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1998年(平成10年)

平成9年門審第105号
    件名
引船第六十勝丸引船列貨物船エバーチィアー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、畑中美秀、吉川進
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第六十勝丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
勝丸…右舷船首に凹損及び前部マスト等に曲損
エ号…左舷船首部に擦過傷

    原因
勝丸引船列…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
エ号…横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第六十勝丸引船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切るエバーチィアーの進路を避けなかったことによって発生したが、エバーチィアーが、第六十勝丸引船列が適切な動作をとっていないことが明らかになった際の衝突を避けるための動作が不十分であったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月13日00時40分
響灘
2 船舶の要目
船種船名 引船第六十勝丸 台船第三みつる号
総トン数 99トン 463トン
全長 28.518メートル
登録長 35.00メートル
幅 15.00メートル
深さ 2.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 引船昇竜丸
総トン数 19.97トン
登録長 11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット
船種船名 貨物船エバーチィアー
総トン数 6,798トン
全長 129.29メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 4,413キロワット
3 事実の経過
第六十勝丸(以下「勝丸」という。)は、主として港湾建設作業に従事する引船で、A受審人、B及びC両指定海難関係人ほか1人が乗り組み、クレーンを装備した船首尾とも0.7メートルの喫水となった非自航の台船第三みつる号(以下「台船」という。)を船尾に引き、更に船首1.0メートル船尾2.0メートルとなった引船昇竜丸を台船の船尾に引き、船首1.7メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成8年10月10日09時00分新潟県二見港を発し、長崎県脇岬港に向かった。
A受審人は、曳(えい)索として先端のアイを勝丸後部の曳航フックにかけた長さ96メートルの合成繊維製のロープに、台船の船首部両舷に設置された係船用の各ビットに係止した長さ25メートルの2本の同製ロープの各先端を合わせて連結したものを用い、係留索を用いて昇竜丸の船首を台船の船尾に固縛して勝丸の船尾から昇竜丸の後端までの距離が約162メートルの引船列とし、日没時に勝丸にはマスト灯2個のところ3個連掲したほか、法定の灯火及び台船を照らす照射灯に加え黄色回転灯1個を、台船には両舷船首尾部にある4箇所の係船用ビットの甲板上の高さ0.5メートルの位置に各1個の乾電池式簡易黄色点滅灯をそれぞれ、点灯したが、昇竜丸には灯火を何も表示しなかった。
また、A受審人は、航海中に昇竜丸の機関の整備を行うこととし、機関の海技免状を併有する勝丸の一等航海士を、居住設備があり、昇竜丸と往来することができる台船に乗船させて同作業に当たらせ、台船のクレーン玉掛け作業員であるB及びC両指定海難関係人を勝丸に乗船させ、勝丸の船橋当直を、単独のA受審人とB及びC両指定海難関係人2人の組とで、6時間交替制としていた。
越えて12日20時00分A受審人は、角島灯台から320度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で、針路を230度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.8ノットの曳航速力で、自動操舵により進行し、13日00時00分、筑前大島灯台から357度10.4海里の地点で、昇橋したB及びC両指定海難関係人と船橋当直を交替することとしたが、両人が二見港を出港してから既に5回の昼夜の船橋当直に入直し、無難に当直をこなしていたので大丈夫と思い、関門海峡の沖合で多数の船舶の通航が予想される海域に差しかかっていたものの、具体的な見張り方法及び他船が接近したときの報告について指示することなく、降橋して船長室で休息した。
当直を交替したB及びC両指定海難関係人は、操舵室の舵輪の後方に置かれたいすに腰掛け、引き継いだ針路、速力で、自動操舵により進行し、00時30分筑前大島灯台から340度8.8海里の地点に達したとき、右舷船首23度2.0海里のところに、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたエバーチィアー(以下「エ号」という。)の白、白、紅3灯を視認できる状況となったが、右舷船首方の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、A受審人にエ号の接近を報告することなく、同号の進路を避けないまま続航中、同時34分エ号が右転しながら速力を減じて次第に船首方に接近し始めたが、これにも依然として気付かず、同時40分わずか前B指定海難関係人が、右舷方を見たとき、至近に迫ったエ号の船影を初めて認め、C指定海難関係人が汽笛を吹鳴したもののどうすることもできず、00時40分筑前大島灯台から333度8.5海里の地点において、勝丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首がエ号の左舷船首部に後方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、吹鳴された汽笛を聞き、急いで昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、エ号は、船尾船橋型貨物船で、船長D、二等航海士Eほか中華人民共和国人25人が乗り組み、コンテナ77個約940トンを載せ、船首4.4メートル船尾6.6メートルの喫水をもって、同月10日22時(同国標準時)同国青島港を発し、京浜港横浜区に向かった。
越えて12日23時50分E二等航海士は、筑前大島灯台から303度14.0海里の地点で昇橋し、前直の三等航海士と当直を交替し、操舵手を見張りに就け、針路を088度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
E二等航海士は13日00時25分、筑前大島灯台から323度9.5海里の地点に達したとき、左舷船首15度3.4海里のところに台船を引いた勝丸の白、白、白、緑4灯及び台船の灯火を初認し、引き続き動静を監視していたところ、その方位に明確な変化がないことから、勝丸引船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを認め、VHF無線電話で同引船列を呼び出したが応答がなく、汽笛と発光による警告信号を行った。
00時30分Eニ等航海士は、筑前大島灯台から327度9.1海里の地点に達したとき、左舷船首15度2.0海里のところに、勝丸引船列が衝突のおそれを生じたまま接近し、同時34分同引船列が避航動作をとっていないことが明らかになったので、同引船列の長さも考慮して自船の方から避航動作をとることとし、右舵一杯をとったところ、同引船列の方位が変わり始め、そのままの速力を保って同引船列を左舷方に見て替わせる状況となったが、接近する同引船列に不安を感じ、同時36分機関を微速力に減じ、続いて同時38分機関を停止したところ、同引船列の前路で停止する態勢となり、エ号は、180度を向首してほぼ停止したとき、前示のとおり衝突した。
D船長は、衝突の衝撃を感じて昇橋し、事後の措置に当たった。
衝突の結果、勝丸は右舷船首に凹損及び前部マスト等に曲損を生じたが、のち修理され、エ号は左舷船首部に擦過傷を生じた。

