|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月29日02時40分 長崎県男女群島南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第二十三山田丸
漁船二十五山田丸 総トン数 124トン 124トン 全長 37.810メートル 37.810メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
592キロワット 592キロワット 3 事実の経過 第二十三山田丸(以下「二十三号」という。)は、二そう底びき網漁業に主船として従事する鋼製漁船で、漁撈(ろう)長を兼任する、A受審人ほか10人が乗り組み、操業の目的で、船首1.60メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成8年6月11日09時従船である第二十五山田丸(以下「二十五号」という。)とともに長崎港を発し、長崎県男女群島南西方沖合の漁場に向かった。 20時15分ごろA受審人は、漁場に至って直ちに操業を始め、その後、繰り返し操業を行ったのち、越えて同月29日02時10分ごろ二十五号とともに曳網を終えて同船から一方の曳索を受け取り、同船に揚網作業終了後に漁場を移動する旨を伝えて同作業にかかり、曳索を巻き込むにつれて船体が曳網してきた方向と逆の北北東方に後進しながら移動し、同時30分ごろ同作業を終えた。 ところで、A社では、旧来からの慣習として二そう底びき網漁を円滑に行うにあたり、従船は常に主船の進路を避けるよう、同船の動きに合わせて行動し、漁場移動中は主船の右舷側後方500メートルばかりのところを随伴するよう、乗組員の間で周知徹底されていた。 02時33分少し過ぎA受審人は、北緯30度51分東経127度33.5分の地点を次の漁場に向けて発進することとし、自船の南南東方1,530メートルのところで漂泊待機中の二十五号の白、紅2灯を視認して同船の存在を確認したのち、自船の予定針路や速力を伝えないまま、単独で操船にあたり、東方の漁場に向かうつもりで針路を090度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を半速力前進にかけて8.0ノットの対水速力とし、手動操舵で進行した。 02時35分A受審人は、右舷船首67度1,130メートルのところに二十五号を視認することができ、その後、同船が自船の進路と交差して衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが、周囲に他船が存在しなかったところから、慣習に従って同船が自船の動きに合わて行動し、著しく接近する状況となれば自船の進路を避けるものと思い、レーダーを使用するなどの動静監視を十分に行うことなく、針路の保持と作業灯を点灯して船尾甲板上で行われている漁獲物選別作業の監視に専念し、接近する同船に気付かず、速やかに行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。 02時39分半A受審人は、同方位110メートルまで接近した二十五号に初めて気付き、無線電話で「片船、片船、どうした、替わさんか。」と同船に自船の進路を避航するのを促して続航中、ますます同船が接近する状況となり、驚いて右舵20度をとり、機関を全速力後進にかけたが、及ばず、02時40分北緯30度51分東経127度34分の地点において、原針路、原速力のまま、二十三号の船首部が二十五号の左舷船尾部に後方から約54度の角度をもって衝突した。 当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、視界は良好であった。 また、二十五号は、二十三号と同型の鋼製漁船で、B受審人、C指定海難関係人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首1.60メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、二十三号とともに長崎港を発して漁場に向かった。 漁場に着いたB受審人は、二十三号とともに操業に従事し、同月29日02時10分同船が揚網作業を始めることにしたので、同船に30メートルばかりまで接近して自船の曳索を渡したのち、機関を中立運転としてその場で漂泊待機し、同作業が終了するのを待った。 ところで、B受審人は、船橋当直を自らと甲板員5人でもって約2時間ずつ単独で行いながら操業に従事し、A受審人から漁場を変更する旨の連絡を受けたのち、02時20分単独船橋当直の経験が十分にある次直のC指定海難関係人を起こし、昇橋した同人に対し、二十三号の揚網作業が終了次第漁場を移動する旨を伝え、同船に注意を払って随伴して行くように指示し、船橋当直を交替して操舵室の左舷側後部に置いたベッドで休息した。 02時33分少し過ぎC指定海難関係人は、二十三号が次の漁場に向けて発進したのを認めたものの、次の漁場が分からなかったので、取りあえず、同船に接近したのち、同船の右舷側後方に付いて随伴するつもりで、北緯30度50.5分東経127度33.6分の地点を発進し、針路を同船の前路に向く036度に定め、機関を半速力前進にかけて8.0ノットの対水速力とし、手動操舵で進行した。 