日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年長審第89号
    件名
漁船とし丸プレジャーボートぽらりす衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:とし丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:ぽらりす船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
とし丸…右舷船首部に擦過傷
ぽらりす…右舷船尾部を大破して水船状態となり、のち沈没、船長が全治約2箇月の頸部及び腰部打撲傷

    原因
とし丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ぽらりす…動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、とし丸が、見張り不十分で、漂泊中のぽらりすを避けなかったことによって発生したが、ぽらりすが、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月10日12時00分
熊本県四季咲岬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船とし丸 プレジャーボートぽらりす
総トン数 2.5トン
登録長 8.35メートル 6.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 102キロワット
漁船法馬力数 20
3 事実の経過
とし丸は、小型機船底びき網漁業などに従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、平成7年12月10日07時30分熊本県富岡漁港を発し、同県四季咲岬西北西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、08時10分ごろ漁場に至って操業を行い、こういか約5キログラムを獲たところ、風が強まる傾向を認めたので、操業を打ち切って帰航することとし、11時43分ごろ四季咲岬灯台(以下「岬灯台」という。)から291度(真方位、以下同じ。)4,700メートルの地点を発進し、針路を富岡漁港の背後に在る熊本県立苓洋高等学校の校舎に向く118度に定め、機関の回転数を全速力前進から少し下げて7.0ノットの対地速力とし、操舵室からは特に見通しを妨げるものはなかったものの、左舷前方から波しぶきを受け、風防ガラスに塩が付いて見通しがやや悪くなった状態で、同室中央に立って手動操舵により進行した。
11時57分半A受審人は、岬灯台から277度1,500メートルの地点に達したとき、前路500メートルのところに、漂泊するぽらりすを視認でき、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、発進時からしばらく周囲に他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、前日高校生の孫と口論して同人がその夜家に帰らなかったことを気に病んで考えごとにふけり、ぽらりすの存在に気付かないまま続航した。
こうして、A受審人は、ぽらりすを避けないまま進行し、12時00分岬灯台から268度1,100メートルの地点において、とし丸は、原針路、原速力のまま、その船首部がぽらりすの右舷船尾部に前方から約30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、視界は良好であった。
また、ぽらりすは、船体中央部右舷側に操縦席を設けたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、たい一本釣りを行う目的で、船首0.10メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日06時00分長崎県茂木港を発した。
07時ごろB受審人は、富岡漁港南方沖合の釣り場に着き、同所から四季咲岬西方海域にかけて4ないし5回場所を変えて釣りを行い、11時ごろ前示衝突地点辺りに移動して機関を停止し、右舷側船尾端から合成繊維製の錨索を約1メートルほど延出して錨を海中に宙吊り状態とし、これをシーアンカーの代用として船体の振れ回りを防ぎ、船尾端の左舷側に自らが、右舷側に友人がそれぞれ後方を向いて腰掛け、竿を出して浮き釣りを始めた。
11時55分B受審人は、船首を268度に向けて釣りを継続中、ふと後方を振り返って、右舷船首方1,000メールばかりに、来航するとし丸の白い船体に初めて気付き、次いで同時57分半再び後方を振り返ったところ、右舷船首30度500メートルに自船に向首して接近する態勢のとし丸を認め、その後同船が自船を避けずに接近する状況となったが、同船が漂泊している自船をそのうち避けるものと思い、とし丸に対する動静監視を十分に行うことなく、この状況に気付かないまま、海面の浮きを注視して釣りに専念した。
こうして、B受審人は、注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもできないまま、12時00分わずか前とし丸の機関音に気付き、ふと後方を振り向いたところ、同船が至近に迫っていたので驚き、友人とともに大声を出し、とっさに同船の右舷船首部を両手で押して衝突を回避しようと試みたものの、及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、とし丸は、右舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、ぽらりすは、右舷船尾部を大破して水船状態となり、とし丸により富岡漁港まで曳航されたが同港内で沈没し、のち引き揚げられたものの、修理の予定がたたずに船体は放棄された。また、B受審人及び同人の友人はとし丸に移乗して富岡漁港に着いたが、B受審人が全治約2箇月の頸部及び腰部打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、熊本県四季咲岬西方の広い海域において、漁場から帰航中のとし丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のぽらりすを避けなかったことによって発生したが、ぽらりすが、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、とし丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、熊本県四季咲岬西方の広い海域を帰航のため航行する場合、前路で漂泊中のぽらりすを見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、発進時からしばらく周囲に他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、考えごとにふけったまま進行してぽらりすを見落とし、同船を避けることができずに衝突を招き、ぽらりすの右舷船尾部が大破し、B受審人が打撲傷を負う結果を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、熊本県四季咲岬西方の広い海域において、自船に向首接近するとし丸を認めた場合、とし丸が自船を避けないときには同船との衝突を避けるための措置をとることができるよう、とし丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、自船が漂泊しているので、とし丸がそのうち自船を避けるものと思い、とし丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、釣りに専念したまま、注意喚起信号を行うことも、とし丸との衝突を避けるための措置をとることもできずに衝突を招き、前示損傷と同人が負傷する結果を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION