首する120度に定めて自動操舵とし、機関を毎分1,600回転にかけ、8.0ノットの対地速力で舵輪の前で高さ60センチメートルのいすに腰掛けて前方の見張りにあたりながら進行した。 00時42分A受審人は、沖防波堤南端から740メートル手前の地点に至ったとき、防波堤入口通過に備えて手動操舵に切り換えたところ、それまで張り詰めた神経が緩んだのか眠気を覚えたが、いすから立ち上がって眠気を振り払うなど、居眠り運航を防止する措置をとらず、いすに腰掛けたまま続航中、いつしか居眠りに陥ってうとうとしているうち、同時45分僅(わず)か前真正面に迫った防波堤の黒い壁に気づき、機関のクラッチを後進に切り換えたが効なく、福栄丸は、00時45分南防波堤灯台から332度130メートルの地点で、南端から10メートル北方の沖防波堤に、原針路・原速力のまま、北側から61度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好で、当日の月齢は17.5であった。 防波堤衝突の結果、船首部が圧壊したが浸水はなく、のち修理された。
(原因) 本件防波堤衝突は、夜間、鹿児島県の西之表港において、港外から防波堤入口を通過して港内に入航しようとした際、居眠り運航の防止措置が不十分で、沖防波堤南端に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、鹿児島県の西之表港において、沖防波堤と南防波堤間の防波堤入口に港外から接近中、眠気を覚えた場合、いすから立ち上がって眠気を振り払うなど、居眠り運航の防止措置をとる注意義務があった。しかしながら、同受審人は、いすから立ち上がって眠気を振り払うなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、沖防波堤の南端に向首していることに気づかないまま進行して同防波堤の南端に衝突し、船首部を圧壊させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |