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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年1月30日00時50分 和歌山県樫野埼東北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第一栄伸丸 総トン数 339トン 全長 52.03メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 661キロワット 船種船名 引船第八天常丸 台船バージ1001 総トン数 127トン 3,071トン 全長
30.40メートル 73.50メートル 幅
24.30メートル 深さ 4.87メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,176キロワット 3 事実の経過 第一栄伸丸(以下「栄伸丸」という。)は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、船長C及びA受審人ほか3人が乗り組み、メチルエチルケトン300トンを載せ、船首1.70メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成8年1月29日13時05分名古屋港を発し、大阪港に向かった。 A受審人は、発航後、C船長及び次席一等航海士と3直4時間交替の船橋当直に当たっていたもので、21時00分三木埼沖合の熊野灘において、C船長から引き継いで単独の当直に就き、翌30日00時13分梶取埼灯台から115度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき、針路を214度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、10.2ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。 00時28分A受審人は、右舷船首4度6海里ばかりに、レーダーで第八天常丸(以下「天常丸」という。)引船列の映像を1個として探知するとともに、緑色閃光(せんこう)灯及びその下の垂直線上に白灯3個を初めて視認し、同時38分半天常丸と3海里に接近したとき、同船の両舷灯を視認することができる状況であったが、緑色舷灯が強く見えることから紅色舷灯に気付かなかった。そして、白灯の点灯模様から、被引物件の後端までの距離が200メートル以上のものを引いている引船列と判断し、操舵を手動に切り替えて紀伊半島南岸沖合を南下した。 00時42分少し過ぎA受審人は、樫野埼灯台から059度3.8海里の地点に至り、右舷船首5度2海里に天常丸引船列の白、白、白、緑、紅5灯を見るようになり、天常丸と針路が小角度で交差し、ほとんど真向かいに行き会う態勢で接近することを知った。しかし、天常丸に引かれている鋼製のバージ1001(以下「台船」という。)の灯火を視認していなかったが、天常丸引船列と衝突のおそれの有無を判断できるよう、近距離レンジに切り替えたレーダーでその映像を観察するなど、動静監視を十分に行わなかった。そのため、同人は、天常丸引船列と同態勢で衝突のおそれのあることに気付かず、依然、このまま右舷を対して無難に航過できるものと思い、同引船列の左舷側を通過することができるよう、早期に針路を右に転じることなく、同じ針路及び速力のまま続航した。 やがてA受審人は、00時48分右舷船首11度650メートルに天常丸が接近したとき、右舷船首4度1,100メートルのところに、台船の緑色舷灯のほかに白色及び黄色の各閃光灯を視認することができる状況であったが、天常丸の正船尾方向を注視して操舵に当たっていたことから、同船の船尾から右舷側に圧流されながら引かれている台船の灯火に気付かなかった。 こうして、A受審人は、00時49分少し過ぎ天常丸が右舷側をほぼ100メートル隔てて航過したとき、依然台船の存在を確認しないまま、衝突の危険はないと思い、再度操舵を自動に切り替え、肉眼により前路の見張りを行っていたところ、同時50分少し前船首少し左100メートルのところに、台船上に積載されたコンテナクレーン脚の赤、白の塗色を認め、驚いて操舵を手動に切り替え、右舵一杯をとり、機関を後進にかけたが効なく、00時50分樫野埼灯台から071度2.6海里の地点において、栄伸丸は、船首が219度に向いたとき、原速力のまま、台船の前端部左舷側に前方から14度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力4の北北西風が吹き、視界は良好であった。 また、天常丸は、本邦諸港間において台船などの曳航(えいこう)に従事する鋼製引船で、船長D及びB受審人ほか3人が乗り組み、高さ約40メートルのコンテナクレーン脚2基約480トンを甲板上に積載して船首尾とも1.00メートルの喫水となった無人の台船を船尾に引き、船首2.70メートル船尾2.75メートルの喫水をもって、同月28日19時00分広島港を発し、大阪湾経由で名古屋港に向かった。 友ケ島水道通過後、天常丸は、船尾部甲板上に設けた曳航用ウインチドラムから、長さ400メートルのワイヤロープの先端に長さ50メートルの化繊ロープを取り付けて延出し、これを台船の前端部両舷に係止した長さ28メートルの各ワイヤロープとY字型に連結して曳航索を整え、船尾から台船の後端までの距離が約530メートルとなる引船列を構成して航行した。 そして、台船には、甲板上の前部両舷端及び後部中央に長さ1メートルの支柱を立て、その頂部に24ボルトのバッテリーを電源として点灯する40ワットの舷灯1対及び船尾灯がそれぞれ設置されていた。