日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年函審第40号
    件名
漁船第五十一立昇丸漁船第十五富丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗
    理事官
副理事官 堀川康基

    受審人
A 職名:第五十一立昇丸一等航海士兼漁労長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第十五富丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
立昇丸…損傷なし
富丸…右舷後部外板に凹損

    原因
富丸…動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
立昇丸…動静監視不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十五富丸が、動静監視不十分で、漁労に従事している第五十一立昇丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第五十一立昇丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月3日09時50分
北海道厚岸港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十一立昇丸 漁船第十五富丸
総トン数 124.97トン 124.20トン
全長 37.90メートル
登録長 32.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 698キロワット 753キロワット
3 事実の経過
第五十一立昇丸(以下「立昇丸」という。)は、船首船橋型の可変ピッチプロペラを装備した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首1.5メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成9年9月3日01時10分釧路港を発し、同港南東方15海里ばかりの漁場に至って操業し、3回の操業ではたはた等約500キログラムを漁獲し、その後漁労に従事していることを表示する形象物を掲げないまま第4回目の操業を開始した。
ところで、立昇丸における沖合底びき網漁は、かけ回し式で、投樽後2,200メートルの引綱を延出し、それから約50メートルの網部を投じ、反転後再び2,200メートルの引綱を延出して樽を拾うまでに約20分間を要し、その後約10分間網を引いてからほとんど停止した状態で引綱を700メートル巻くのに約10分間を要し、次に「ストップ巻き」と称してトロールウインチにより全力で引綱を巻くと、船体が約6ノットの速力で後進し、約5分後に網がスリップウェイに揚がってくるというものであった。
09時45分A受審人は、厚岸灯台から200度(真方位、以下同じ。)7.4海里の地点において、1人で操船に当たり、船首を240度に向け、ほとんど停止した状態で引綱を巻いていたとき、右舷船首30度0.7海里のところに第十五富丸(以下「富丸」という。)を初認し、一見しただけで右舷側を無難に航過していくものと思い、その後同船の動静監視を行わなかった。
09時48分A受審人は、トロールウインチにより全力で「ストップ巻き」を始めたところ、船首を左右に約20度ずつ振りながら060度の方向へ6.0ノットの速力で後進し、右舷船首20度370メートルの地点に達した富丸がその後衝突のおそれがある態勢で自船の進路を避けずに接近したが、ロープの具合やドラムの圧力計に気をとられ、動静監視を行っていなかったので、そのことに気付かず、警告信号を行わず、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないでいるうち、同時50分わずか前至近に迫った同船を認め、全速力前進としたが、効なく、09時50分厚岸灯台から199度7.1海里の地点において、原速力のまま船首が210度に向首した立昇丸の右舷船尾角部に富丸の右舷後部から40度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力2の東風が吹き、視界は良好であった。
また、富丸は、船首船橋型の可変ピッチプロペラを装備した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、同日01時00分釧路港を発し、同港南東方15海里ばかりの漁場に至って操業を開始した。
B受審人は、操業を開始するにあたって、船橋における操業指揮をC指定海難関係人に任せるとき、同人が長く漁労長をしていて経験豊富であるから特に指示しなくても大丈夫と思い、他船を見たら動静監視を十分に行い、接近するようであれば知らせるよう指示しなかった。
09時48分C指定海灘関係人は、1人で操船に当たり、漁場移動のため厚岸灯台から202度7.4海里の地点において、針路を070度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの速力で、自動操舵により進行したとき、右舷船首10度370メートルのところに立昇丸を初認し、同船は所定の形象物を掲げていなかったものの、底びき網漁船で揚網中であることを知ったが、一見して右舷を対して無難に航過すると思い、船橋前面で漁のことで考えごとをしながら左舷前方を見ていて、同船の動静を監視しなかったため、その後、後進中の同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行し、同時50分わずか前右舷前方至近に同船を認め、左舵一杯としたが、効なく、前示のとおり衝突した。
B受審人は上甲板の漁獲物処理場で漁獲物の選別を行っていたところ、ショックを感じて船楼甲板に出、立昇丸を認めて衝突を知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、立昇丸は、損傷がなく、富丸は、右舷後部外板に凹損を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、北海道厚岸港南方沖合において、富丸が、動静監視不十分で、漁労に従事している立昇丸の進路を避けなかったことによって発生したが、立昇丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
富丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対し、他船を見たら動静監視を行い、接近するようであれば報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が動静監視をしなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
B受審人は、海技免状を有しない乗組員に船橋当直を任せる場合、他船を見たら動静監視を行い、接近するようであれば報告するよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、船橋当直者が長く漁労長をしていて経験豊富であるから特に指示しなくても大丈夫と思い、他船を見たら動静監視を行い、接近するようであれば報告するよう指示しなかった職務上の過失により、右舷前方で漁労に従事している立昇丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることが報告されず、同船の進路を避けることができずに進行して同船と衝突を招き、自船の右舷後部外板に損傷を生じさせるに至った。
A受審人は、厚岸港南方沖合において漁労に従事中、右舷前方に富丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静を監視すべき注意義務があった。しかし、同人は、一見して同船が右舷横を無難に航過していくものと思い、その動静を監視しなかった職務上の過失により、富丸が、自船の進路を避けずに接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作もとることなく後進を続けて同船と衝突を招き、同船に前示の損傷を生じさせるに至った。
C指定海難関係人が、1人で船橋当直に当たり厚岸港南方沖合を航行中、右舷前方に立昇丸を認めた際、その動静を監視しなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION