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1998年(平成10年)

平成9年神審第52号
    件名
貨物船第十太陽丸漁船山長丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、清重?彦
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第十太陽丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:山長丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
太陽丸…船首部に擦過傷
山長丸…左舷側ブルワークを破損してマストが倒壊

    原因
太陽丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
山長丸…見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十太陽丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る山長丸の進路を避けなかったことによって発生したが、山長丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月12日07時58分
紀伊水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十太陽丸 漁船山長丸
総トン数 379トン 3.43トン
全長 65.32メートル
登録長 9.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 809キロワット 150キロワット
3 事実の経過
第十太陽丸(以下「太陽丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.5メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成7年12月11日14時30分愛知県豊橋港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
A受審人は、翌12日06時ごろ和歌山県田辺港沖で一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、07時00分紀伊日ノ御埼灯台から230度(真方位、以下同じ。)1海里の地点に達したとき、針路を355度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により、一等機関士を見張りの補助に当たらせて進行した。
やがてA受審人は、西方に向かう漁船群と遭遇してこれらを無難に替わし、07時50分ごろ一等機関士を食事に行かせ、その後操舵スタンドの後方に立ち、見張りに当たって続航した。
07時53分A受審人は、紀伊宮崎ノ鼻灯台から218度4.2海里の地点に達したとき、右舷船首15度1,450メートルのところに引き縄漁のため発進して前路を左方に横切る態勢となった山長丸を視認でき、その後その方位がほとんど変わらずに接近し衝突のおそれがある状況となったが、漁船群を無難に替わして気が緩み、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま進行した。
太陽丸は、原針路、原速力のまま続航中、07時58分紀伊宮崎ノ鼻灯台から227度3.7海里の地点において、その船首が、山長丸の左舷船首部に後方から64度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、衝突に気付かず航海を続け、08時25分ごろ紀伊宮崎ノ鼻灯台から303度3.8海里の地点において、海上保安部から衝突したのではないかとの通報を受け事件発生を知り、事後の措置に当たった。
また、山長丸は、汽笛設備を備えないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、さわら引き縄漁を行う目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同月12日07時00分和歌山県衣奈漁港を発し、同港西北西方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、黒島北東端を替わって西北西に向け航走した後、07時33分ごろ漂泊して漁の準備にかかり、同時53分紀伊宮崎ノ鼻灯台から224度3.4海里の地点を発進し、針路を291度に定めて2.5ノットの速力で引き縄漁を開始した。
このころ、B受審人は、左舷正横後12度1,450メートルのところに前路を右方に横切る太陽丸を視認することができ、その後同船の方位が変わらずに接近し衝突のおそれがある状況となったが、船尾の竿(さお)の状態に気を取られ、左方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった。
B受審人は、同じ針路、速力で進行中、07時58分少し前太陽丸を左舷至近に認め、右舵一杯としたが効なく、山長丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、太陽丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、山長丸は、左舷側ブルワークを破損してマストが倒壊し、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、紀伊水道東部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、太陽丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る山長丸の進路を避けなかったことによって発生したが、山長丸が、見張り不十分で、間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、紀伊水道東部を北上する場合、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する山長丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、西行する漁船群を無難に替わして気が緩み、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、山長丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して衝突を招き、太陽丸の船首部に擦過傷を、山長丸のブルワーク及びマストに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、引き縄漁を行い紀伊水道東部を西行する場合、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する太陽丸を見落とさないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、船尾の竿の状態に気を取られ、左方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、太陽丸に気付かず、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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