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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年9月21日10時10分 長崎県大蟇(おおひき)島南方沖合 2 船舶の要目 船種船名 遊漁船順幸丸
プレジャーボートかずみ 総トン数 9.1トン 全長 16.55メートル 4.97メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 出力
308キロワット 29キロワット 3 事実の経過 順幸丸は、航行区域を限定沿海区域とするFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客5人を乗せ、たいを釣る目的で、船首0.30メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成9年9月20日14時00分長崎県三重式見港の中央埠(ふ)頭を発し、同日17時ごろ有福島灯台から274度(真方位、以下同じ。)9.5海里ばかりの釣り場に至って夜釣りを行ったのち、翌21日06時57分ごろ帰途に就いた。 A受審人は、滝河原瀬戸を経て航行し、08時18分半五島棹(さお)埼灯台から180度1,300メートルの地点に達したとき、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関回転数を毎分1,400にかけ、13ノットの対地速力で進行した。 09時56分半A受審人は、大蟇島大瀬灯台から195度5.0海里の地点に達したとき、船首方約2海里のところに存在する遊漁船群を避けるため、針路を080度に転じて続航した。 10時07分半A受審人は、正船首1,000メートルのところに、漂泊中のかずみを視認でき、その後、衝突のおそれがある態勢で同船に接近する状況となったが、右舷方の遊漁船群に気をとられ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることなく進行中、同時10分大蟇島大瀬灯台から160度4.6海里の地点において、原針路、原速力のまま、順幸丸の船首部がかずみの左舷船尾部に後方から50度の角度をもって衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。 また、かずみは、航行区域を限定沿海区域とするFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、勤め先の同僚2人を乗せ、いとよりを釣る目的で、船首0.40メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同月21日07時00分長崎県長崎港小ケ倉を発し、同県母子(はこ)島南方沖合1.2海里ばかりの釣り場に向かった。 07時40分ごろB受審人は、釣り場に至り、船首からパラシュート型シーアンカーを投入して一本釣りを始めたが、釣果が得られなかったので移動することとし、08時10分ごろ同アンカーを取り込んで釣り場を離れ、同時21分ごろ前示衝突地点付近に至り、同アンカーを再び投入して同アンカーに取り付けた化学繊維製ロープを10メートルばかり延出し、マストにビニール製の風船型黒球1個を掲げて釣りを再開した。 10時07分半B受審人は、右舷側の操縦席に腰をかけて船首を030度方向に向け、右舷方を向いて釣りをしていたとき、左舷船尾50度1,000メートルのところに、自船に向首して接近する順幸丸が存在したが、同船に気付かないまま漂泊を続けた。 10時09分B受審人は、左舷側で釣りをしていた同乗者から自船に向首接近する他船がいることを教えられ、同方位500メートルばかりまで接近した順幸丸を初めて認め、その後、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、接近すれば同船が漂泊中の自船を避けるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近した際、機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、同船が避航する気配を見せないまま、30メートルばかりまで接近する状況となり、同乗者とともに大声を出して手を振り、同船に対して衝突の危険を知らせたが、効なく、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、順幸丸は、損傷がなかったが、かずみは、左舷船尾部に亀(き)裂を生じるとともに船外機を破損し、のち修理された。また、同乗者のCが衝突の衝撃で海中に投げ出されて頸部捻挫などを負った。
(原因) 本件衝突は、長崎県大蟇島南方沖合において、順幸丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のかずみを避けなかったことによって発生したが、かずみが、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、長崎県大蟇島南方沖合において、単独の船橋当直にあたって航行中、釣り船群を避航するため針路を転じた場合、正船首方で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷方の遊漁船群に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中のかずみに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部船底に擦過傷を、かずみの左舷船尾部に亀裂などを生じさせ、同乗者に頸部捻挫などを負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、長崎県大蟇島南方沖合において、自船に著しく接近する態勢の他船を認めた場合、同船との衝突を避けることができるよう、有効な音響による注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近すれば他船の方で漂泊中の自船を避けるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、何ら衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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