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1998年(平成10年)

平成9年広審第38号
    件名
作業船第二信幸丸漁船第2松利丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、杉?忠志、織戸孝治
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第二信幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第2松利丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
信幸丸…船底外板に亀裂、推進器翼及び舵板が曲損
松利丸…左舷中央部外板が大破して転覆、のち廃船

    原因
信幸丸…見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
松利丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二信幸丸が、無難に航過する態勢の第2松利丸に対し、見張り不十分で、増速して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、同船を避けなかったことによって発生したが、第2松利丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月31日16時42分
浜田港
2 船舶の要目
船種船名 作業船第二信幸丸 漁船第2松利丸
総トン数 4.1トン 1.00トン
登録長 11.90メートル 4.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 128キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
第二信幸丸(以下「信幸丸」という。)は、浜田港内福井埠頭北方の岸壁築造工事に従事するFRP製作業船で、A受審人ほか1人が乗り組み、同工事現場の作業に携わっていたところ、終業となって帰途に就くこととし、船首尾とも0.5メートルの等喫水をもって、平成8年7月31日16時40分少し過ぎ浜田港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から080度(真方位、以下同じ。)700メートルの工事現場を発し、西防波堤灯台から235度800メートル付近の船だまりに向かった。
発航時A受審人は、針路を前示船だまりに向く239度に定め、機関を6.5ノット(対地速力、以下同じ。)の微速力前進にかけて手動操舵により進行し、そのころほぼ真西高度30度ばかりとなった太陽と、その海面反射とによって右舷船首方が見えにくい状況の下、港内を一瞥(べつ)して他船を見かけなかったことから、その後見張りを十分に行わないまま続航した。
16時41分A受審人は、西防波堤灯台から084度580メートルの地点に達したとき、右舷船首33度340メートルに第2松利丸(以下「松利丸」という。)を視認でき、同船が前路を無難に航過する態勢で南下中であることが分かる状況であったが、依然周囲に他船はいないものと思い、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、16時41分少し過ぎ西防波堤灯台から087度520メートルの地点でいつものように14.0ノットに増速したところ、右舷船首27度270メートルに接近していた松利丸と新たな衝突のおそれが生じたが、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、16時42分信幸丸は、西防波堤灯台から113度300メートルの地点において、原針路、原速力のままのその船首が、松利丸の左舷中央部に、後方から73度の角度で衝突し、これを乗り切った。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、松利丸は、一本釣り漁業に従事する、汽笛を装備しないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.25メートルの等喫水をもって、同日05時00分西防波堤灯台から152度960メートルの消波提内側の船置き場を発し、浜田港北方沖合6海里付近の漁場に至り、鯛など20キログラムほど漁獲したのち、15時30分帰途に就いた。
B受審人は、途中、ところどころで一本釣りを行い、16時30分馬島灯台から272度220メートルの地点に達したとき、針路を船置き場南側の寺院に向首する166度に定め、機関を毎分2,500回転にかけ、10.5ノットの速力で手動操舵により進行し、同時35分西防波提灯台から358度1,170メートルの地点に至り、新西防波提北端に並航したとき、機関を毎分1,500回転に減じ、6.3ノットの速力で続航した。
16時41分B受審人は、左舷船首74度340メートルに信幸丸を初めて認め、同船が右舷方の船だまりに向首して針路が交叉していたものの、速力が自船より少し速い程度で、船尾方を無難に航過する態勢であったため、その後動静監視を十分に行うことなく、同時41分少し過ぎ左舷船首80度270メートルとなった信幸丸が14.0ノットまで増速して新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、松利丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、信幸丸は、船底外板に亀(き)裂が生じ、推進器翼及び舵板が曲損したが、のち修理され、松利丸は、左舷中央部外板が大破して転覆し、機関及び漁労設備に濡れ損を生じ、修理費の関係で廃船となった。

(原因)
本件衝突は、浜田港において、信幸丸が、前路を無難に航過する態勢の松利丸に対し、見張り不十分で、増速して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、同船を避けなかったことによって発生したが、松利丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、浜田港内を航行する場合、同港内を航行中の松利丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発航時港内を一瞥しただけで周囲に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を無難に航過する態勢の松利丸に気付かず、増速して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、同船を避けないで進行して衝突を招き、自船の船底外板、推進器翼及び舵板に損傷を生じさせ、松利丸の左舷中央部を大破させて転覆に至らしめ、機関及び漁労設備に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、浜田港内を漁場から帰港中、針路が交叉する信幸丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、信幸丸が自船の船尾方を無難に航過する態勢であったので大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が増速して新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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