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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月23日14時04分 岡山県前島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第二邦栄丸
プレジャーボートオリオン 総トン数 9.71トン 登録長 13.05メートル 5.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 出力
84キロワット 漁船法馬力数 120 3 事実の経過 第二邦栄丸(以下「邦栄丸」という。)は、採介藻漁業及び刺し網漁業に従事する船尾部に操舵室を備えたFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成9年8月23日06時00分岡山県牛窓港の係留地を発し、青島南東沖の漁場に向かった。 ところで、A受審人は、昭和51年に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免状を取得し、5トン未満の漁船での操業を行っていたが、その後現在の邦栄丸を購入し、同免状では乗船できないことを知らないまま、同船に乗船して操業を続けていた。 06時30分A受審人は、漁場に至って流し刺し網漁にかかり、3回の操業を終えたのち、潮待ちのためいったん帰港することとし、14時00分岡山県前島の岩下シ辻山137メートル山頂(以下「岩下シ辻山頂」という。)から104度(真方位、以下同じ。)2,000メートルの地点を発進し、同県青島北東端沖に至り徐々に左転し、14時02分半岩下シ辻山頂から076度1,870メートルの地点で、針路を網代埼沖に向首する290度に定め、機関を全速力前進より少し減じた16.0ノットの速力で進行した。 定針したとき、A受審人は、ほぼ正船首730メートルのところに、錨泊して遊漁中のオリオンを視認し得る状況となり、その後同船と衝突のおそれのある態勢となって向首接近したが、前路を一瞥(べつ)して他船はいないものと思い、カッパを脱ぎ始め、前路の見張りを十分に行うことなく、オリオンに気付かないまま続航した。 14時03分少し過ぎ、A受審人は、オリオンまで500メートルに接近したが、依然、カッパを脱ぐことに気を取られ、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、邦栄丸は、14時04分岩下シ辻山頂から058度1,340メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、オリオンの右舷船首部に後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は満潮時であった。 また、オリオンは、船体のほぼ中央部に操舵室を備えた、有効な音響による信号設備を有しないFRP製プレジャーボートで、B受審人ほか1人が乗り組み、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日10時ごろ邑久町虫明の定係地を発し、青島北方沖合の釣り場に向かった。 B受審人は、青島北方沖合の釣り場に至って魚釣りを始め、その後釣り場を移動し、13時15分前示衝突地点付近で、010度に向首して船首尾から水深15メートルの海底に投錨してそれぞれ錨索を40メートル繰り出し機関を停止し、所定の形象物を表示しないまま錨泊し、左舷から釣り竿を出して魚釣りを再開した。 14時02分半B受審人は、右舷正横後10度730メートルに青島の北東端を替わって自船に向首する邦栄丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で向首接近する状況となったが、一瞥して他船が見当たらなかったことから、周辺に他船は存在しないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、同時03分少し過ぎ、邦栄丸が同方位のまま500メートルに接近したが、機関を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま魚釣りしながら錨泊を続けた。 14時04分少し前、B受審人は、背後に邦栄丸の機関音を聞いて、ほぼ右舷正横間近に同船を初認したものの、大声で叫び手を振るだけでどうすることもできず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、邦栄丸は、船首船底部に擦過傷を生じたのみであったが、オリオンは、右舷前部外板及び船橋部が圧壊し、同乗者Cが、左眼窩(か)壁骨折により20日間の入院加療を要する負傷をした。
(原因) 本件衝突は、前島の東方沖合において、漁場から帰航中の邦栄丸が、見張り不十分で、前路に漂泊しているオリオンを避けなかったことによって発生したが、オリオンが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、前島の東方沖合を帰航する場合、前路に錨泊しているオリオンを見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥して他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、オリオンに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、邦栄丸の船首船底部に擦過傷を、オリオンの右舷前部外板及び船橋部の圧壊をそれぞれ生じせしめ、オリオン同乗者に左眼窩壁骨折を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、前島の東方沖合において錨泊して遊漁する場合、自船に向首接近する邦栄丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して他船が見当たらなかったことから、周辺に他船は存在しないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、邦栄丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで衝突を招き、両船に前示の損傷を生じせしめ、同乗者を負傷させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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