日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年門審第47号
    件名
貨物船日昇丸漁船第八春日丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、西山烝一、岩渕三穂
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:日昇丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八春日丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
日昇丸…右舷船首部外板に擦過傷
春日丸…船首部が圧壊、船長が頭蓋骨開放骨折及び骨盤骨折など、甲板員1人が頭部挫創、頸椎捻挫及び胸部などに打撲傷

    原因
日昇丸…横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
春日丸…動静監視不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、日昇丸が、前路を左方に横切る第八春日丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八春日丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月21日06時23分
福岡県筑前大島沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船日昇丸 漁船第八春日丸
総トン数 426.96トン 6.6トン
全長 53.31メートル
登録長 12.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
日昇丸は、博多港内の下水処理場で発生した産業廃棄物を同港沖合の指定海域まで運搬して投棄する船尾船橋型廃棄物投棄船で、船長D及びA受審人ほか2人が乗り組み、船首3.01メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、産業廃棄物737トンを積載し、平成8年5月20日07時20分博多港を発し、18時57分北緯35度40分東経130度40分を中心とする指定投棄場所C海域に到着して同廃棄物を投棄したのち、19時51分船首1.05メートル船尾3.20メートルの喫水をもって空倉のまま帰港の途についた。
A受審人は、翌21日04時それまで船橋当直に従事していたD船長と交代して単独の航海当直に入り、05時53分筑前大島灯台から285度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点に達したとき、針路を202度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。
06時ごろA受審人は、機関室当直中の機関長が昇橋してきたので、2人で見張りにあたり、右舷正横0.7海里に2隻の同航漁船が前後に並んで南下していたので、同漁船の動静を監視しているうち、06時16分右舷船首26度3.4海里に前路を左方に横切る態勢で接近する第八春日丸(以下「春日丸」という。)を初認し、同時17分半その後方位がほとんど変わらず2.8海里まで接近し、衝突のおそれが生じていたことを認めたが、同船が同航漁船群と替わるまで様子を見ることとして続航した。
06時19分半A受審人は、春日丸が右舷船首25度1.8海里にまで接近し、同航漁船の前方を横切ったところで、少し船首を左に振り、直ぐにまた元の針路に復帰させたのを視認し、同船が自主的に避航すると考え、そのうちまた左転して自船の船尾方に替わっていくものと思い、春日丸はほぼ元の針路のまま依然として衝突のおそれが生じた態勢で接近していたが、春日丸に避航動作を期待したまま、同船の進路を避けずに進行中、同時23分少し前春日丸に130メートルまで接近したとき、やっと衝突の危険を感じ、機関を中立そして後進にかけたが効なく、06時23分筑前大島灯台から228度6.5海里の地点で、春日丸の船首が、原針路・原速力のままの日昇丸の右舷船首に前方から39度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
また、春日丸は旋網(まきあみ)漁業船団に所属する付属船(灯船)で、夕方出漁して翌朝水揚げのために帰港するという夜間操業の形態をとり、B受審人とC指定海難関係人が2人で乗り組み、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月20日17時30分福岡県大島漁港を僚船5隻とともに発し、小呂島周辺の鰺(あじ)の漁場に向かった。
B受審人は、僚船とともに小呂島周辺海域で5回の操業を済ませ、翌21日05時10分ごろ船団の漁労長の指示で烏帽子島2海里西方沖合から帰港することとなった。
ところで、B受審人がC指定海難関係人と2人で乗り組むことになったのは、今後、海技免状を取得して一本立ちする同指定海難関係人に、運航と魚群探索の技術を教育する目的が含まれ、通常の操舵操船と見張りの実務はC指定海難関係人に委(ゆだ)ねられ、同指定海難関係人は、接近する他の船舶に出会った場合、その避航方法などについてその都度B受審人に尋ね、同人の指示を仰ぐよう日頃から指導されていた。
こうして、B受審人は、C指定海難関係人を操舵室右舷側の舵輪の前で自動操舵と見張りにあたらせ、自身は船橋左舷後部の板張りに腰掛けてレーダー監視と湿式魚群探知機による魚群探索を行ったが、これまでの度々の繰り返しで慣れきっていたので、C指定海難関係人に対して接近する他船を報告するよう指示せず、念を押さないままレーダー監視を続けていたところ、前日、自宅で通常ならば休息すべき昼間に、船体検査のためのドック作業に立ち会い、睡眠不足となっていたので、いつしか居眠りに陥った。
C指定海難関係人は、06時13分栗ノ上礁灯標から316度0.8海里の地点に達したとき、針路を筑前大島南端0.2海里沖合に向首する064度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの対地速力で進行しているうち、同時17分半左舷船首16度2.8海里に前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する日昇丸をレーダー画面で初認したが、いつものことなので、B受審人に報告しなかった。
06時19分半C指定海難関係人は、日昇丸が左舷船首17度1.8海里にまで接近したところで日昇丸を視認し、衝突のおそれを感じ、自動操舵装置で針路を061度に転じたところ、自動操舵装置の初期の転針動作で船首はひとまず大きく左に振れ、その後右に戻って最終的に061度に定まったが、そのような船首の振れのなかで、日昇丸との相対方位が正船首寄りに大きく変わったように見え、日昇丸の船尾方を無難に替して行くと思い、転針後は同船に対する動静監視を行わず、下を向いてそれまでに収集した魚群探知機の記録と実際の結果とを比較することに熱中し、両船は衝突のおそれが生じたまま互いに接近していたがこれに気づかず、同時22分半日昇丸に450メートルまで近づき、同船と間近に接近する状況となったものの、大きく減速するなど、衝突を避けるための最善の協力動作をとらずに続航中、前示のとおり原針路・原速力のまま衝突した。
衝突の結果、日昇丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じ、春日丸は船首部が圧壊して自力航行ができない状態となったが、のち僚船から大島漁港に曳航(えいこう)されて修理され、衝突時の衝撃で、B受審人は45日間の入院治療を要する頭蓋骨開放骨折及び骨盤骨折などを、C指定海難関係人は8日間の入院治療を要する頭部挫創、頸椎捻挫及び胸部などに打撲傷をそれぞれ負った。

(原因)
本件衝突は、福岡県筑前大島の沖合において、日昇丸が、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していた春日丸の進路を避けなかったことによって発生したが、春日丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
春日丸の運航が適切でなかったのは、船長が見張りに従事していた無資格者に接近する他船を報告するよう指示しなかったことと、見張りに従事していた無資格者が、接近する他船を船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、筑前大島の沖合を博多港に向け南下中、右舷船首方に前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する春日丸を認めた場合、速やかに右転するなどして、春日丸の進路を避けるべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、春日丸がその船首を左に一度振ったのを見て、同船の方から左転して自船の船尾方を替わしていくものと思い、春日丸に避航動作を期待したまま、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、原針路・原速力のまま進行して衝突を招き、日昇丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、春日丸の船首部を圧壊させたうえ、B受審人に45日間の入院治療を要する頭蓋骨開放及び骨盤骨折などを、C指定海難関係人に8日間の入院治療を要する頭部、頸部及び胸部に打撲傷などをそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、漁場からの帰港中、無資格者に見張りを委ねる場合、接近する他船に出会ったときは必ず船長に報告するよう指示すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、見張りに従事していた無資格者に、他船に出会ったときの報告を指示しなかった職務上の過失により、同無資格者が左舷船首方に前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していた日昇丸を報告せず、同船と間近に接近しても衝突を避けるための最善の協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、前示損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、船橋において見張りに従事した際、左舷船首方に前路を右方に横切る態勢で接近していた日昇丸を船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION