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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年3月5日00時40分 高知県東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船大洋丸
貨物船アナンゲル・オモニア 総トン数 376.17トン
38,859トン 全長 224.97メートル 登録長 55.79メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 956キロワット
10,223キロワット 3 事実の経過 大洋丸は、専ら関西方面から高知県須崎港にセメントの原料を運搬するばら積み貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、クリンカー灰969トンを積載し、船首3.55メートル船尾4.28メートルの喫水をもって、平成8年3月4日14時40分兵庫県東播磨港を発し、須崎港に向かった。 ところで、大洋丸は、当時、荷動きが活発で積揚各港における荷捌(さば)きも順調で、船内作業は多忙を極め、1日の不稼働もなく休祭日の休養日もとらず月15回の連続航海を消化し、乗組員は多少とも疲労の蓄積した状態にあり、労働過重の状態に不満が上がっていたうえ、A受審人自身も運航船社などの関係先に現状改善を申し入れていた。 A受審人は、次席一等航海士が漁船から乗り移ってきたばかりで貨物船の運航に慣れていなかったので、一等航海士と2人だけで航海当直を担当することとし、同時に須崎港近くの港への配船が多かったので、航海中における当直者の休息時間を細切れにしないよう配慮し、それぞれ目的地までの半航程ずつ、つまり、5から6時間ぐらいを継続して受け持つ単独の航海当直体制を採った。同受審人は、航毎当直者の疲労回復を考慮した時間割りを計画したものの、有資格者であった次席一等航海士を見張りの補助にあてるなど、具体的な居眠り運航の防止措置までは検討していなかった。 こうして、A受審人は、16時20分明石海峡通過後一等航海士に航海当直を委(ゆだ)ねて降橋し、18時ごろから自室で就寝し、23時20分須崎港までの半航程に達するところで昇橋し、一等航海士と交代して単独航海当直に入ったとき、東播磨港での積荷中岸壁上の2回のロープシフトと手仕舞いなどに追い立てられたのち、出港部署そして明石海峡の通航と続き、そのうえこれまでの連続した航海の疲労が蓄積され、全身にかなりの疲労を感じていたが、過労気味の乗組員の手前、自分一人の当直で目的地まで頑張らなければならないと思い、次席一等航海士に昇橋を促して見張りの補助をさせることなく、1人で見張りを続けた。 翌5日00時00分A受審人は、出羽島灯台から140度(真方位、以下同じ。)7.6海里の地点に達したとき、針路を221度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行しているうち、立っている力が弱まり、船橋右舷寄りの前面窓ガラスに顔を近づけ、窓枠にもたれて見張りにあたっていたところ、意識が次第に朦朧(もうろう)となり、同時25分ほぼ正船首2.5海里に運転不自由船の灯火を表示して漂泊していたアナンゲル・オモニア(以下「アナンゲル号」という。)の甲板を照らす水銀灯を認めることはできたものの、他の灯火は判別できず、双眼鏡でアナンゲル号の灯火の状況やレーダーで両船の位置関係を確認する力もなく、依然として朦朧としたまま窓枠にもたれているうち、いつしか居眠りに陥り、同時32分アナンゲル号に1.3海里に接近したとき、同船が吹鳴した汽笛信号も、その後探照灯で点滅した発光信号のいずれにも気づかず、同船を避けないまま続航中、00時40分出羽島灯台から177度10.7海里の地点で、大洋丸は、原針路・原速力のまま、その船首がアナンゲル号の右舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。 また、アナンゲル号は、船尾船橋型ばら積み専用貨物船で、船長Bほかギリシャ人及びフィリピン人17人が乗り組み、船首7.5メートル船尾8.6メートルの喫水をもって、空倉のまま同3月4日08時30分坂出港を発し、オーストラリアに向かった。 B船長は、15時35分友ケ島海峡を通過し、17時28分伊島灯台を航過したのち、19時55分出羽島灯台から177度9.7海里の地点に達したとき、機関の調速機に異常が発生したので、機関を停止して修理・調整にあたることとし、舷灯1対、船尾灯ほか航行中の運転不自由船を示す紅灯2灯を垂直線上に表示したうえ、マスト上の水銀作業灯を点灯し、船橋部署の継続を命じて漂泊を開始した。 翌5日00時00分二等航海士Cは、昇橋して前直の三等航海士から引き継いで航海当直に入り、操舵手Dとともにレーダー監視と見張りにあたっているうち、同時32分前示衝突地点付近にまで流され、船首が301度に向いたころ、右舷船尾80度1.3海里から自船に向首して来航する大洋丸を視認し、同船に避航の気配が見えないので、同時35分ごろ汽笛で長音5声を吹鳴して注意喚起したが、依然として避航の気配を示さずに向首・接近し続けるので、同時38分再び長音5声を吹鳴し、船橋の右舷側ウイングに設置された探照灯で点滅を繰り返したものの効なく、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、大洋丸は、船首が圧壊したほか、球状船首部に亀裂を伴う凹損を生じ、アナンゲル号は右舷外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理され、衝突時の衝撃で、大洋丸の機関長Eは約4週間の治療を要する腰椎横突起骨折を負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、高知県東方沖合において、大洋丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、運転不自由船の灯火を表示して漂泊していたアナンゲル号を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独の航海当直について見張りに従事中、連続した激務から強い疲労を感じた場合、居眠り運航に陥ることのないよう、休息中の乗組員を昇橋させ、見張りの補助につかせるべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、乗組員に気兼ねし、見張りの補助につかせなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、運転不自由船の灯火を表示して漂泊中のアナンゲル号を避航しないまま進行して衝突を招き、大洋丸の船首部を圧壊させたほか、アナンゲル号の右舷中央部の外板に凹損を生じさせたうえ、大洋丸の機関長に約4週間の治療を要する腰椎横突起骨折を負わせた。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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