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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月21日06時35分 明石海峡西方 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第三十六芸予丸
貨物船正栄丸 総トン数 499トン 199.12トン 全長 65.52メートル 54.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
1,323キロワット 735キロワット 3 事実の経過 第三十六芸予丸(以下「芸予丸」という。)は、主として瀬戸内海一帯において海砂の輸送に従事する船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人ほか、4人が乗り組み、海砂1,400トンを載せ、船首3.9メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成8年6月20日23時20分広島県福山港を発し、大阪府泉南市樽井地区沖合に向かった。 A受審人は、翌21日05時50分ごろ淡路島西岸の富島港西方4海里付近で、一等航海士と交替して単独で船橋当直に就き、折から霧模様で視程が1.5ないし2海里であったので、航行中の動力船の灯火を表示し、間もなく前路に認めた漁船を左右に替わしながら、播磨灘東部を明石海峡西口に向け東行した。 06時14分A受審人は、江埼灯台から255度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点で漁船を替わし終えたとき、針路を063度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの東北東流に乗じて13.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。 その後、A受審人は、06時24分ごろ明石海峡航路西方灯浮標の東方1,000メートル付近に差し掛かったころ、霧が濃くなって視程が100メートル足らずに狭められたので、自動による霧中信号の吹鳴を開始したものの、安全な速力としないまま、手動操舵に切り換えて操舵に当たり、時々舵輪左側にあるカラーレーダーを見ながら、このころ昇橋した一等機関士も周囲を見張って同一速力で続航した。 06時27分A受審人は、江埼灯台から286度1.2海里の地点に達したとき、レーダーで前路に認めていた数隻の船舶に接近したので、機関を3.5ノットの微速力に減じるとともに、右舵を少しずつとり、右転を繰り返してこれらを避けながら進行した。 そして、A受審人は、06時30分半江埼灯台から291度1,500メートルの地点に達したとき、依然として濃霧状態であったことから明石海峡の通峡は無理と思い、霧が晴れるまで淡路島江崎西方で漂泊することに決め、機関のクラッチを中立にしたうえ、針路を153度として、東北東流によって左方に約30度圧流されながら惰力で続航した。 機関のクラッチを中立にしたころ、A受審人は、レーダーにより右舷正横後7度0.8海里に正栄丸の映像を認めることができ、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、左舷前方の他船の映像に気をとられ、レーダーによる後方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。 こうして、06時33分半A受審人は、江埼灯台から290.5度1,200メートルの地点に達し、0.75海里レンジとしたレーダーを見たとき、右舷正横後15度0.3海里に正栄丸の映像を初めて探知したが、すぐにはその動静が分からず、そのころほとんど行き脚がなくなったように感じたので、汽笛を自動で対水速力を有しない場合の霧中信号の吹鳴に切り換え、視認してから衝突回避の措置をとればよいものと思い、避航を促すため速やかに注意喚起信号を行うことなく、右舷方を肉眼で見張った。 A受審人は、06時35分少し前、右舷正横方至近に自船に向首接近する正栄丸を視認し、急いで機関を全速力前進にかけ右舵一杯として、汽笛により短音を繰り返し鳴らしたが及ばず、06時35分江埼灯台から290度1,200メートルの地点において、芸予丸は、ほぼ原針路のまま、ほとんど停止状態であったとき、その右舷側後部に正栄丸の船首が後方から72度の角度で衝突した。 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視程は約100メートルで、衝突地点付近には約1.5ノットの東北東流があった。 また、正栄丸は、主として瀬戸内海一帯において鋼材などの輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、B受審人ほか1人が乗り組み、鋼材630トンを載せ、船首2.7メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同月21日00時00分岡山県水島港を発し、大阪港に向かった。 発航後、B受審人は、機関長と交互に6時間交替で、単独の船橋当直に当たって瀬戸内海及び播磨灘北部を東行し、06時21分明石海峡航路西方灯浮標の約1,700メートル手前にあたる、江埼灯台から273度3.3海里の地点に差し掛かったとき、当直中の機関長から「霧のため視界が悪くなった。」旨の報告を受けた。 操舵室後部のソファーで休息していたB受審人は、直ちに起きて操船の指揮を執り、視程が約0.5海里に狭められていたので、航行中の動力船の灯火の点灯を確かめて機関長を見張りに当たらせたが、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもしないまま、引き続き針路を105度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの東南東流に乗じて11.5ノットの対地速力で、明石海峡航路西方灯浮標の少し南方に向けて東行した。 そして、B受審人は、明石海峡航路西方灯浮標を左舷側に航過し、06時27分江埼灯台から266度2.2海里の地点で、針路を075度に転じ、このころから東北東流の潮流の影響を受けるようになり、左方にわずかに圧流されながら、11.5ノットの対地速力で、自ら手動で操舵に当たって明石海峡西口に向け進行した。 転針して間もなくB受審人は、霧が濃くなって視程が更に狭まり約100メートルとなったことを認め、時々舵輪左横のカラーレーダーを見て続航したところ、06時30分半江埼灯台から271度1.5海里の地点に達したとき、3海里レンジとしたレーダーにより左舷船首6度0.8海里に芸予丸とその船尾方に第三船の映像を初めて認め、間もなく前方に汽笛による霧中信号を聞き、その後第三船とは次第に離れたものの、芸予丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った。しかし、同人は、芸予丸が速力の遅い同航船で、右転すれば自船の左舷側に替わせるものと思い、速やかに行き脚を止める措置をとらなかった。 その後、B受審人は、芸予丸の映像が徐々に自船の船首方に寄って近づくので、06時32分江埼灯台から275度1.2海里の地点に達したとき、同船を左舷側に替わすつもりで針路を078度に転じ、さらに同時33分半081度に転じて前方を注視しているうち、同時35分少し前、正船首方至近に右舷側を見せた芸予丸の船体を視認し、急いで右舵一杯をとり、次いで機関を全速力後進にかけたが及ばず、正栄丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、芸予丸は、右舷船尾のハンドレールなどに曲損を生じ、正栄丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、両船が、霧のため視界制限状態となった明石海峡西口を東行中、正栄丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもせず、前路に探知した芸予丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行き脚を止める措置をとらなかったことによって発生したが、漂泊するため機関を停止して惰力で進行中の芸予丸が、レーダーによる見張り不十分で、右舷正横より後方から接近する正栄丸に対して注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、霧のため視界が制限された明石海峡西口を東行中、レーダーにより左舷前方に芸予丸の映像を探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを知った場合、速やかに行き脚を止める措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、右転すれば自船の左舷側に替わせるものと思い、速やかに行き脚を止める措置をとらなかった職務上の過失により、行き脚を止める措置をとることなく進行して衝突を招き、芸予丸の右舷船尾のハンドレールなどに曲損を生じ、正栄丸の船首部を圧壊させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、霧のため視界が著しく制限された明石海峡西口を、前路に探知した他船を右転して避けながら東行中、同海峡の通峡を断念して江崎西方で漂泊するため機関を停止して惰力で進行する場合、右舷正横後方から接近する正栄丸を見落とすことのないよう、レーダーによる後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、左舷前方の他船に気をとられ、レーダーによる後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正栄丸が近距離に接近するまで気付かず、同船に対して注意喚起信号を行わないまま進行し、ほとんど停止状態で衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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