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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月8日04時08分 関門海峡西口 2 船舶の要目 船種船名 押船新成丸
バージしんせい 総トン数 498トン 5,750トン 全長 49.90メートル 113.00メートル 幅
22.00メートル 深さ 9.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
3,530キロワット 船種船名
貨物船ピータース・グラハト 総トン数 5,998トン 全長 113.12メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 4,413キロワット 3 事実の経過 新成丸は、2基2軸を装備する鋼製引船兼押船で、A受審人ほか9人が乗り組み、船首5.8メートル船尾6.8メートルの喫水となった吸込式浚渫(しゅんせつ)装置を備えた鋼製バージしんせいの船尾凹状部に、新成丸の船首を嵌合(かんごう)してその船首部左右から油圧によって伸出した直径約30センチメートルの鋼製ピンでしんせいの船尾凹状部を結合し、全長を148.00メートルの新成丸押船列としたうえ、海砂採取の目的で、船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成8年10月8日03時52分六連島灯台から130度(真方位、以下同じ。)1,840メートルの関門港六連島区の錨地を発し、山口県蓋井島西方沖合の採砂場に向かった。 A受審人は、単独で操船に当たり、法定灯火を表示し、針路を348度に定め、機関を前進にかけて、半速力まで徐々に増速し、手動操舵によって進行した。 03時57分A受審人は、六連島灯台から113度1,370メートルの地点で関門航路に入り、機関を更に増速して6.0ノットの対地速力で進行し、そのころ左舷船首20度2.3海里のところにピータース・グラハト(以下「ピ号」という。)の白、白、緑3灯を初認し、同号に対する動静監視を続けていたところ、関門海峡海上交通センターからの情報で同号は同海峡西口に向かう総トン数約6,000トンの外国船であることを知り、同時59分六連島灯台から097度1,170メートルの地点に達したとき、ピ号の方位に明確な変化がないことから、互いに右舷を対して航過するつもりで、針路を松瀬北灯浮標の北方に向く334度に転じ、同航路内を続航した。 A受審人は04時01分半、関門航路の西側端に当たる六連島灯台から073度1,000メートルの地点に達したとき、左舷船首5度1.3海里のところにピ号の灯火を認め、その船首方向から、同号は他の外国船と同じように六連島東方の検疫錨地付近に行く船舶で、自船が同航路によらずに出港しても同号は同航路に向かうものと思い、関門航路によって出港することなく、同航路を出て同じ針路で進行した。 04時03分半A受審人は、六連島灯台から051度1,030メートルの地点に達したとき、左舷船首3度1,700メートルのところにピ号が、依然、緑灯を見せて接近するのを認め、そのころ同号がゆっくり右転を始め、その後同号と衝突のおそれのある態勢となったが、なおもピ号が関門航路に向かうから互いに右舷を対して航過できるものと思い、警告信号を行わず、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、同時07分ピ号が右方に回頭しているのを認めて衝突の危険を感じ、機関を中立さらに全速力後進にかけたが及ばず、04時08分六連島灯台から019度1,420メートルの地点において、新成丸押船列は、324度を向首し、2.0ノットの速力となったとき、しんせいの船首が、ピ号の左舷船首部に前方から36度の角度で衝突した。 当時、天候は小雨で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 また、ピ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Bほか8人のオランダ人及び5人のフィリピン人が乗り組み、空倉のまま、船首3.6メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、同月5日20時15分青森県青森港を発し、関門港若松区に向かった。 越えて8日03時30分B船長は、蓋井島灯台から202度1.3海里の地点で関門港入港のために昇橋して操船指揮に当たり、二等航海士と操舵手を見張りに就け、法定灯火を表示して、針路を関門航路西端の西方に向く136度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、13.5ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。 B船長は、六連島東方の港域外の検疫錨地に錨泊する予定で、03時40分二等航海士と操舵手を投錨の準備のために船首に行かせ、入港に備えて機関を減速し、同時58分半、速力が7.0ノットとなり、六連島灯台から345度1.6海里の地点に達したとき、右舷船首12度2.0海里に新成丸押船列の白、白、紅3灯を初認し、同船に対する動静監視を続け、04時00分六連島灯台から348度1.5海里の地点に達したとき、昇橋した一等航海士を見張りに就け、そのころ関門航路まで1.0海里となっていたものの、関門航路に向かう針路とすることなく、同じ針路で続航した。 04時03分半B船長は、六連島灯台から359度1.1海里の地点に達したとき、右舷船首15度1,700メートルのところに新成丸押船列が、依然、紅灯を見せて接近するのを認め、互いに左舷を対して航過するつもりで少し右舵をとってゆっくり右転を開始し、その後同押船列と衝突のおそれのある態勢となったが、警告信号を行わず、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとることなく、同時07分至近に迫った同押船列を認めて衝突の危険を感じ、右舵一杯として機関を全速力後進にかけたが及ばず、ピ号は、180度を向首し、1.0ノットの速力となったとき前示のとおり衝突した。 衝突の結果、新成丸は損傷がなく、しんせいは、船首に凹損を生じ、ピ号は、左舷船首部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、関門海峡西口において、関門港から出港する新成丸押船列が、関門航路によらないで、同航路西側の航路外を北上したばかりか、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、同港に入港するピ号が同航路に向かわなかったばかりか、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、関門港から出港中、同港に入港するピ号と衝突のおそれが生じた場合、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、ピ号が関門航路に向かうから互いに右舷を対して航過できるものと思い、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、ピ号との衝突を招き、しんせいの船首及びピ号の左舷船首部にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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