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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月4日05時00分 新潟県米山埼西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第六拾弐正進丸
漁船吉栄丸 総トン数 135トン 9.62トン 登録長 34.96メートル 13.22メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
860キロワット 漁船法馬力数 130 3 事実の経過 第六拾弐正進丸(以下「正進丸」という。)は、大中型まき網漁業に網船として従事する鋼製漁船で、A受審人ほか16人が乗り組み、いわし漁の目的で、船首2.5メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成9年4月3日12時00分僚船と船団を組んで新潟港を発し、米山埼西方沖合の漁場に向った。 A受審人は、魚群の探索を行いながら新潟県の西岸沖合を南下し、夕刻漁場に到着して操業にかかり、翌4日02時50分操業を終えたところで、午後からの探索開始まで待機することとし、米山埼灯台から275度(真方位、以下同じ。)9.0海里の地点に船首錨を投じ、船首を西北西方に向け、左舷正横近くの運搬船と500メートル、右舷後方の探索船と300メートルの間隔をそれぞれとって船団のほぼ中央部に位置して錨泊した。 投錨後、A受審人は、1人で船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を点灯したままで錨泊中の灯火を表示しなかったものの、船体前部の船橋外部四周に14個の甲板照明灯のほか、船体後部のマスト頂部に4個とその下方に2個及び揚網用ブームの頂部に1個とその下方4箇所に各2個の作業灯をそれぞれ点灯し、自船同様に多数の灯火で船体を照明した運搬船及び探索船と共に錨泊を続けていたところ、05時00分前示錨泊地点において、正進丸は、船首が289度を向いていたとき、その左舷側中央部外板に、吉栄丸の船首が前方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は雨で風はほとんどなく、視程は1海里で、日出は05時29分であった。 また、吉栄丸は、めばる刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、前日に仕掛けた刺網を揚収する目的で、船首0.50メートル船尾1.63メートルの喫水をもって、同月4日03時50分僚船30隻と共に新潟県筒石漁港を発し、米山埼北西方沖合の漁場に向かった。 B受審人は、平素から休漁日である火曜日と時化の日以外はほぼ毎日04時ごろ出漁し、14時には帰港して水揚げを済ませていた。そのため、20時に就寝して翌日03時に起床する生活習慣を長年続けており、この日も普段どおりであったので、特に疲労や睡眠不足を感じることもなく、離岸作業を終えたのち、乗組員を休ませ、濃霧の中を自ら単独で船橋当直に就いた。 B受審人は、航行中の動力船の灯火を表示し、操舵室中央部の舵輪後方に立ち、右横の腰とほぼ同じ高さのところに置かれた磁気コンパスを見ながら手動で操舵にあたり、04時07分鳥ケ首岬灯台から314度1,100メートルの地点に至って、針路を漁場に向く039度に定め、機関を14ノットの全速力前進にかけて進行した。 その後、B受審人は、霧が雨に変わって視界も1海里に回復し、ようやく周囲が明るくなりかけたころ、僚船が離れ離れとなってそれぞれの漁場に分散してゆくのを認めた。 B受審人は、このように、付近に他船や障害物が見あたらず海上が平穏な状況では気が緩みやすく、居眠りに陥るおそれがあったが、休養をとっていつものとおり出港していることでもあり、よもや居眠りをすることはあるまいと思い、体を動かして気を引き締めるなど居眠りに陥ることのないような措置を講じず、いつしか半睡状態となって続航した。 04時57分半B受審人は、米山埼灯台から272度9.3海里の地点に至ったとき、正船首1,000メートルに正進丸の多数の照明灯と作業灯を、また、その前後に運搬船及び探索船の各船体を照明する多数の灯火をそれぞれ視認することができ、正進丸が停泊灯を表示していなかったものの、船橋と甲板とが照らし出されていることから錨泊中であることが分かる状況となり、その後衝突のおそれがある態勢で同船に接近したが、このことに気付かず、転舵するなどして同船を避けないで進行中、吉栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、正進丸は左舷側中央部外板に凹損を生じ、吉栄丸は船首部に大破口を生じ浸水したが、僚船により筒石漁港に曳(えい)航されてのち修理され、衝突の衝撃でB受審人は全治5日の顔面切傷を、吉栄丸の甲板員Cは全治10日の左大腿打撲をそれぞれ負った。
(原因) 本件衝突は、日出前の薄明時、米山埼西方沖合において、漁場に向かう吉栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊している正進丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、日出前の薄明時、船橋当直に就いて漁場に向け航行する場合、付近に他船や障害物が見あたらず海上が平穏な状況では気が緩みやすく、居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、体を動かして気を引き締めるなど居眠りに陥ることのないような措置を講じるべき注意義務があった。しかし、同人は、休養をとっていつものとおり出港していることでもあり、よもや居眠りをすることはあるまいと思い、居眠りに陥ることのないような措置を講じなかった職務上の過失により居眠りに陥り、正進丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、同船の左舷側中央部外板に凹損と吉栄丸の船首部に大破口を生じさせ、自ら顔面切傷を、自船の甲板員に打撲傷を負わせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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