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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年7月7日08時30分 新潟県新潟港港外 2 船舶の要目 船種船名 交通船第七松栄丸
プレジャボート(船名なし) 総トン数 1.1トン 全長 3.65メートル 登録長
6.36メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 36キロワット 3 事実の経過 第七松栄丸(以下「松栄丸」という。)は、船外機付きのFRP製交通船で、新潟市西船見町沖合の護岸工事現場(以下「工事現場」という。)への作業用資機材の輸送業務に従事していたところ、A受審人が1人で乗り組み、次回より船長を務める予定の後任者(以下「後任者」という。)及び作業員1人を乗せ、後任者に水路事情を説明する目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成9年7月7日08時00分新潟港西区の柳島岸壁を発し、工事現場に向かった。 08時11分半A受審人は、新潟港西区西突堤灯台(以下「西突堤灯台」という。)から315度(真方位、以下同じ。)40メートルの地点で、針路を工事現場に向かう228度に定め、機関を半速力前進にかけて9.5ノットの速力で進行したのち、同時21分半機関を全速力前進にかけて13.0ノットの速力で右舷船尾の操縦席に腰掛けて操船にあたり、左舷方の海岸沿いに南下した。 08時25分A受審人は、西突堤灯台から229度2.4海里の地点で、船首方2,000メートルのところに手漕ぎのプレジャーボート(船名なし、以下「A号」という。)を初めて認め、漂泊して魚釣りをしていることが分かったので、もう少し近付いてからしっかり見るつもりで、船首部に腰掛けている後任者に工事現場に接近する際の目標となる左舷方の陸上建造物の説明を始めた。 08時29分A受審人は、正船首400メートルのところにA号を認めることができるようになり、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、左舷方を向いて引き続き後任者に陸上建造物を説明することに気を取られ、同船に対する動静監視を行わなかったので、これに気付かず、A号を避けないまま続航中、船首方からの叫び声を聞いた直後、08時30分西突堤灯台から228度3.5海里の地点において、松栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首がA号の左舷側中央部にほぼ直角に衝突して乗り切った。 当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 また、A号は、2本のオールを備えたFRP製プレジャーボートで、B指定海難関係人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同日05時30分新潟市関屋浜海水浴場の砂浜を発し、工事現場付近の釣り場に向かった。 ところで、B指定海難関係人は、A号で魚釣りをする際には、縦0.9メートル横1.2メートルの長方形キャンバスの長辺下部に長さ1メートル重さ10キログラムの鉄棒及び同上部に長さ1.2メートルのビニールパイプをそれぞれ取り付け、これに直径7ミリメートル長さ1メートルのロープを結んだ手造りのシーアンカーを海中に投じて漂泊しており、短時間に同シーアンカーを揚収したり同アンカーロープを解くことは容易にできたが、有効な音響信号を行うことができる手段を講じていなかった。 05時45分B指定海難関係人は、釣り場に到着したのち前示のシーアンカーを海中に投じてシーアンカーロープを右舷側中央部のオールのクラッチ部に結んで漂泊して魚釣りを開始し、風潮流によって流されるたびに同シーアンカーを揚収して潮昇りした。 08時27分B指定海難関係人は、前示衝突地点付近で船首を093度に向けて漂泊していたとき、左舷船首45度1,200メートルに松栄丸を初めて視認したが、その後動静監視を行わないまま魚釣りを続けた。 08時29分B指定海難関係人は、その方位がほとんど変わらないまま400メートルのところに松栄丸を認めることができるようになり、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、同船に対する動静監視を行わなかったので、これに気付かず、速やかにシーアンカーを揚収するか同アンカーロープを解くかして移動するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま魚釣り中、同時30分わずか前大きなエンジン音を聞いて振り向いたとき、左舷船首45度至近に同船の船首部を見て衝突の危険を感じ、「オーイ」と大声で叫びながら左舷側から海中に飛び込み、A号は、その反動で船首が138度に向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、松栄丸は、ほとんど損傷を生じなかったが、A号は、左舷側外板に破口を生じ、B指定海難関係人は、松栄丸に救助された。
(原因) 本件衝突は、新潟港港外において、海岸に沿って航行中の第七松栄丸が、動静監視不十分で、前路で漂泊しているプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、プレジャーボート(船名なし)が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為) A受審人は、新潟港港外において、海岸に沿って航行中、船首方に漂泊しているプレジャーボート(船名なし)を認めた場合、衝突するおそれがあるかどうか判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、左舷方を向いて後任者に陸上建造物を説明することに気を取られ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同プレジャーボートと衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、これを避けないまま進行して衝突を招き、同船の左舷側外板に破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、新潟港港外において、シーアンカーを投下して漂泊しながら魚釣り中、自船に向かって接近する第七松栄丸を認めた際、その後の同船に対する動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、他船を認めたときの動静監視の重要性について十分反省している点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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