ところで、C指定海難関係人は、発進時、二十三号の白、緑2灯を視認して針路を定めた際、目測で同船との船間距離が十分にあると見たところから、同船に接近するまでには時間に余裕があるものと思い、動静監視を十分に行わないまま続航し、02時35分左舷船首67度1,130メートルのところ二十三号を視認することができ、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが、右舷方に体を向けて前方の見張りにあたっていて同船の接近状況に気付かず、同船を避けないで、原針路、原速力を保ったまま進行した。 02時39分半二十三号からの無線電話を聞いたB受審人は、驚いて飛び起き、左舷側至近に迫った二十三号を視認し、同船の前路を突っ切ろうとして機関の回転数を上げて増速を試みたが、及ばず、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、二十三号は船首部に凹傷を、二十五号は左舷船尾外板に凹傷などをそれぞれ生じたが、のち、いずれも修理された。
(航法の適用) 本件は、当廷におけるA及びB両受審人並びにC指定海難関係人の各供述からも明らかなように、二そう底びき網漁で行動を共にする二十三号と二十五号の両船が、操業の一環としての漁場移動中に発生したものである。 また、両船間においては、所属する会社内の慣習として、常に従船が主船の動きに合わせて行動するようになっており、本件当時、従船である二十五号は主船である二十三号に接近したのち、同船の右舷側後方から随伴して航行するつもりでいたのであるから、本件の場合、両船に定型航法を適用するのは適切でなく、船員の常務によって律するのが相当である。
(原因に対する考察) 両船は、二そう底びき網漁に従事中、慣習として主船と従船の関係があったとしても、互いに著しく接近して衝突のおそれがある態勢となったときには、いずれにおいても衝突を避けるための動作をとれるよう、相手船の動静を監視しなければならず、漁場を発進したのち、ともに前方の見張りを十分に行っていなかったことが本件発生の原因となる。 さらに、本件の場合、主船に随伴すべき従船の二十五号が、主船である二十三号の針路を避けなかったことは、操業中、従船は主船の動きに合わせて行動するという慣習に反したことになり、本件発生の主因をなすものである。 よって、C指定海難関係人が、二十三号の漁場からの発進を認め、同船に随伴するため接近するにあたり、接近するまでには時間に余裕があるものと思い、同船に対する動静監視を怠っていたことは本件発生の主因をなすものであり、A受審人が、漁場を移動する旨を二十五号に伝えて発進し、その後は同船が自船の動きに合わせて行動し、著しく接近する状況となれば自船の進路を避けるものと思い、同船に対する動静監視を怠っていたことは本件発生の一因をなすものである。 なお、主船の船長兼漁撈長であるA受審人が、自船の針路及び速力を従船に伝えなかったことは、操業中の主船と従船との慣習に徴し、本件発生の原因とするまでもない。 また、B受審人が、単独船橋当直の経験が十分にあるC指定海難関係人と船橋当直を交替するにあたり、注意して二十三号に随伴していくように指示したことは、必要にして十分な指示であり、同人が同船に対する動静監視を怠ることまではB受審人にとって予測できないところである。
(原因) 本件衝突は、夜間、長崎県男女群島南西方沖合において、二そう底びき網漁に従事中、従船である二十五号が、動静監視不十分で、主船である二十三号との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、二十三号が、動静監視不十分で、二十五号との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、長崎県男女群島南西方沖合において、二そう底びき網漁に従事し、漁場を移動する場合、従船である二十五号と著しく接近する状況となったときには衝突を避けるための措置がとれるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣習に従って同船が自船の動きに合わせて行動し、著しく接近する状況となれば自船の進路を避けるものと思い、二十五号の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船の接近に気付かないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に凹傷を、二十五号の左舷船尾部に凹傷などを生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C指定関係人が、夜間、単独船橋当直にあたって漁場を移動する際、主船に対する動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。 C指定海難関係人に対しては、同人が深く反省している点に徴し、勧告しない。 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|