さらに、台船に積載したコンテナクレーン脚の固縛(こばく)用ワイヤロープで、両舷側各3箇所の甲板上高さ1メートルのところに、左舷側が光達距離5.5キロメートルの白灯1個及び同4キロメートルの黄灯2個の、右舷側が光達距離5.5キロメートルの白灯1個及び同5キロメートルの黄灯2個の、いずれも単1乾電池4個を電源とする日光弁付閃光灯が取り付けられていた。 B受審人は、発航後、D船長及び甲板長と3直4時間交替の船橋当直に当たっていたもので、翌29日23時40分潮岬南方沖合でD船長から引き継いで単独の当直に就き、天常丸には垂直に連掲した白灯3個、舷灯1対、船尾灯、引き船灯のほか白灯上方に緑色閃光灯が、台船上には前示灯火がそれぞれ点灯されていること及び船橋上から1キロワットの探照灯が船尾方向に照射していることを確かめて紀伊半島南岸沖合を北上した。 そして、翌々30日00時23分半B受審人は、樫野埼灯台から160度1.3海里の地点に達したとき、針路を040度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、折からの北北西風を左舷側から受け、台船が025度に向首し天常丸の右舷船尾約15度の方向に占位追従する状態で、かつ、天常丸引船列としては右方に3度圧流されながら、7.0ノットの対地速力で船首を少し左右に振りながら自動操舵により進行した。 B受審人は、00時38分半左舷船首1.5度3海里のところに、栄伸丸の白、白、緑3灯を初めて視認し、同時42分少し過ぎ樫野埼灯台から079度2海里の地点に至り、同船の白、白、緑、紅4灯を左舷船首1度2海里に認めることができる状況になり、その後その方位がわずかに右方に変わるものの、明確な変化がなく、同船と針路が小角度で交差し、ほとんど真向かいに行き会う態勢で接近することを知った。 しかしながら、B受審人は、栄伸丸とはこのまま右舷を対して無難に航過するものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、台船の圧流状況を確認するとともに、栄伸丸に対する動静監視を十分に行わなかったことから、両船がほとんど真向かいに行き会う態勢で衝突のおそれのあることに気付かず、栄伸丸の左舷側を通過することができるよう、早期に針路を右に転じることなく続航した。 やがて、B受審人は、正船首少し右方に栄伸丸が白、白、緑3灯を表示して接近し、00時49分少し過ぎ同船が右舷側を100メートル隔てて針路を変えずに航過したのを認めた。このとき、同人は、栄伸丸が風下に圧流された台船と著しく接近することが分かる状況であったが、無難にかわると思い、警告信号を行うことも、探照灯を台船に向けて照射して栄伸丸に避航を促すこともせず、操舵室右舷側に立って同船を見ていたところ、右転したのを認め、同時50分わずか前衝撃を感じ、直ちに機関を停止したが、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、栄伸丸は、船首部が圧壊し、天常丸引船列は、曳航索のスパンワイヤ2本が切断するとともに、台船の前端部左舷側に破口を生じたが、その後栄伸丸及び台船は修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、紀伊半島南岸沖合において、南下中の栄伸丸と風下に圧流されながら北上中の天常丸引船列との両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近中、栄伸丸が、動静監視不十分で、早期に針路を右に転じなかったことと、天常丸引船列が、動静監視不十分で、早期に針路を右に転じず、かつ、警告信号を行わなかったばかりか被引台船を探照灯により照射しなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、紀伊半島南岸沖合を南下中、船首少し右に天常丸の白、白、白、緑4灯を視認し、被引物件の後端まで200メートル以上のものを引いている引船列と判断し、これとほとんど真向かいに行き会う態勢であることを知り、同物件の灯火を視認しないまま互いに接近する場合、天常丸引船列と衝突のおそれの有無を判断できるよう、近距離レンジに切り替えたレーダーで同引船列の映像を観察するなど、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、このまま右舷を対して無難に航過すると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのあることに気付かず、早期に針路を右に転じることなく進行して天常丸引船列との衝突を招き、同引船列曳航索のスパンワイヤを切断させ、台船の前端部左舷側に破口を生じさせるとともに、栄伸丸の船首部を圧壊させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、紀伊半島南岸沖合において、台船を船尾に引き、北北西風を左舷側に受け風下に圧流されながら北上中、ほぼ正船首方向に認めた栄伸丸とほとんど真向かいに行き会う態勢で互いに接近するのを知った場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、栄伸丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、このまま右舷を対して無難に航過するものと思い、栄伸丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのあることに気付かず、早期に釧路を右に転じず、かつ、警告信号を行うことも、探照灯により台船を照射することもしないで進行して栄伸丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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