(原因)
本件衝突は、夜間、響灘において、勝丸引船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切るエ号の進路を避けなかったことによって発生したが、エ号が、勝丸引船列が適切な動作をとっていないことが明らかになった際の衝突を避けるための動作が不十分であったことも一因をなすものである。
勝丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対して具体的な見張り方法及び他船が接近したときの報告についての指示が十分でなかったことと、当直者が、見張りを十分に行わなかったこと及びエ号の接近を船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、新潟県二見港から長崎県脇岬港に向け響灘を西行中、無資格者に船橋当直を任せる場合、具体的な見張り方法及び他船が接近したときの報告について十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直者が二見港を出港してから既に5回の昼夜の船橋当直に入直し、無難に当直をこなしていたので大丈夫と思い、具体的な見張り方法及び他船が接近したときの報告について十分に指示をしなかった職務上の過失により、当直者からエ号が接近していることの報告が得られず、同号との衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、勝丸の右舷船首に凹損及び前部マスト等に曲損を、エ号の左舷船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、他の無資格の当直者とともに船橋当直に当たり、新潟県二見港から長崎県脇岬港に向け響灘を西行中、見張りを十分に行わなかったこと及びエ号の接近を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。同人に対しては、勧告するまでもない。
C指定海難関係人が、夜間、他の無資格の当直者とともに船橋当直に当たり、新潟県二見港から長崎県脇岬港に向け響灘を西行中、見張りを十分に行わなかったこと及びエ号の接近を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。同人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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