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1998年(平成10年)

平成10年長審第9号
    件名
漁船海福丸遊漁船チヨ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:海福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:チヨ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
海福丸…船首に擦過傷
チヨ丸…左舷側中央部外板が大破し転覆、釣り客1人が溺水して死亡

    原因
海福丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
チヨ丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、海福丸が、見張り不十分で、漂白中のチヨ丸を避けなかったことによって発生したが、チヨ丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月27日15時45分
長崎県伊王島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船海福丸 遊漁船チヨ丸
総トン数 14.45トン 2.7トン
全長 15.66メートル
登録長 8.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 367キロワット 77キロワット
3 事実の経過
海福丸は、一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、A受審人と同人の弟とが2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.70メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成9年3月27日12時25分長崎県三重式見港を発し、同県伊王島西方沖合の漁場に向かった。
12時45分A受審人は、ノ瀬灯標から109度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき、針路を249度に定め、燃料の節約と漁場到着時刻の調整の目的で、機関回転数を全速力よりも下げた1,200回転にかけ、6.8ノットの対地速力とし、折からの風潮流の影響を受けて左方に約2.5度圧流されながら、自動操舵で進行した。
ところで、A受審人は、三重式見港の防波堤を替わったのち、レーダーを作動させて6マイルレンジとしたが、折からの海面反射による影響で約3海里以内のレーダー映像が見えにくい状態であったところから、同影響が0.5海里以内となるように感度を下げて使用していた。
15時37分少し前A受審人は、伊王島灯台から261.5度18.6海里の地点に達したとき、作動中のレーダーに他船の映像が映っておらず、また、海面に白波が立つ前路を一瞥(べつ)して他船を視認しなかったので、そのころ、右舷船首12度1.0海里のところに、漂泊中のチヨ丸を視認できる状況にあったものの、白波に紛れた同船の白色の船体を見落としたまま続航した。
A受審人は、肉眼でもレーダーでも周囲に他船を認めなかったところから、前路に他船はいないものと思い、操業する漁場を決めようと操舵室左舷側に設置したGPSプロッターに向かい、同プロッターに記憶させた漁場を表示させ、過去の実績を考慮しながらどの漁場で操業するかに迷い、同プロッターの監視に専念したまま進行した。
15時43分A受審人は、伊王島灯台から261度19.5海里の地点に達したとき、右舷船首12度450メートルのところにチヨ丸を認めることができ、その後、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然としてGPSプロッターに向かい、同プロッターに表示した漁場の選択に気をとられ、周囲の見張りを行っていなかったので同船の存在に気付かず、速やかに同船との衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
海福丸は、原針路、原速力のまま進行中、15時45分伊王島灯台から261度19.6海里の地点において、同船の船首がチヨ丸の左舷側中央部外板に前方から82度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
A受審人は、海上に転落して自力でチヨ丸の船底に這(は)い上がったB受審人及び頭部を水面下に浸けたままの釣り客をそれぞれ救助し、海上保安部に連絡して長崎港に向けるよう指示を受け、意識を失った釣り客に対して人工呼吸を行いながら同港に入港し、同人を直ちに病院へ移送した。
また、チヨ丸は、航行区域を限定船海区域とするFRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、釣り客1人を乗せ、釣りを行う目的で、船首0.50メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日06時00分長崎港小江を発し、同港西方沖合の釣り場に向かった。
07時15分B受審人は、伊王島灯台から269度15.4海里ばかりの釣り場に至り、以後、適宜潮上りを繰り返し、釣り場を西方に移動しながら釣り客とともに釣りを続け、14時15分同灯台から267度20.3海里の地点で、3回目の潮上りを終えたのち、船尾からパラシュート型シーアンカーを投入して漂泊を開始し、船首を南南東方に向け、毎時約1.5ノットのゆっくりした速さで同方向に流されながら、釣りを続けた。
ところで、B受審人は、右舷船尾部に、また、釣り客は、右舷船首部にそれぞれ右舷方を向いて甲板上に置いたクーラーボックスに腰を掛け、水深が約130メートルと深かったところから、同受審人は、電動リールを使用して釣りを行い、釣り客は、手釣りで釣りを行っていたが、B受審人が座った場所からは、操舵室の囲壁で左舷方の見通しが妨げられていた。
15時37分少し前B受審人は、伊王島灯台から261.5度19.6海里の地点まで流され、船首を151度に向けて釣りを行っていたとき、左舷船首71度1.0海里のところに、自船の船首方至近に向けて接近する海福丸を視認することができたものの、そのころ赤むつが釣れだしていたので、釣ることに熱中し、同船に気付かなかった。
15時43分B受審人は、左舷船首71度450メートルのところに海福丸を認めることができ、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として赤むつを釣ることに熱中し、周囲の見張りを行っていなかったので、同船に気付かず、有効な音響による注意信号を行うことも、更に接近した際、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続けた。
15時45分わずか前B受審人は、海福丸の機関音に初めて気付き、中腰となって左舷方を見たところ、同船の船首部を左舷側至近に認めたが、どうする暇もなく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海福丸は、船首に擦過傷を生じ、チヨ丸は、左舷側中央部外板が大破して右舷側に転覆したが、のち修理された。また、B受審人と釣り客は海中に転落し、釣り客のC(昭和14年3月14日生)が溺水して死亡した。

(原因)
本件衝突は、長崎県伊王島西方沖合において、海福丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のチヨ丸を避けなかったことによって発生したが、チヨ丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県伊王島西方沖合において、単独で船橋当直に就いて漁場に向けて航行する場合、海面反射による影響を少なくしようとしてレーダーの感度を下げていたのであるから、白波が立つ前路の海面で漂泊中の白い船体の他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥して他船を視認できず、かつ、感度を下げたレーダーの画面に他船の映像が映っていなかったところから、前路で漂泊中の他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中のチヨ丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、チヨ丸の左舷中央部外板に破口を生じて転覆させ、釣り客を死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、長崎県伊王島西方沖合において、パラシュート型シーアンカーを投入して釣りを行う場合、自船に向首接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、折から釣れだした赤むつを釣ることに熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する海福丸に気付かず、同船に対して有効な音響による注意喚起信号も、衝突を避けるための措置もとらないまま漂泊していて衝突を招き、前示の損傷を生じ、釣り客を死亡させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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