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1998年(平成10年)

平成9年仙審第79号
    件名
貨物船第一陽周丸貨物船オレンジブリーズ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

供田仁男、?橋昭雄、安藤周二
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第一陽周丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
陽周丸…左舷船首部外板に破口を伴う凹損、同ブルワークを圧壊
オ号…左舷船首部貨物倉前壁に破口を伴う凹損、同ブルワークを圧壊

    原因
陽周丸、オ号…狭視界時の航法(速力、レーダー)不遵守

    主文
本件衝突は、第一陽周丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、オレンジブリーズが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月1日09時03分
豊後水道速吸瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一陽周丸 貨物船オレンジブリーズ
総トン数 7,521トン 8,362トン
全長 135.00メートル 107.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,854キロワット 3,500キロワット
3 事実の経過
第一陽周丸(以下「陽周丸」という。)は、主に山口県徳山下松港と京浜港との間に就航する船尾船橋型のセメント運搬船で、A受審人ほか14人が乗り組み、空倉のまま、船首3.00メートル船尾5.82メートルの喫水をもって、平成8年4月29日15時20分京浜港川崎区を発し、徳山下松港に向かった。
A受審人は、船橋当直を0時から4時までを二等航海士、4時から8時までを一等航海士及び8時から12時までを甲板長として各人が甲板手1人を伴う体制とし、翌5月1日08時30分佐田岬灯台から164度(真方位、以下同じ。)6.7海里の地点に至り、速吸瀬戸の通航に備えて昇橋したとき、甲板長から霧模様で視程が2海里となった旨の報告を受けた。
そこで、A受審人は、自ら操船の指揮を執り、当直甲板手及び霧模様のため甲板作業を取りやめて船橋当直に加えた甲板手を2台のレーダーにそれぞれ配して見張りにあたらせ、航行中の動力船の灯火を表示するとともに霧中信号の吹鳴を始め、針路を318度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流の影響を受けて左方に2度圧流されながら、13.4ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で進行した。
A受審人は、甲板手から前方約5海里の速吸瀬戸までの間に漁船が点在し、更に漁船群が佐田岬の西方2海里付近から同瀬戸北方海域のほぼ西側半分をふさぐように広がっていて、自船が同漁船群の中央部付近の比較的漁船が少ない水域に向いている旨の報告を受け、漁船群の中を通航してから次の針路となる北東方に転針するつもりで北上を続けた。
08時43分A受審人は、霧により視程が1,000メートルに狭められた状態となったが、安全な速力とせず、同時47分レーダーで右舷船首8度6海里に海図記載の推薦航路船の右側を速吸瀬戸の西寄りに南下してくるオレンジブリーズ(以下「オ号」という。)の映像を探知することができ、その後漁船群の中の少しばかり開けた水域で同船と著しく接近することとなる状況となったが、甲板手から同船についての報告がなく、自らもレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、同状況となることを避けて佐田岬寄りに漁船群の東側を北上しないまま、同じ針路で続航した。
08時50分A受審人は、霧が濃くなり視程が150メートルになったため機関用意を命じ、甲板長を手動操舵にあたらせ、同時54分少し前佐田岬灯台から215度3.3海里の地点に達したとき、甲板手から右舷船首9度3海里にオ号のレーダー映像を探知した旨の報告を初めて受け、更に同映像の方位が右方に変わることを聞き、左右の船橋ウィングを行き来して、引き続き同船の動静についての報告を受けながら進行した。
08時56分A受審人は、オ号が右舷船首8度2海里に接近し、その後著しく接近することを避けることができない状況となったが、このままの針路で右舷を対して航過することができるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく、同じ速力で続航した。
08時59分半A受審人は、オ号が吹鳴した短音2声を右舷前方至近に聞いて驚き、即座に機関を半速力前進、続いて停止及び全速力後進としたが効なく、09時03分佐田岬灯台から246度3.4海里の地点において、陽周丸は、原針路のまま2ノットの前進行きあしをもって、その左舷船首がオ号の左舷船首に前方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は150メートルで、速吸瀬戸には0.5ノットの南南東流があった。
