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1998年(平成10年)

平成9年横審第108号
    件名
漁船中根丸プレジャーボートグリーンソイル丸?衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、猪俣貞稔、勝又三郎
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:中根丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:グリーンソイル丸?船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
中根丸…右舷船首及び船底に擦過傷
グ号…右舷側舷縁及び操縦台等を破損、同乗者1人が頭部打撲により死亡、1人が腰椎突起骨折等の重傷

    原因
中根丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
グ号…見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、航行中の中根丸が、見張り不十分で、錨泊中のグリーンソイル丸?を避けなかったことによって発生したがグリーンソイル丸?が見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月10日11時20分
愛知県衣浦港平坂入江
2 船舶の要目
船種船名 漁船中根丸 プレジャーボートグリーンソイル丸?
総トン数 1.03トン
登録長 4.65メートル
全長 6.80メートル 5.20メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 29キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
中根丸は、のり海面養殖業に従事する、船外機1基を装備したFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、平成8年10月10日06時衣浦港平坂入江奥部の西尾市奥田町地先の船溜(たま)りを発し、知多湾にあるのり養殖施設の整備作業を行ったのち、栄生灯台の北方800メートルの同入江西岸の砂浜に戻り、右舷側船底を着底した状態で竹竿104本を載せ、喫水不詳のまま、11時17分同砂浜を発し、再び同施設に向かった。
ところで、衣浦港平坂入江は、知多湾に連続して北方に伸び、長さが約3海里、幅が最大約350メートルで入江の奥に行くに従って徐々に約50メートルに狭まり、水深が最大2.8メートルの入江で、入江の入口から0.7海里奥に栄生漁港が、同じく1.5海里奥に寺津漁港が、その他数箇所の船溜りがあって、漁船等の多数航行する狭い水道であった。
また、A受審人は、左舷側後部に長さ約0.9メートル幅約0.35メートルのエンジン一体型のポンプを、その右舷側に長さ約8.8メートルの竹竿104本を、船尾の物入れの前端に根元を置き、竹竿の先端が船首から前方に約3.2メートル突出するように、船なりに積み付けており、右舷船尾物入れの蓋の上に腰掛け、船外機操縦ハンドルを左手で握って操船することから、正船首より左舷側に5度、右舷側に7度の各死角が生じるので、平坂入江を航行する際には立って操船するなり、船首に見張り員を配置するなりの死角を補う見張りを行う必要があった。
ところがA受審人は、前示の通り単独で発進して平坂入江の水路中央部に向かい、11時18分わずか前栄生灯台から007度(真方位、以下同じ。)620メートルの地点に達したとき、針路を203度に定め、主機回転数毎分1,200にかけ、11.0ノットの対地速力とし、時々船首を左右に振るなどすれば大丈夫と思い、右舷船尾物入れの蓋の上に腰掛け、船外機操縦ハンドルで操船しながら進行した。
A受審人は、11時19分栄生灯台から343度290メートルの地点において、錨泊中のグリーンソイル丸?(以下「グ号」という。)を正船首わずか右340メートルのところに、グ号とほぼ同型の錨泊中のホーク(以下「ホ号」という。)を正船首わずか左同一距離のところに、それぞれ認めることができる状況であったが、立って操船するなど死角を補う見張りを行うことなく、船首死角内に入った両船の存在に気付かず、その後衝突のおそれがある態勢で両船に接近したものの、可航幅150メートルの水域が広がるホ号の東方に向け転針するなど、両船を避けずに進行した。
A受審人は、11時20分少し前左舷船首5度100メートルにホ号を初めて視認したものの、依然死角に入ったまま右舷船首7度100メートルに接近したグ号に気付かず、ホ号を左舷側にかわすために針路を210度に転じ、ますますグ号に向首接近する状況で進行し、11時20分栄生灯台から262度230メートルの地点において、原針路、原速力のままの中根丸の右舷船首が、グ号の右舷船首に前方から10度の角度で衝突し、グ号に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、グ号は、船外機1基を装備したFRP製プレジャーボートで、四級小型船舶操縦士免状が失効中のB受審人が1人で乗り組み、友人等3人を同乗させ、はぜ1本釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日08時40分平坂入江最奥部の西尾市平坂町地先の船溜りを発し、09時10分前示衝突地点に至り、水深約2メートルのところに、重さ10キログラムの錨を投じ、錨索を約15メートル伸出し、錨泊中の法定の形象物を掲げないまま、錨泊した。
B受審人は、09時50分僚船ホ号が来航し、しばらく同船が接舷した状態で釣りを行ったものの、釣果が思わしくないのでホ号に移乗し、11時10分020度に向首したグ号の東南東方20メートルにホ号を移動させ、グ号と並んで錨泊し、同方位に向首したホ号の左舷前部に座り、釣りを続けた。
B受審人は、11時19分ホ号の正船首わずか右340メートルに、竹竿を満載した中根丸がグ号及びホ号に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であったが、航行中の船舶が錨泊中の両船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、ホ号で釣りを続け中根丸に気付かなかった。
B受審人は、その後も衝突のおそれがある態勢で接近する中根丸に対し有効な音響による注意喚起信号を行わないまま釣りを続け、11時20分少し前には、ホ号の正船首わずか左100メートルに接近した中根丸が右転してホ号を避けたものの、グ号にますます向首接近する状況となったことに依然気付かず、グ号同乗者に危険を知らせることもできないまま錨泊中、前示のとおり衝突し、その衝撃音を聞いて衝突を知った。
衝突の結果、中根丸は、右舷船首及び船底に擦過傷を生じ、グ号は、右舷側舷縁及び操縦台等を破損し、のちいずれも修理され、グ号の右舷中央部にいた同船同乗者C(昭和7年10月8日生)は、頭部打撲により死亡し、右舷船尾にいたDは、腰椎突起骨折等の重傷を負った。

(原因)
本件衝突は、狭い水道である衣浦港平坂入江において、知多湾にあるのり養殖施設に向け下航中の中根丸が、見張り不十分で、錨泊中のグ号を避けなかったことによって発生したが、グ号が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、狭い水道である衣浦港平坂入江を航行する場合、積載した竹竿により船首方向に死角が生じていたのであるから、立って操船するなど死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかし、同人は、時々船首を左右に振りながら進行すれば大丈夫と思い、立って操船するなど死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、死角に入った錨泊中のグ号及びホ号の存在に気付かず、衝突のおそれがある態勢で両船に接近し、衝突の少し前ホ号を認めて右転したものの、グ号に気付かないまま向首接近して同船との衝突を招き、中根丸の右舷船首及び船底に擦過傷を、グ号の右舷側舷及び操縦台等に破損を生じさせ、また、C同乗者が頭部打撲により死亡し、D同乗者が腰椎突起骨折等の重傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、狭い水道である衣浦港平坂入江において、錨泊中の自船の至近に錨泊中のホ号に移乗して1本釣りを行う場合、グ号に接近する他船があれば早期に有効な音響による注意喚起信号を行うことができるよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、航行船が錨泊中のグ号を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、グ号に向けて接近する中根丸に気付かず、同船に対して早期に有効な音響による注意喚起信号を行うことなく、釣りを続けて衝突を招き、中根丸及びグ号に前示の損傷を、グ号同乗者に前示の死傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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