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1998年(平成10年)

平成10年函審第19号
    件名
漁船第三十七海漁丸漁船泉寿丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕、大石義朗、古川?一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第三十七海漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:泉寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
海漁丸…球状船首に破口
泉寿丸…右舷側中央部外板に破口、のち沈没全損、船長が5日間の加療を要する頭部裂傷及び右肩打撲

    原因
海漁丸…居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
泉寿丸…見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三十七海漁丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊から航行を開始した直後の泉寿丸を避けなかったことによって発生したが、泉寿丸が見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月2日05時00分
北海道恵山岬北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十七海漁丸 漁船泉寿丸
総トン数 19トン 5.5トン
登録長 18.21メートル 11.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190 90
3 事実の経過
第三十七海漁丸(以下「海漁丸」という。)は、専らいか一本釣り漁業に従事するFRP製の漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、平成9年10月1日06時00分青森県下北半島下風呂漁港を発し、13時ごろ苫小牧港南方沖合の漁場に到着して操業を開始し、その後チキウ岬南方沖合に移動していか約2.5トンを獲たところで操業を終え、船首1.2メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、翌2日04時00分チキウ岬灯台から149度(真方位、以下同じ。)8海里の地点を発進し、水揚げのため下風呂漁港に向け帰航の途に就いた。
ところで、A受審人は、船舶所有者のB指定海難関係人からの依頼により、甲板員として乗り組んでいた同人の息子が海技免状を取得するまでの期間という約束で同年7月中旬から海漁丸に船長として乗り組んでいたものであった。そして、B指定海難関係人が5トン未満限定の二級小型船舶操縦士の免許を持ち、経験も豊富ということから、出入港時の操船や漁場への往復及び昼間の操業時の船橋当直を同人にほぼ任せきりにし、操業を終えて帰航するにあたり、同人が1週間前に退院したばかりで、胃腸などに持病を抱えて体調が十分でないことを知っていたが、何かあれば同人の方から申し出てくるものと思い、同人に対して眠気を覚えたら報告するよう指示することなく、同人を漁場発進時から単独で船橋当直に就かせ、自らは甲板上でいかの箱詰め作業を始めた。
B指定海難関係人は、漁場発進と同時に針路を161度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で、所定の灯火を表示のうえ操舵室右舷寄りの座椅子に腰を掛けて進行しているうちに、夜間操業中の前日の1日23時ごろから翌2日03時30分ごろまでの約4時間半睡眠をとったものの、体調の悪さに加え、長時間連続して船橋当直を行い、かなり疲労した状態にあったことから、眠気を覚えたが、そのことをA受審人に報告して船橋当直を交代してもらうなどの居眠り運航を防止する措置を何らとることなく、続航した。
04時54分B指定海難関係人は、恵山岬灯台から355度14.1海里の地点に達したとき、正船首1海里のところに航行中の動力船が表示する灯火及び作業灯兼用の集魚灯を点灯した漂泊中の泉寿丸を視認できる状況にあり、その後同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、眠気のため見張りに集中できていなかったので、そのことに気付かず、同時55分甲板上でのいかの箱詰め作業を終えて昇橋してきた甲板員から漁獲量の報告を受け、同人が降橋して間もなく、居眠りに陥った。
こうして、海漁丸は、船橋当直者が居眠りに陥ったまま、泉寿丸に向首して接近したが、同船を避ける措置がとられずに進行し、04時59分半同船が正船首150メートルとなったとき、前記の灯火を表示して右転しながら前進を開始したことにもB指定海難関係人が依然気付かずに続航中、05時00分恵山岬灯台から357度13.1海里の地点において、海漁丸は、原針路、原速力のまま、その船首が泉寿丸の右舷側中央部に後方から59度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、甲板上での作業を終え、休息をとるため船員室に戻って間もなく衝撃を感じて衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、泉寿丸は、専らいか一本釣り漁業に従事するFRP製の漁船で、C受審人が単独で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同月1日14時00分北海道茅部郡南茅部町の尾札部漁港を発し、16時ごろチキウ岬東南東方沖合の漁場に至り、操業を行ったのち、23時ごろ同所から移動を開始し、翌2日00時30分衝突地点付近でパラシュート型シーアンカーを投入したあと、航行中の動力船が表示する灯火のほか集魚灯を点灯して操業を続けた。
04時45分C受審人は、いか約850キログラムを獲たところで操業を終えて尾札部漁港へ帰航することとし、200ボルト3キロワットの作業灯兼用の集魚灯3個を残して他の集魚灯を消灯のうえパラシュート型シーアンカーの揚収を開始し、184度を向首した船首甲板上でその揚収を行っていたところ、同時54分右舷船尾23度1海里のところに自船に向首して接近する海漁丸の白、紅、緑3灯を視認できる状況にあったが、航行船側が自船を避けていくものと思い、後方の見張りを行っていなかったので、そのことに気付かなかった。
その後C受審人は、パラシュート型シーアンカーの揚収を終えたあと、舷外に振り出していた8台のいか釣り機を船内に取り込み、04時59分半船橋に戻ったとき、海漁丸は自船に向首したまま自船を避けずに150メートルのところに接近していたが、前方こそ確認したものの、依然後方の見張りを不十分としていたので、そのことに気付かず、警告信号を行うことも、更に衝突を避けるための措置をとることもなく、機関の回転数を下げてクラッチを前進に入れ、右舵をとって右回頭を行い、尾札部漁港に向首する220度となって主機駆動の集魚灯用発電機を停止した直後、2.0ノットの速力で前記のとおり衝突した。
衝突の結果、海漁丸は球状船首に破口を生じ、のち修理されたが、泉寿丸は右舷側中央部外板に破口を生じ、浸水して転覆し、海漁丸により曳(えい)航中に沈没して全損となり、C受審人が5日間の加療を要する頭部裂傷及び右肩打撲を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、北海道恵山岬北方沖合において、海漁丸が、操業を終えて帰航するにあたり、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊から航行を開始した直後の泉寿丸を避けなかったことによって発生したが、泉寿丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
海漁丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して眠気を覚えたら報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が眠気を覚えた際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、操業を終えて帰航する際の船橋当直を漁労長に行わせる場合、同人が持病を抱えて体調が十分でないことを知り、長時間連続して船橋当直を行わせていたのであるから、居眠り運航とならないよう、同人に対して眠気を覚えたら報告するよう指示すべき注意義務があった。ところが、A受審人は、何かあれば漁労長の方から申し出てくるものと思い、同人に対して報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同人が眠気を覚えたまま船橋当直を続けて居眠りに陥り、漂泊から航行を開始した直後の泉寿丸を避けずに進行して同船との衝突を招き、海漁丸の球状船首に破口を生じ、泉寿丸の右舷側中央部外板に破口を生じさせて同船を沈没させ、C受審人に頭部裂傷及び右肩打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、操業を終えて帰航する場合、後方から接近する海漁丸を見落とさないよう、後方の見張りを行うべき注意義務があった。ところが、同人は、航行船側が自船を避けていくものと思い、後方の見張りを行わなかった職務上の過失により、海漁丸が自船を避けずに接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊から航行を開始して海漁丸との衝突を招き、両船に前記の損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、操業を終えて帰航中、眠気を覚えた際、そのことを船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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