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1998年(平成10年)

平成9年那審第50号
    件名
プレジャーボートドルフィン防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

井上卓、東晴二、小金沢重充
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:ドルフィン船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首に破口、便乗者1人が左肋骨骨折及び左血胸、同乗者1人が前額割創、1人が外傷性右腎出血症

    原因
船位確認不十分

    主文
本件防波堤衝突は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月21日20時05分
鹿児島県古仁屋漁港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートドルフィン
登録長 7.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 80キロワット
3 事実の経過
ドルフィンは、航行区域を沿海区域(限定)とするFRP製プレジャーボートで、A受審人が単独で乗り組み、友人とその家族など、子供1人を含む3人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、平成9年7月21日11時00分鹿児島県古仁屋漁港下間原地区を発航し、奄美諸島丹下島で遊漁を楽しんだのち、16時40分奄美諸島請島の池地港に寄せ、いとこと知人のそれぞれ1人を便乗させ、19時00分同港を発進し、帰途に就いた。
ところで、古仁屋漁港下間原地区は、古仁屋港のほぼ中央部に位置し、南方に向かって開口した漁港で、同漁港西側の岬から南東方に伸びたF防波堤と同漁港東側のふ頭から西方に伸びたE防波堤とによって防波堤入口を形成し、F防波堤先端部には光達距離2.5海里の単閃緑光の簡易標識灯を、E防波堤先端部には同じ光達距離の単閃赤光の簡易標識灯をそれぞれ設置していた。
また、A受審人は、下間原地区への出入港を夜間の通航も含めて数多く経験して水路状況をよく知っており、日頃からE防波堤の外側で2隻の台船が埋立工事に従事し、同付近に錨泊していることも、夜間入港の際には一瞥(いちべつ)しただけでは簡易標識灯が前方に点在する民家や食堂等の明かりと紛れて見にくくなることも知っていた。
こうしてA受審人は、発進時から操船にあたり、20時01分ごろ古仁屋港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から156度(真方位、以下同じ。)1,600メートルばかりの地点において、針路を防波堤入口の少し左方に向く332度に定め、機関を全速力前進にかけ20.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、古仁屋漁港を出港するときにE防波堤の外側に台船2隻が錨泊していたことから、入港時も同様に錨泊していることを予想し、台船を右舷に見て航過したころE及びF防波堤の簡易標識灯を見つけて防波堤入口に向けて転針することにしていたところ、20時04分少し過ぎ多数の標識灯を点じた2隻の台船を右前方約200メートルに認め、同時04分半速力を17.0ノットに減じた。
続いてA受審人は、20時05分少し前近い方の台船を約30メートル離して航過し、防波堤灯台から280度550メートルばかりの地点に達し、F防波堤まで約80メートルの地点となったとき、速力を15.0ノットに減じ、操縦席から立ち上がって風防ガラスの上から見張りを始め、入港目標としていた簡易標識灯を探したものの、前方の陸上の明かりに紛れて見つからなかったが、防波堤までまだ距離があると思い、速力を大幅に減じたうえ、GPSを利用するなどの船位の確認を行わず、続航してF防波堤に著しく接近し、20時05分防波堤灯台から285度620メートルの地点において、ドルフィンは、原針路、原速力のまま、F防波堤先端部から約15メートルの所に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、日没時刻は19時19分であった。
衝突の結果、ドルフィンは船首に破口を生じたが、のち修理された。また、便乗者Bが左肋骨骨折及び左血胸を負って約3週間の入院治療を、同乗者Cが前額割創を負って約1週間の治療を、同Dが外傷性右賢出血症を負って約2箇月半の治療をそれぞれ要した。

(原因)
本件防波堤衝突は、日没後の薄明時、鹿児島県古仁屋漁港下間原地区に入港するにあたり、入港目標としていた同地区のE及びF防波堤の簡易標識灯が前方の陸上の明かりに紛れて視認できなかった際、船位の確認が不十分で、F防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、日没後の薄明時、鹿児島県古仁屋漁港下間原地区に入港するため、同地区のE防波堤外側に錨泊中の台船を航過したのち防波堤入口に向かうにあたり、入港目標としていた同地区のE及びF防波堤の簡易標識灯が前方の陸上の明かりに紛れて視認できなかった場合、F防波堤に向首していたのであるから、速力を大幅に減じたうえ、GPSを利用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。
しかるに、同人は、防波堤までまだ距離があると思い、船位の確認を行わなかった職務上の過失により、F防波堤へ著しく接近して衝突を招き、船体に破口を生じさせ、同乗者及び便乗者の3人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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