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1998年(平成10年)

平成10年横審第8号
    件名
貨物船第八河岸丸貨物船第五摂津丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、猪俣貞稔、河本和夫
    理事官
西田克史

    受審人
A 職名:第八河岸丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第五摂津丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
河岸丸…左舷中央部外板に破口を生じて浸水し、転覆のち沈没
摂津丸…船首部に破口を伴う損傷

    原因
摂津丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
河岸丸…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五摂津丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八河岸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八河岸丸が警告信号を行わず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月9日00時55分
伊豆半島爪木埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八河岸丸 貨物船第五摂津丸
総トン数 409トン 393トン
全長 68.04メートル 66.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 772キロワット
3 事実の経過
第八河岸丸(以下「河岸丸」という。)は、主として飼料輸送に従事する、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長D及びA受審人ほか3人が乗り組み、飼料1,003トンを積載し、船首3.12メートル船尾4.14メートルの喫水をもって、平成9年12月8日20時30分清水港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して苫小牧港に向かった。
A受審人は、23時30分波勝岬灯台の西方沖合を航行中、昇橋して船長から当直を引き継ぎ、単独で船橋当直に就き、石廊埼沖合を航過したのち東進し、翌9日00時19分少し前神子元(みこもと)島灯台から344度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点に達したとき、針路を074度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、折から昇橋した機関長とともに見張りに当たりながら進行した。
00時40分A受審人は、爪木埼灯台から163度1,500メートル地点に達したとき、針路を伊豆大島北方に向く065度に転じ、このころ左舷船首14度5.1海里のところに第五摂津丸(以下「摂津丸」という。)の白、白、緑3灯とその約1海里手前に同様の灯火を表示した反航船を初めて視認した。
A受審人は、しばらくして先航する反航船が右転して紅灯を示したのを認め、00時49分摂津丸を左舷船首14度2海里に見るようになり、その後、同船が前路を右方に横切り、その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることを知ったが、針路及び速力を保持していれば、そのうち同船が右転をして左舷対左舷で航過できるものと思い、警告信号を吹鳴しないまま、同時52分船橋前部両舷に設置された500ワットの作業灯を数回点灯して同船に避航を促し、同一針路及び速力で続航した。
A受審人は、その後も摂津丸が避航しないまま接近していることに気付いたが、依然同船が右転をして左舷対左舷で航過できるものと思い、再び作業灯を数回点灯したものの、同船と間近に接近したとき大幅に右転するなど衝突を避けるための最善の協力動作をとることもなく進行中、00時54分半衝突の危険を感じて操舵を手動に切り替えて右舵一杯としたが間に合わず、00時55分爪木埼灯台から083度2.5海里の地点において、河岸丸は、船首が110度を向いたとき、原速力のまま、その左舷中央部に摂津丸の船首が前方から約75度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西南西風が吹き、潮候は高潮時で、視界は良好であった。
また、摂津丸は、鋼材輸送に従事する、船尾船橋型の鋼製貨物船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか3人が乗り組み、銑鉄411トンを積載し、船首3.10メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、同月8日16時40分千葉港を発し、名古屋港に向かった。
B受審人は、船橋当直体制を船長、一等航海士及び甲板長の3人による4時間3直制の単独当直とし、自らは20時から当直に就き、23時05分伊豆大島灯台から330度9海里の地点に達したとき、航行中の動力船の灯火を表示し、針路を220度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの西南西風により左方に2度ほど圧流されながら、10.9ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
23時50分B受審人は、稲取岬灯台から065度7.4海里の地点に達したとき、次直のC指定海難関係人が昇橋してきたので船橋当直を引き継ぐこととし、その際、爪木埼付近に近付くにつれて船舶が輻輳(ふくそう)する海域であったが、同人が船橋当直の経験も十分にあるので特別に注意するまでもあるまいと思い、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により常時適切な見張りを行うこと、避航は早めに行うこと、航行する船舶が多いときは報告することなど当直中の遵守事項を具体的に指示することなく、気を付けて行くようにとのみ告げ、降橋して自室で休息した。
C指定海難関係人は、操舵輪の後方に立ち、操舵スタンドに肘をかけた姿勢で見張りに当たりながら続航し、翌9日00時49分右舷船首11度2海里のところに前路を左方に横切る態勢の河岸丸の表示する白、白、紅3灯を視認できる状況になり、その後、同船の方位が変わらず衝突のおそれがある、態勢で接近していたが、左舷前方の同航船に気を奪われ、右舷前方の見張りが不十分となり、河岸丸の存在に気付かなかった。
こうして、C指定海難関係人は、右転するなど河岸丸の進路を避ける措置をとらないまま続航中、00時55分わずか前同船に気付き、左舵一杯を取ったものの、効なく、船首が215度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
B受審人は自室で休息中、衝突の衝撃で眼覚めて昇橋し、事後の措置に当たった。
衝突の結果、河岸丸は、左舷中央部外板に破口を生じて浸水し、転覆したのち沈没して全損となり、摂津丸は、船首部に破口を伴う損傷を生じたがのち修理され、河岸丸乗組員全員は摂津丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、夜間、伊豆半島爪木埼東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、南下中の摂津丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る河岸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東航中の河岸丸が、適切な避航動作をとらないまま接近する摂津丸に対して警告信号を行わず、間近に接近した際、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
摂津丸の運航が適切でなかったのは、船長の無資格の船橋当直者に対する見張りや報告についての指示が不十分であったことと、船橋当直者の見張りが不十分であったこととによるものである。

(受審人等の所為)
B受審人は、夜間、伊豆半島爪木埼東方沖合において、無資格の者に船橋当直を行わせる場合、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により常時適切な見張りを行い、航行する船舶が多いときは報告することなど当直中の遵守事項を具体的に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、C指定海難関係人が船橋当直の経験も十分にあるので特別に注意するまでもあるまいと思い、当直中の遵守事項を具体的に指示しなかった職務上の過失により、河岸丸との衝突を招き、同船の左舷中央部に破口を生じて浸水し、転覆したのち沈没を、摂津丸の船首部に破口を伴う損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、伊豆半島爪木埼東方沖合を東航中、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する摂津丸の掲げた白、白、緑3灯を視認し、同船が適切な避航動作をとっていないのを認めた場合、大幅な右転をするなど衝突を避けるための最善の協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち摂津丸が右転をして左舷対左舷で航過できるものと思い、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかった職務上の過失により、摂津丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、及び河岸丸を沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人は、夜間、伊豆半島爪木埼東方沖合において、単独で船橋当直に当たって航行する際、左舷前方の同航船に気を奪われ、右舷前方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、その後同人が安全運航に努めている点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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