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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月21日10時20分 津軽海峡 2 船舶の要目 船種船名 油送船北南丸
漁船第8高盛丸 総トン数 149トン 3.40トン 全長 42.00メートル 登録長
9.18メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 478キロワット
66キロワット 3 事実の経過 北南丸は、船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人、B受審人ほか2人が乗り組み、A重油190キロリットルを積載し、船首2.0メートル船尾3.1メートルの喫水で、平成10年1月21日02時30分北海道室蘭港を発航し、北海道奥尻島の奥尻港に向かった。 A受審人は、発航時から単独で航海当直に就き、06時50分北海道亀田郡恵山町の大澗漁港の沖合1.5海里ばかりの地点で、次直のB受審人と船橋当直を交代するにあたり、そのころ天候は曇であったものの、時々雪が降ったり止んだりする状態で、雪で視界が制限されることが予測されたが、同人は前任の船長であり、船長としての経験も長いので、視界制限状態になっても十分対処できるものと思い、視界が制限される状態になったら報告するよう指示することなく降橋して自室で休息をとった。 07時50分B受審人は、汐首岬灯台から170度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路を260度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.6ノットの対地速力で進行し、09時30分葛登支岬灯台から193度6.2海里の地点に達したころ雪が強く降ってきたので航行中の動力船が表示する灯火を掲げた。 09時42分B受審人は、葛登支岬灯台から204度7.1海里の地点で、針路を矢越岬の0.8海里ばかり沖合を向く215度に転じ、このころ、更に雪が強く降るようになって視界は0.5海里ばかりとなり、視界が制限される状態となったが、A受審人にこのことを報告せず、また、速力を減じて安全な速力とすることも、視界制限状態における音響信号(以下「霧中信号」という。)を行うこともなく続航した。 10時10分B受審人は、矢越岬灯台から045度4.1海里の地点に達したとき、一層雪が強く降るようになって視程が100メートルばかりとなり、3海里レンジとしたレーダーを見たところ、小型漁船と思われる映像を右舷正横約0.8海里に2隻、左舷正横約0.8海里に1隻認めたものの、そのとき船首輝線上の正船首1.8海里のところに漂泊を開始したばかりの第8高盛丸(以下「高盛丸」という。)の映像を探知することができる状況であったが、レーダーを適切に調整のうえ連続して観測するなどしてレーダーによる見張りを十分に行っていなかったので、それに気付かなかった。 そして、B受審人は、その後高盛丸と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然レーダーによる見張りを不十分としたままそのことに気付かず、速力を針路を保つことができる最小限度に減じ、また、必要に応じて行きあしを止める措置をとることもなく全速力のまま霧中信号を行わずに続航した。 10時20分少し前B受審人は、正船首至近に高盛丸の黄色旋回灯に続いてその船橋及びレーダーアンテナを認め、直ちに機関停止とし、手動操舵に切り換え、右舵をとったが及ばず、10時20分矢越岬灯台から054度2.4海里の地点において、北南丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首に高盛丸の左舷船首が前方から15度の角度で衝突した。 当時、天候は雪で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視程は約100メートルであった。 A受審人は、自室で休息中、衝撃で目を覚まして衝突したことを知り、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。 また、高盛丸は、一本釣り漁業に従事する汽笛を有しないFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的をもって、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水で、同日06時00分北海道上磯郡知内町涌元魚港を発し、同漁港東方沖合3海里ばかりの漁場に向かった。 06時15分C受審人は、涌元港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から095度2.9海里の漁場に達し、06時30分めばるの一本釣りを開始し、同地点から南へ1.5海里ばかり航行しては元の地点に戻ることを繰り返したが、めばるは釣れず不漁だったので、08時少し前ますの一本釣りに切り換えた。 08時ごろC受審人は、東防波堤灯台から110度3.0海里ばかりの地点に至ったとき、雪が降り出してきて視界が2.5海里ばかりとなったので航行船の少ない陸寄りの漁場に移動することとし、僚船とともに、上磯郡知内町のナマコ岬南東方沖合に向かい、09時ごろ矢越岬灯台から054度2.4海里の漁場に到着したのち、同地点を中心にほぼ50メートル等深線に沿って1.3海里ばかり往復を繰り返しながら黄色回転灯を点灯してますの一本釣りを続けた。 10時10分C受審人は、一本釣りを行いながら前示の衝突地点に至ったとき、雪が強く降り出してきて視程が100メートルばかりとなったので操業を中断のうえ、機関のクラッチを中立とし、020度に向首して漂泊を開始したが、陸寄りなので航行船はいないものと思い、航行中の動力船が表示する灯火を掲げず、有効な音響による信号を行わなかった。そして、そのころ北南丸が右舷船首15度1.8海里に達し、その後自船に向首して接近する同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていたが、C受審人は、レーダーを作動していたものの、僚船の位置を確認するためそのレンジを0.5海里と1.0海里とに交互に切り換え、航行船に対する監視を行っていなかったので、このことに気付かなかった。 10時17分C受審人は、雪が更に強くなり、止みそうにもなかったので、操業を打ち切って帰航することとし、同時20分釣り糸を揚収したあと、船尾から船橋に行き、遠隔操舵から手動操舵に切り換え、ふと前方を見たとき、右舷船首至近に北南丸の船首を認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、北南丸は船首左舷外板に軽微な擦過傷を生じ、高盛丸は左舷船首に亀(き)裂を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、雪のため視界制限状態となった津軽海峡において、北南丸が霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく、レーダーによる見張り不十分で、高盛丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、高盛丸が、有効な音響による信号を行わなかったことも一因をなすものである。 北南丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して視界が制限されたときに報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと及びレーダーによる見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、津軽海峡の矢越岬北東方沖合を航行中、一等航海士を船橋当直に就かせる場合、視界制限状態となったとき操船の指揮をとることができるよう、同人に対して視界制限状態となったら報告するよう指示すべき注意義務があった。ところがA受審人は、一等航海士は北南丸の前任の船長であり、船長職の経験が長いので視界制限状態となっても十分対処できるものと思い、同人に対して視界制限状態になったら報告するよう指示しなかった職務上の過失により、雪で視界制限状態になったときに自ら操船の指揮に当たることができなかったため、高盛丸と著しく接近することを避けられない状況になった際、速力を針路を保つことができる最小限度に減じ、また、必要に応じて行きあしを止める措置をとらずに進行して同船と衝突を招き、北南丸の船首左舷外板に軽微な擦過傷及び高盛丸の左舷船首に亀裂を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、津軽海峡の矢越岬北東方沖合を航行中、視界制限状態となった場合、高盛丸を見落とすことのないよう、レーダーを適切に調整のうえ連続して観測するなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方に高盛丸が存在し、同船と著しく接近することを避けられない状況となっていたことに気付かず、速力を針路を保つことができる最小限度に減じ、また、必要に応じて行きあしを止める措置をとることもないまま進行して同船と衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、視界制限状態の津軽海峡の矢越岬北東方沖合において漂泊する場合、有効な音響による信号を行うべき注意義務があった。ところが同人は、陸寄りなので航行船はいないものと思い、有効な音響による信号を行わなかった職務上の過失により、北南丸と衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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