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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年7月2日09時03分 千葉県犬吠埼東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船大雪山丸
貨物船第十六大栄丸 総トン数 2,894トン
499トン 全長 110.34メートル
76.14メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 7,281キロワット
1,176キロワット 3 事実の経過 大雪山丸は、鋼製コンテナ専用船で、A、B両受審人ほか9人が乗り組み、コンテナ216個約2,993トンを積載し、船首5.41メートル船尾6.61メートルの喫水をもって、平成8年7月2日01時20分京浜港東京区を発し、苫小牧港に向かった。 A受審人は、発航操船に引き続き浦賀水道航路通航の指揮を執り、03時40分ごろ同航路を出たところで降橋し、その後は3人の当直航海士による既定の船橋当直に委ね、必要に応じて昇橋することとした。 08時00分B受審人は、犬吠埼灯台の南西方21海里のところで船橋当直に就き、折から霧模様で視界が狭められたなか、相当直の甲板長とともにレーダー及び肉眼による見張りに当たり、同時30分犬吠埼灯台から199度(真方位、以下同じ。)8.5海里の地点において、針路を035度に定め、機関を全速力にかけ、17.0ノットの対地速力で進行した。 08時35分A受審人は、犬吠埼灯台から195度7.3海里の地点で昇橋し、当直中のB受審人が同年5月30日に登用されたばかりで、海上経験が極めて浅かったことから同人を見守ることとしていたところ、霧のため視程が1.5海里ばかりになっており、その後次第に悪化し、視程が100メートルばかりの視界制限状態となったことを知ったが、同人に対し、霧中信号を吹鳴すること及び安全な速力に減じることなどの指示をせず、また、他船と危険な状況になるようであれば知らせてくれるものと思い、自らレーダーを適宜のぞくなり、レーダーを監視しているB受審人に周囲の状況を確認するなど自ら操船の指揮を執らなかった。 一方、B受審人は、A受審人が昇橋してきたことを知ったが、何ら指示がないので構わないものと思い、視界制限状態時の措置が不適切とならないよう、当直中に知り得たレーダー情報を含むすべての状況などを報告して操船の指揮を仰ぐことをせず、霧中信号を行わず、減速しないまま過大な速力で続航した。 08時48分B受審人は、犬吠埼灯台から174度4.3海里の地点に達したとき、6海里レンジのレーダーで、右舷船首2度5.8海里のところに、第十六大栄丸(以下「大栄丸」という。)の映像を探知し、その監視を続けていたところ、ほぼ船首輝線沿いに接近してくるのがわかり、正横より前方から著しく接近することとなる状況であったが、6海里レンジ内の右舷側方に数隻の他船映像を、及び大栄丸の映像を正船首若干右方に、それぞれ認めていたこともあって、左転進行すれば航過距離が開いて安全に替われるものと思い、依然A受審人に知らせないまま、この状況を避けるため早期に大幅な転舵をするなどの動作をとらずに、同時55分大栄丸との距離が3海里に接近したとき、5度左転し、030度に針路を転じた。 B受審人は、レーダー監視を続けていたところ、大栄丸の映像との航過距離が一向に開かないのを知り、08時58分ほとんど方位が変らないまま2海里の距離となり、著しく接近することを避けることができない状況となったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることなく、更に左転して針路を020度に転じ、A受審人からは依然何ら指示もないまま進行中、ますます接近するので危険を感じ、09時03分少し前「針路000度」と甲板長に更に左舵をとるよう命じた。 A受審人は、船橋右舷前面にある椅子に腰掛けていたとき、この操舵号令を聞くとともに、右舷船首至近に迫った大栄丸の船影を認め、急いで船橋左舷前面にある遠隔操縦装置に赴き、機関を緊急停止としたが、間に合わず、09時03分犬吠埼灯台から103度2.6海里の地点において、大雪山丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その船首が、大栄丸の左舷前部に、前方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は霧で風力2の南西風が吹き、視程は約100メートルであった。 また、大栄丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、C受審人ほか4人が乗り組み、砕石1,560トンを積載し、船首3.70メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、同年6月30日19時30分函館港港域外にある上磯地区の日本セメント株式会社専用桟橋を発し、千葉港に向かった。 