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1998年(平成10年)

平成9年門審第68号
    件名
漁船春代丸起重機船海王衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、吉川進、西山烝一
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:春代丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:はしま丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
春代丸…船首部を圧壊し、のち廃船処分
海王…左舷船首部に凹損、船長が22日間の入院を要する頚椎捻挫及び右膝挫滅創、甲板員1人が11日間の入院を要する頭部外傷

    原因
春代丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
はしま丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、春代丸が動静監視不十分で、錨泊中の海王を避けなかったことによって発生したが、海王に曳航索をとっていたはしま丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月10日14時00分
九州西岸甑海峡
2 船舶の要目
船種船名 漁船春代丸
総トン数 7.3トン
全長 15.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 433キロワット
船種船名 引船はしま丸 起重機船海王
総トン数 99トン
全長 28.82メートル 60.00メートル
幅 25.00メートル
深さ 4.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
春代丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年1月10日03時鹿児島県下甑島藺牟田(いむた)漁港を発し、同港東方3海里の漁場に至って操業を行い、きびなご約80キログラムを漁獲し、鹿児島県串木野漁港に寄港して水揚げを行ったのち、13時30分同港を発航して藺牟田漁港への帰途に就いた。
A受審人は、1人で見張りと操舵にあたり、沖ノ島の南方沖合を通過し、13時45分薩摩沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から224度(真方位、以下同じ。)0.8海里の地点に達したとき、針路を中甑島南端の弁慶島に向く279度に定め、機関を回転数毎分1,700にかけ、折からの微弱な南流により2度ほど左方に圧流されながら、23.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
13時50分A受審人は、沖ノ島灯台から262度2.5海里の地点で、ほぼ正船首3.8海里のところに海王を、その近くにはしま丸を初めて視認し、24海里レンジとして作動中のレーダーでも認めたが、一見して引船列が無難に替わっていくものと思い、引き続き海王の動静監視を行わず、このころ操舵室前の甲板上に積んだトロ箱が風にあおられて荷崩れを起こし、同箱を覆っている網がばたつき、前方が見えにくくなったので、操舵室を出て右舷側前部甲板上で網を締め直す作業を始めた。
13時57分半A受審人は、海王との距離が正船首1海里になり、その後、同船の形象物から錨泊中の操縦性能制限船であることがわかる状況となって、同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然、網を締め直す作業に専念していて、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航した。
14時00分わずか前A受審人は、右舷側での作業を終え、操舵室後方を回って左舷側の甲板上に来たとき、船首至近に迫った海王を視認し、機関を全速力後進としたが効なく、14時00分沖ノ島灯台から271度6.3海里の地点において、春代丸は、原針路、原速力のまま、その船首が海王の左舷船首部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、海王は、非自航の鋼製起重機船で、船長Cほか5人が乗り組み、56個の魚礁ブロック約730トンを載せ、船首2.0メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、B受審人ほか1人が乗り組んで、船首1.7メートル船尾3.4メートルの喫水とした鋼製引船はしま丸に曳(えい)航され、同日07時00分串木野漁港を発し、甑海峡の魚礁設置地点に向かった。
B受審人は、防波堤を通過したところで、はしま丸の船尾と海王の船首とを連結した曳航索の長さを約70メートルに延ばし、3.6ノットの曳航速力で進行して10時00分前示衝突地点付近の魚礁設置地点に着いた。ところで、同受審人は、海王が錨泊して魚礁設置作業を行う際、C船長の指示により、はしま丸を操船して海王を魚礁設置位置に移動させたり、同位置に固定させる作業を支援していた。
C船長は、10時10分から海王を錨泊させて魚礁設置作業を始め、1回目の同作業を終えたのち、13時00分前示衝突地点に移動し、海王の船尾両舷からそれぞれ3.5トンのストックアンカー1個を投入し、ワイヤー製の錨索を約150メートル延出して錨泊中の操縦性能制限船が表示する形象物を掲げ、2回目の同作業を開始した。
13時57分半B受審人は、海王の位置を固定するため、曳航索を曳航時と同じ状態としたまま、はしま丸及び海王の船首を189度に向けていたとき、春代丸を左舷正横1海里のところに視認でき、その後同船が海王に向け衝突のおそれのある態勢で接近するのを認められる状況であったが、はしま丸を操船することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、注意喚起信号を行わないまま操船を続けた。
14時わずか前B受審人は、C船長のストップという連続した叫び声をトランシーバーで聴き、左舷方を振り向いたとき、海王の左舷船首間近に迫った春代丸を認め、汽笛により短音を1回吹鳴したが効なく、海王は、189度を向いて前示のとおり衝突した。
衝突の結果、春代丸は船首部を圧壊し、のち廃船処分とされ、海王は左舷船首部に凹損を生じ、A受審人が22日間の入院を要する頚椎捻挫及び右膝滅創を、甲板員Dが11日間の入院を要する頭部外傷をそれぞれ負った。

(原因)
本件衝突は、甑海峡において、航行中の春代丸が、動静監視不十分で、錨泊して魚礁設置作業中の海王を避けなかったことによって発生したが、海王に曳航索をとって同作業を支援中のはしま丸が、周囲の見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、甑海峡を下甑島藺牟田漁港に向け航行中、ほぼ正船首に海王及びはしま丸の引船列を視認した場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、引き続き同引船列の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一見して引船列が前路を無難に替わっていくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の海王と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、春代丸の船首部を圧壊し、海王の左舷船首部に凹損を生じ、D甲板員に頭部外傷を負わせ、自らも頚椎捻挫及び右膝挫滅創を負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、甑海峡において、海王に曳航索をとって魚礁設置作業を支援する場合、周囲の見張りを十分に行わず、接近する春代丸に対して注意喚起信号を行わなかったことは、本件発生の一因となる。
しかしながら、以上のB受審人の所為は、海王が操縦性能制限船の形象物を掲げて錨泊していた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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