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1998年(平成10年)

平成9年横審第99号
    件名
貨物船大栄丸プレジャーボートアルファー・アイ?衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、長浜義昭、西村敏和
    理事官
藤江哲三

    受審人
A 職名:大栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:アルファー・アイ?船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大栄丸…船首部に擦過傷
ア号…右舷外板に亀裂などの損傷を生じのち廃船

    原因
大栄丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、大栄丸が、動静監視不十分で、錨泊中のアルファー・アイ?を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月18日08時30分
知多半島羽豆岬南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船大栄丸 プレジャーボートアルファー・アイ?
総トン数 398トン 2.5トン
全長 53.99メートル 7.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット 58キロワット
3 事実の経過
大栄丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.25メートル船尾2.85メートルの喫水をもって、平成8年10月18日07時20分愛知県東幡豆港を発し、名古屋港に向かった。
ところで、大栄丸は、通常の航海においては、船首水倉にバラスト約30トンを漲水していたので、船首方にあまり死角を生じることはなかったが、同年8月定期検査を受検するため同水倉を空倉とし、その後も漲水していなかったことから、船尾トリムが大きくなっており、空船時に操舵室中央部の操舵装置の後方に立って見張りに当たると、船首ブルワークの後端付近までの船首両舷に、それぞれ約7度の範囲で死角を生じる状態となっていた。
A受審人は、発航操船に続いて1人で船橋当直に就き、操舵装置の後方に立って見張りに当たり、師崎水道南口を経由する予定で佐久島の南東方に向かい、同島の南東端を右舷側約1海里に並航したところで、日間賀島と築見島間の水路の中央に向け、同水路を通過した後、08時21分羽島灯標から084度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点において、針路を236度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、右舷船首3度1.4海里のところにアルファー・アイ?(以下「ア号」という。)ほか小型船1隻を初めて認め、両船の状態からいずれも錨泊しているので、このままで両船を右舷側に見て無難に替わすことができるものと判断して続航した。
A受審人は、間もなく左舷前方約0.5海里のところに前路を右方に横切る態勢の小型漁船を認め、衝突のおそれのある態勢で接近し、同漁船に避航する気配が認められなかったので、08時25分半羽島灯標から109度1,360メートルの地点において、同漁船を自船の船尾方に替わすために針路を241度に転じたところ、正船首1,340メートルに錨泊中のア号に向首する態勢となったが、同漁船を替わすことに気をとられ、ア号の動静監視を行わなかった。
その後A受審人は、同漁船が船尾方を替わったところで、操舵室内を移動しながらア号ほか1隻の動静を確認したところ、ア号は視認しなかったものの、他の1隻が右舷前方に視認できたことから、ア号もその付近におり、自船の右舷側を無難に替わるものと思い、依然として、船首を振るなど船首死角を補って、ア号の動静監視を十分に行わず、錨泊中の同船が正船首方向に存在し、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かなかった。
こうして、A受審人は、ア号を避けないで進行中、08時30分羽島灯標から174度1,100メートルの地点において、原針路、原速力のまま、大栄丸の船首が、ア号の右舷中央部に、後方から29度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、衝突音に気付いた乗組員からの連絡によって衝突を知り、直ちに反転して救助に向かった。
また、ア号は、電子ホーンを装備したFRP製のプレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首・船尾とも0.30メートルの喫水をもって、同日07時00分愛知県衣浦港内のマリーナを発し、知多半島羽豆岬南方沖合の釣り場に向かった。
B受審人は、07時30分同釣り場に到着し、魚群の探索を行ったのち投錨したが、錨泊中の遊漁船に近かったため、錨泊位置を移動することにし、08時15分水深約17メートルの前示衝突地点付近において、船首から錨を投入し、直径12ミリメートルの錨索を約30メートル繰り出して船首端のクリートに止め、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げずに、船首を270度に向けて錨泊し、釣りを始めた。
B受審人は、船尾甲板のエンジンケーシングの上に右舷側を向いて腰を掛け、船尾方向に釣り竿を出して釣りをしていたところ、08時25分半右舷船尾29度1,340メートルのところの大栄丸が、右に転針して自船に向首するようになり、同時29分少し過ぎ約200メートルに接近した同船を初めて認め、衝突の危険を感じて操舵室に駆け込み、直ちに汽笛を2ないし3秒間連続3回吹鳴して注意喚起信号を発し、その後船首甲板上で大声を出して手を大きく左右に振るなど汽笛と併用して避航を促したが、避航の気配のないまま更に接近するので、危険を感じて海中に飛び込んだ直後、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、B受審人は、錨索につかまっていたところを付近の遊漁船に救助され、大栄丸は、船首部に擦過傷を生じ、ア号は、右舷外板に亀(き)裂などの損傷を生じてのち廃船となった。

(原因)
本件衝突は、知多半島羽豆岬南方沖合において、西行中の大栄丸が、他船を避航するために転針する際、動静監視不十分で、前路で錨泊中のア号を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、知多半島羽豆岬南方沖合を西行中、右舷船首方にア号ほか1隻を認め、その後左方から接近する漁船を避航するため針路を右に転じる場合、ア号に向首進行することのないよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、左方の漁船を替わすことにのみ気をとられ、ア号の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、船首死角に入った錨泊中のア号に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、大栄丸の船首部に擦過傷を、ア号の右舷外板に亀裂などの損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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