翌々7月2日06時45分C受審人は、犬吠埼灯台の北北東方20海里ばかりのところで船橋当直に就き、同灯台沖5海里ばかりに向けて南下するうち、それまで3海里ばかりあった視程が、急に霧のため100メートルばかりに狭まり、視界制限状態となったが、霧中信号を行わず、安全な速力に減じないまま、レーダーによる見張りをしながら続航し、08時31分犬吠埼灯台から063度6.1海里の地点において、針路を215度に定めて自動操舵とし、機関を全速力にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。 08時48分C受審人は、犬吠埼灯台から084度3.8海里の地点に達したとき、6海里レンジのレーダーで右舷船首1度5.8海里のところに大雪山丸の映像を探知したので、機関を微速力前進として6.5ノットの対地速力で進行し、その監視を続けていたところ、ほぼ船首輝線沿いに接近してくるのがわかり、正横より前方から著しく接近することとなる状況であったが、この状況を避けるため早期に大幅な減速をするなどの動作をとらず、同時50分同映像を5海里に認めるようになったとき、同灯台から086度3.7海里の地点で、10度右転し、225度の針路に転じて続航した。 C受審人は、レーダー監視を続けていたところ、大雪山丸がなおも自船の船首方向に接近してくるので、08時55分大雪山丸の映像との距離が3海里となったとき、更に15度右転し、針路を240度に転じて進行し、同時58分ほとんど方位が変らないまま2海里の距離となり、著しく接近することを避けることができない状況となったが、右転しているので、そのうち航過距離が開くものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることなく続航中、09時03分少し前左舷船首至近に大雪山丸の船影を認め、驚いて右舵一杯とするとともに、機関を全速力後進にかけたが、及ばず、ほぼ原速力のまま、船首が270度を向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、大雪山丸は右舷側外板に凹損ほか船首部外板に亀裂を生じたが、自力航行可能で、目的地に向かい、揚荷を済ませたのち、修理され、大栄丸は左舷前部外板に破口を生じて浸水し、後刻衝突地点付近で沈没し、全損となった。また、大栄丸乗組員は、左舷傾斜がひどくなったので、全員海中に飛び込み、大雪山丸に救助されたが、うち2人の乗組員が尾骨骨折、頚椎捻挫など負傷した。
(原因) 本件衝突は、両船が視界制限状態の犬吠埼沖合を航行中、北上中の大雪山丸が、過大な速力のまま進行し、レーダーで探知した正横より前方から著しく接近することとなる大栄丸に対し、左転進行したばかりか、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、南下中の大栄丸がレーダーで認めていた大雪山丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。 大雪山丸の運航が適切でなかったのは、視界制限状態の犬吠埼沖合を航行中、在橋していた船長が自ら操船指揮をとらなかったことと、船橋当直者の視界制限状態時の措置が適切でなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、犬吠埼沖合を航行中、視界制限状態になったのを知った場合、自ら操船指揮を執るべき注意義務があった。しかしながら、同人は、在橋しているのであるから、他船と危険な状況になるようであれば知らせてくれるものと思い、自ら操船指揮を執らなかった職務上の過失により、視界制限状態時の新任当直航海士の不適切な措置に任せたまま続航して衝突を招き、大雪山丸の右舷側外板に凹損ほか船首部外板に亀裂及び大栄丸の左舷前部外板に破口をそれぞれ生じさせ、大栄丸は沈没し、また、同船の乗組員2人が負傷するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。 B受審人は、犬吠埼沖合を航行中、視界制限状態になり、A受審人が昇橋したのを知った場合、視界制限状態時の措置が不適切にならないよう、当直中に知り得たレーダー情報を含むすべての状況を報告して操船指揮を仰ぐべき注意義務があった。しかしながら、同人は、A受審人から何ら指示がないので構わないものと思い、操船指揮を仰がなかった職務上の過失により、過大な速力のまま続航し、正横より前方から著しく接近することとなる大栄丸に対し、左転進行したばかりか、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、前示のとおり損傷を生じさせ、大栄丸は沈没し、また、同船の乗組員2人が負傷するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、犬吠埼沖合を航行中、視界制限状態になり、レーダーで正横より前方から接近する大雪山丸の映像を探知し、その後著しく接近することを避けることができない状況になったのを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、右転しているので、そのうち航過距離が開くものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま進行して衝突を招き、前示のとおり損傷を生じさせ、大栄丸は沈没し、また、同船の乗組員2人が負傷するに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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