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1998年(平成10年)

平成10年長審第2号
    件名
貨物船硯海丸ドルフィン渡橋衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、安部雅生、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:硯海丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首部に凹傷、渡橋は、衝突の衝撃で海中に落下

    原因
前進行きあしの確認不十分

    主文
本件ドルフィン渡橋衝突は、前進行きあしの確認が不十分で、過大な前進行きあしのまま、回頭したことによって発生したものである。
受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場折
平成9年3月19日08時35分
青森県尻屋岬港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船硯海丸
総トン数 4,906トン
全長 114.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,713キロワット
3 事実の経過
硯海丸は、航行区域を沿海区域とし、可変ピッチプロペラ及び船首尾にそれぞれ推力7トンのスラスターを有する船尾船橋型の鋼製セメント撤積運搬船で、A受審人ほか11人が乗り組み、海水バラスト2,860トンを積載し、船首3.55メートル船尾5.28メートルの喫水をもって、平成9年3月19日07時35分青森県尻屋岬港港外の尻屋岬港尻屋防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から290度(真方位、以下同じ。)1.1海里ばかりの錨地を発し、着桟して積荷役を行うため、尻屋岬港港内の三菱マテリアル第2バースに向かうことにした。
07時40分A受審人は、錨鎖を5節まで繰り出した錨を巻き揚げたとき、自ら尻屋岬港からの出港船があるのを認めたので、そのまま沖で待つことにし、08時12分前路が安全になったのを見届けたのち、機関を3ノットの極微速力前進にかけて針路を130度に定め、その後、機関を6ノットの微速力前進にかけ、自ら操船の指揮を執り、操舵手に操舵を行わせて前示バースに向け、平均5.4ノットの対地速力で進行した。
ところで、尻尾岬港は、尻尾岬の北部西岸に位置し、港奥の陸岸から約300メートル離れたところに東西方向約100メートル南北方向約80メートルの大きさの弁天島があり、同島の東端から陸岸にかけてベルトコンベアーを設置し、同島の南西端から南西方向に向けて長さ約660メートルの防波堤(以下、「外防波堤」という。)があり、同防波堤の先端部が陸岸から約200メートル海面に拡延した長さ約200メートルの埋立地に面し、埋立地の北東端から北東方に延びる長さ約100メートルの防波堤(以下、「内防波堤」という。)があり、内防波堤の突端から弁天島の南西端にかけての陸側がほぼ5メートル等深線で結ばれ、水深が6メートル以上あるのは外防波堤入り口から約250メートル、外防波堤の中間部付近から約180メートルまでの水域に制限されていた。
また、三菱マテリアル第2バースは、弁天島の南西端から約340メートルのところに設置されたドルフィンをその南西端とし、ほぼ外防波堤に沿って設けられた桟橋で、6個のドルフィンで構成されており、各ドルフィンは南西端から順にMD-1、MD-2、BD-1、BD-2、MD-3及びMD-4と呼称され、それぞれのドルフィン間には渡橋が架設されており、MD-1とMD-2間の渡橋の長さは約33.5メートルであった。
08時21分少し前A受審人は、防波堤灯台から251度770メートルの地点に達したとき、針路を前示埋立地の西端角に向く100度に転じて続航し、同時23分少し過ぎ同灯台から225度480メートルの地点に至って左転を始め、同時25分船橋が防波堤の南西端を替わったとき、機関を中立運転として前進行きあしで進行し、その後、行きあしを調整しながら続航した。
A受審人は、船橋内で両スラスターを適宜使用して針路を弁天島の東端に向くほぼ041度に保って進行し、08時33分少し前回頭開始予定地点である、船首部がMD-1の前面から約130メートルのところに達し、前進行きあしの有無がよくわからなかったが、周囲の状況に気をとられ、船首部でスタンバイ中の一等航海士に指示して行きあしの確認を行うことなく、いまだ約2ノットの前進行きあしがあることに気付かず、過大な前進行きあしのまま、両スラスターを併用して左回頭を始めた。
硯海丸は、過大な前進行きあしのため徐々に回頭しながら、MD-1とMD-2との間の渡橋に著しく接近する状況となり、08時34分同渡橋に衝突する危険を感じたA受審人が、左舷錨の投下を一等航海士に命じ、機関を全速力後進にかけたが、間に合わず、08時35分船首が左方に約100度回頭したとき、防波堤灯台から055度140メートルの渡橋のほぼ中央部に、その船首部右舷側が75度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は上げ潮のほぼ中央期であった。
衝突の結果、硯海丸は、船首部に凹傷を生じ、渡橋は、衝突の衝撃で海中に落下したが、のち、いずれも修理された。

(原因)
本件ドルフィン渡橋衝突は、操船水域が著しく制限された尻屋岬港において、桟橋に着桟する際、前進行きあしの確認が不十分で、過大な前進行きあしのまま、桟橋に向けて回頭したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、操船水域が著しく制限された尻尾岬港において、桟橋に向ける予定の回頭地点に達した場合、自らは船橋内で操船の指揮を執っていて前進行きあしの有無がよく分からなかったのであるから、過大な前進行きあしのためにドルフィン渡橋に著しく接近することのないよう、回頭を始める前に前進行きあしを確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲の状況に気をとられ、前進行きあしの確認を行わなかった職務上の過失により、過大な前進行きあしがあることに気付かないまま回頭してドルフィン渡橋に衝突させ、船首部に凹傷を生じ、ドルフィン渡橋を海中に落下させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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