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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月26日04時00分 新潟県佐渡島二見港南方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船漁栄丸
漁船司丸 総トン数 4.98トン 4.71トン 全長 14.50メートル 登録長
12.27メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 180キロワット 漁船法馬力数 70 3 事実の経過 漁栄丸は、船体中央部に一層の操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、かれい底曳(びき)網漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成8年9月26日03時45分二見港を発し、佐渡島西岸の相川湾に向かった。 ところで、二見港は、佐渡島西岸で南方に開口した真野湾西部に位置し、港の背後には南北に延びる市街地とその北側に火力発電所が建てられ、更に北方の湾奥部には海岸線に沿って市街地が東西に連なっていた。そのため、夜間には、街灯と同発電所の光力の強い照明灯に加え、道路上の交通信号灯などが交錯して同港付近を航行する船舶の操舵室の窓ガラスに反射し、これらの明かりの中に他船の灯火が紛れやすい状況であった。 A受審人は、操舵室上部に設置されたマストの同部から60センチメートル上方に両色灯を表示し、03時55分佐渡島二見港防波提灯台から132度(真方位、以下同じ。)50メートルの地点に至り、針路を211度に定め、機関を半速力前進にかけて6.9ノットの対地速力で手動操舵により真野湾を南下した。 定針して間もなく、A受審人は、ほぼ正船首1.6海里の漁場ではない海域にいか釣り漁船が停留し、操業中と見間違えるほどの多数の集魚灯を点灯して周囲の海面を明かるく照らしているを認め、前方から接近する他船の灯火が同集魚灯に紛れやすい状況となっていたものの、これまでに度々、二見港の南方に無灯火の小型漁船が出漁しているのに遭遇したことがあったので、同漁船を見つけることに気をとられ、ほぼ正船首1.2海里のところを北上する司丸の両色灯に気付かなかった。 03時57分半A受審人は、台ケ鼻灯台から049度1,060メートルの地点に至ったとき、左舷船首1度1,000メートルに司丸の紅緑2灯を視認でき、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であったが、反航する他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので、依然としてこれに気付かず、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないで続航中、04時00分台ケ鼻灯台から063度600メートルの地点において、漁栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が司丸の右舷船首部に前方から3度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力4の南西風が次き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。 また、司丸は、船体中央部に一層の操舵室を有するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かれい底曳網漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日03時30分二見港を発し、相川湾に向かった。 B受審人は、操舵室上部に設置されたマストの同部から60センチメートル上方に両色灯とその下方に船尾灯とをそれぞれ表示し、マスト灯を設備しないまま、全速力で真野湾を南下して佐渡島西岸沿いを航行するうち、南西風が次第に強くなってきたので、二見港に引き返すことにした。 03時48分B受審人は、反転したのち機関を半速力前進として7.0ノットの対地速力で進行し、同時55分台ケ鼻灯台から178度680メートルの地点に至ったとき、針路を佐渡二見港防波堤灯台にほぼ向首する028度に定めて真野湾を北上した。 定針したとき、B受審人は、二見港を出港した漁栄丸がほぼ正船首1.2海里のところを南下していたものの、その両色灯が前方の市街地の明かりに紛れて同灯に気付かず、操舵室内の右舷側端に立って同室中央部の舵輪を持ち、左舷前方を向いた姿勢で手動操舵にあたって進行した。 03時57分半B受審人は、台ケ鼻灯台から119度350メートルの地点に達したとき、右舷船首2度1,000メートルに漁栄丸の紅緑2灯を視認でき、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であったが沖合の風が強くなり時化(しけ)模様となった情報が既に僚船にも伝わり今から出港してくる船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので、依然としてこれに気付かず、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないで続航中、04時00分わずか前船首至近に漁栄丸の紅緑2灯を初めて認め、直ちに機関を中立としたが及ばず、司丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、漁栄丸は船首部に破口を生じたほか船首部舷縁を圧壊し、司丸は船首部舷縁を圧壊したが、のち両船共修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、真野湾において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがあるとき、南下中の漁栄丸が、見張り不十分で、司丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったことと、北上中の司丸が、見張り不十分で、漁栄丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が夜間、二見港を出港して真野湾を南下する場合、前路に停留しているいか釣り漁船の集魚灯に他船の灯火が紛れやすい状況となっていたから、ほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近する司丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、反航する他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、集魚灯に紛れた司丸の灯火に気付かず、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して司丸との衝突を招き、漁栄丸及び司丸両船の各船首部舷縁を圧壊させ、また、漁栄丸の船首部に破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人が、夜間、漁場に向けて二見港を出港後、風が強くなり引き返して真野湾を北上する場合、前方の市街地の明かりに他船の灯火が紛れやすい状況となっていたから、ほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近する漁栄丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、沖合の風が強くなり時化模様となった情報が既に僚船にも伝わり今から出港してくる船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、市街地の明かりに紛れた漁栄丸の灯火に気付かず、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して漁労丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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