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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年1月17日15時50分 紀伊水道 2 船舶の要目 船種船名 油送船第二しらゆり丸
漁船第八清浄丸 総トン数 999トン 4.94トン 全長 84.42メートル 12.37メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
1,607キロワット 漁船法馬力数 70 3 事実の経過 第二しらゆり丸(以下「しらゆり丸」という。)は、専ら三重県四日市港から京浜又は阪神方面へ潤滑油の輸送に従事する船尾船橋型の油送船で、船長D、A受審人及びB受審人ほか8人が乗り組み、空倉のまま、船首1.70メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成9年1月17日10時35分大阪港を発し、四日市港に向かった。 ところで、しらゆり丸の船橋当直は、A受審人、B受審人及び甲板長にそれぞれ甲板手1人を付け、原則として00時から4時間ごとに交替する3直体制がとられていたが、当直交替を所定時刻の約10分前に済ませる習慣になっていた。 B受審人は、11時50分大阪湾において、甲板手Eとともに船橋当直に就き、15時10分紀伊日ノ御埼灯台(以下「日ノ御埼灯台」という。)から230度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点に達したとき、針路を139度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 15時43分B受審人は、日ノ御埼灯台から157度7.5海里の地点に至り、右舷船首52度2海里のところに、東行する第八清漁丸(以下「清漁丸」という。)を視認することができ、その後方位がほとんど変わらず、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近することが分かる状況であった。しかし、B受審人は、船橋前部中央左舷寄りに立って見張りを行っていたものの清漁丸を見落とし、前路に他船はいないと思い、やがて同位置から後方に下がって12海里レンジとしたレーダーを見た後、後部左舷側の海図台に赴き、右舷側に背を向けた姿勢で海図上に船位を求め、速力を算出したり、16時00分の推定位置を海図に記入するなど、海図作業に気を取られ、見張りを十分に行っておらず、また、E甲板手が次直者に当直交替を告げるために居住区へ降りていたことから、ともに清漁丸の存在に気付かず、早期にその進路を避けることなく紀伊水道を南下した。 B受審人は、15時49分少し前海図作業を終え、海図台のところから船橋前部中央に移動し、当直交替のため昇橋していたA受審人に針路、速力及び次の転針地点までの距離を告げた。そして、同時49分清漁丸が右舷船首51度530メートルに接近していたが、依然見張り不十分で、このことに気付かず、速やかに右転するなどその進路を避けなかったうえ、同船が無難に航過するまで自ら船橋当直を続けないで、A受審人と交替して降橋した。 一方、A受審人は、15時46分昇橋したとき、B受審人が海図作業をしていたことから、海図を見ないで前部中央の窓際に赴き、そこから周囲を見渡したが、5枚ある船橋前面窓のうち、中央の角窓とその右舷側の角窓との間隔が約10センチメートルあり、これによって死角となるため、右舷船首52度1海里のところから、前路を左方に横切る態勢で接近してくる清漁丸を視認することができなかった。その後、位置を変えるなどして適切な見張りを行わなかったので、依然清漁丸を視認することができず、同時49分B受審人と交替し、昇橋したばかりの甲板手Fとともに船橋当直に就いた。 その直後、A受審人は、前路には他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかったので、依然清漁丸の存在に気付かず、速やかにその進路を避けないで海図台のところに移動し、海図に記入された船位を確かめ、15時49分半ふと前方を振り向いたとき、右舷船首方200メートルのところに、船体を白色に塗装した同船を初めて視認した。そして、直ちに操舵を手動に切り替えて左舵一杯をとるとともに汽笛を連続して吹鳴し、F甲板手に可変ピッチプロペラの翼角を0度にさせたが及ばず、15時50分日ノ御埼灯台から154度9海里の地点において、しらゆり丸は、ほぼ原速力のまま、船首が125度を向いたとき、その右舷側中央部に清漁丸の船首が後方から65度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に属し、視界は良好であった。 D船長は、自室において読書中に汽笛音を聞き、右舷側の窓越しに接近してくる清漁丸を視認し、昇橋に備えて安全靴を履いていたとき衝撃を感じ、急いで船橋に駆け上がり、事後の措置に当たった。 また、清漁丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人のみが乗り組み、操業の目的で、船首0.55メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、同月17日04時00分和歌山県日高郡日高町所在の印南漁港を発し、同漁港南西方14海里付近に設置されている御坊沖波浪観測灯浮標付近の漁場に向かった。 C受審人は、05時00分ごろ漁場に到着し、擬餌鉤(ぎじばり)の付いた漁具を船尾から入れて引き縄漁を開始し、15時00分よこわ40キログラムを漁獲したところで操業を打ち切り、帰途に就くこととした。そして、同時13分日ノ御埼灯台から195度12.6海里の地点を発進すると同時に、針路を切目埼の少し北方に向く060度に定め、機関を半速力前進にかけ、13.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 発進後間もなく、C受審人は、船体中央部に設けた操舵室で床に腰を下ろして擬餌鉤の補修作業にとりかかり、15時43分日ノ御埼灯台から164度9.2海里の地点に達したとき、左舷船首49度2海里のところに、南下するしらゆり丸を視認することができ、その後方位がほとんど変わらず、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近することが分かる状況であった。しかし、付近には他船はいないと思い、同作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、しらゆり丸の存在に気付かず、避航動作をとらないまま接近する同船に対して、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく紀伊水道を東行した。 こうして、C受審人は、擬餌鉤の補修作業を続けているうち、15時50分少し前汽笛音に気付き、左舷船首至近に迫ったしらゆり丸を初めて視認し、急いで操舵を手動に切り替え、操舵室の船尾外側にある舵輪に駆けつける途中、清漁丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、しらゆり丸は、右舷側中央部外板に軽微な凹傷及び擦過傷を生じ、清漁丸は、船首部を圧壊したが自力で印南漁港に到着し、のち修理された。また、C受審人は、頭部挫傷及び肋骨骨折を負った。
(原因) 本件衝突は、紀伊水道において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下するしらゆり丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る清漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する清漁丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、間近に接近したとき、行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、日ノ御埼南東方沖合の紀伊水道を南下中、前直者から引き継いで船橋当直に当たる場合、右舷前方から接近する清漁丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路には他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船首方から前路を左方に横切る態勢で接近する清漁丸に気付かないまま、前直者から当直を引き継ぎ、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、しらゆり丸の右舷側中央部外板に軽微な凹傷及び擦過傷を、清漁丸に船首部圧壊の損傷を生じさせ、C受審人に肋骨骨折を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、日ノ御埼南東方沖合の紀伊水道を南下中、船橋当直を行う場合、右舷前方から接近する清漁丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路には他船はいないと思い、海図作業に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷前方から衝突のおそれのある態勢で接近する清漁丸に気付かず、その進路を避けなかったばかりか同船と安全に航過するまで自ら船橋当直を続けず、A受審人と交替して降橋した直後に同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、C受審人を負傷させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、船橋当直に当たり、漁場から印南漁港に向けて紀伊水道を東行する場合、南下するしらゆり丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近には他船はいないと思い、漁具の補修作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航動作をとらないまま南下するしらゆり丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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