また、オ号は、船首船橋型の自動車専用運搬船で、船長Bのほか17人のフィリピン人が乗り組み、空倉のまま、船首4.09メートル船尾5.38メートルの喫水をもって、同年4月30日16時30分大韓民国馬山港を発し、大阪港に向かった。
B船長は、船橋当直を0時から4時までを二等航海士、4時から8時までを一等航海士、8時から12時までを三等航海士として各人が甲板手1人を伴う体制とし、翌5月1日07時00分伊予灘を南下中、一等航海士から濃霧となった旨の報告を受けて昇橋し、間もなく霧が薄れたものの視程が1,000メートルであったので、自ら操船の指揮を執り、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
07時30分B船長は、富来港防波堤灯台から064度2.9海里の地点に至り、針路を153度に定め、機関を全速力前進にかけ、安全な速力としないまま、折からの潮流に乗じて13.5ノットの速力で海図記載の推薦航路線に沿い、08時当直を交代した三等航海士をレーダーによる見張りに、甲板手を手動操舵にそれぞれあたらせ、速吸瀬戸北方海域のほぼ西側半分に広がる漁船群の中の少しばかり開けた水域に向かって南下した。
08時47分B船長は、佐田岬灯台から287度4.4海里の地点に達したとき、レーダーで左舷船首7度6海里に速吸瀬戸の西寄りに向かって北上してくる陽周丸の映像を探知することができ、その後漁船群の中で同船と著しく接近することとなる状況となったが、自らレーダーによる見張りを十分に行わず、三等航海士からも同船についての報告がなかったので、これに気付かず、同状況となることを避けるよう減速しないまま、同じ速力で続航した。
08時52分B船長は、視程が150メートルに狭められたので、霧中信号の吹鳴を始め、同時53分三等航海士から左舷船首6度3.4海里に陽周丸の映像を探知した旨の報告を初めて受け、自らも同映像を確認して同船と左舷を対して航過することとしたが、右舷方の近くに漁船がおり、大きく右転することができなかったので、針路を5度だけ右に転じて158度とするとともに、機関を半速力前進として7.2ノットの速力で進行した。
08時55分B船長は、針路を再び5度右に転じて163度とし、同時に機関を極微速力前進として5.5ノットの速力に減じ、同時56分佐田岬灯台から260度3.4海里の地点に達したとき、陽周丸が左舷船首17度2海里に接近したのを認め、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく、周囲の漁船に注意を促すつもりで汽笛により短音を吹鳴しながら続航した。
09時00分B船長は、なおも陽周丸と接近するので機関を停止し、同時02分至近に同船の霧中信号を聞いて機関を半速力後進、続いて同時03分少し前全速力後進としたが効なく、オ号は、原針路のまま3ノットの前進行きあしをもって、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、陽周丸は左舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じたほか、同ブルワークを圧壊し、オ号は左舷船首部貨物倉前壁に破口を伴う凹損を生じたほか、同ブルワークを圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、霧による視界制限状態の速吸瀬戸において、両船が、同瀬戸北方海域のほぼ西側半分をふさぐように広がる漁船群の中の少しばかり開けた水域に向かって航行中、北上する陽周丸が、安全な速力としないまま、レーダーによる見張り不十分で、南下するオ号と同水域で著しく接近することとなる状況を避けて佐田岬寄りに同漁船群の東側を航行せず、その後レーダーにより前路に探知した同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南下するオ号が、安全な速力としないまま、レーダーによる見張り不十分で、北上する陽周丸と同水域で著しく接近することとなる状況を避けるよう減速せず、その後レーダーにより前路に探知した同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、霧による視界制限状態の速吸瀬戸を北上中、レーダーで前路に探知したオ号と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、同映像の方位が少し右方に変わるので、右舷を対して航過することができるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により衝突を招き、陽周丸の左舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じさせたほか、同ブルワークを圧壊させ、オ号の左舷船首部貨物倉前壁に破口を伴う凹損を生じさせたほか、同ブルワークを圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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