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1998年(平成10年)

平成9年門審第75号
    件名
貨物船あいりゅう漁船築宝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、伊藤實、岩渕三穂
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:あいりゅう船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:築宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
あいりゅう…船首部に凹損
築宝丸…左舷中央部外板に破口を生じ転覆、のち廃船、船長が前頭部皮下出血及び左膝部打撲

    原因
あいりゅう…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
築宝丸…見張り不十分、有効な音響信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、あいりゅうが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る築宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、築宝丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月22日02時50分
伊予灘西部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船あいりゅう 漁船築宝丸
総トン数 197トン 4.8トン
全長 55.20メートル
登録長 10.46メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
あいりゅうは、主として大分港から関門港及び瀬戸内海西部の各港に鋼材を輸送する、船尾船橋型の貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人の2人が乗り組み、鋼コイル約666トンを積み、船首2.6メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成8年6月22日01時50分大分港新日本製鉄製品岸壁を発し、正規の航海灯を点灯して、山口県徳山下松港に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直について、平素、同人がほとんど単独で行い、視界がよく周囲に他船がいないときに限って、B指定海難関係人に船橋当直を任せ、その間同受審人は、船橋左舷側後部のソファーで休息していた。
A受審人は02時26分、臼石鼻灯台から174度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点で、針路を032度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
02時30分A受審人は、小用のために、昇橋していたB指定海灘関係人に船橋当直を任せることとしたが、同指定海難関係人は船橋当直に慣れているので大丈夫と思い、同指定海難関係人に対し、視界が悪くなったら注意するようにと言っただけで、接近する他船があるときは速やかに報告するよう指示することなく降橋し、小用を足したのち、少しの間船長室で運航関係の書類の整理を行うことにした。
当直を交替したB指定海難関係人は、02時45分臼石鼻灯台から083度1.9海里の地点に達したとき、右舷船首23度1.5海里のところに築宝丸をレーダーで初めて認め、さらに肉眼によって同船の白、紅2灯を確認し、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたが、その方位の変化を確かめるなどして動静監視を行うことなく、同船の前路を航過できるものと思い、築宝丸が前路を左方に横切る態勢で接近していることをA受審人に報告しなかった。
B指定海難関係人は、築宝丸がさらに接近しても右転するなどして同船の進路を避ける動作をとらず、02時50分わずか前、危険を感じて右舵一杯をとったが及ばず、02時50分臼石鼻灯台から068度2.5海里の地点において、あいりゅうは、原針路、原速力のまま、その船首が築宝丸の左舷中央部外板に前方から46度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風はほとんどなく、潮候は高潮時で、視程は2キロメートルであった。
A受審人は、機関が停止したのに気付き、急いで昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、築宝丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、同月21日16時ごろ大分県杵築市美濃崎漁港を発し、伊予灘西航路第1号灯浮標付近の漁場に向かった。
C受審人は目的の漁場に至って操業を開始し、その後南方に移動して操業を続け、02時10分かれい、えびなど約40キログラムを獲て操業を終え、美濃崎漁港に帰港することとし、臼石鼻灯台から075度9.2海里の地点を発進し、針路を258度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
漁場を発進したのちC受審人は、船尾甲板に移動し、掲げていた正規の航海灯に加えて船橋から船尾甲板上にほぼ平行に伸びる、甲板上の高さ2メートルの作業灯用ビームに取り付けたフード付きの白色60ワットの電球4個を点灯して魚の選別作業を行い、02時45分臼石鼻灯台から071度3.3海里の地点に達したとき、あいりゅうを左舷船首23度1.5海里のところに視認し得る状況となり、その後同船が前路を右方に横切り方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、魚の選別作業に熱中していて前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、間近に接近しても右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく、築宝丸は、原針路、原速力のまま続航し、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、あいりゅうは船首部に凹損を生じたが、のち修理され、築宝丸は左舷中央部外板に破口を生じて転覆し、美濃崎漁港に引き付けられ、のち廃船とされた。
衝突の衝撃で海中に投げ出されたC受審人は、あいりゅうに救助され、21日間の入院を要する前頭部皮下出血及び左膝打撲の傷を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、伊予灘西部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上中のあいりゅうが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る築宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中の築宝丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
あいりゅうの運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対し、他船が接近したときの報告についての指示が十分でなかったことと、当直者が、築宝丸が接近してきたことを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、大分港から山口県徳山下松港に向け伊予灘西部を北上中、無資格者に船橋当直を任せる場合、接近する他船があるときは速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、当直者が船橋当直に慣れているので大丈夫と思い、接近する他船があるときは速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から築宝丸が左方に横切る態勢で接近していることの報告が得られず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、あいりゅうの船首部に凹損を、築宝丸の左舷中央部外板に破口を生じさせて転覆させ、C受審人に21日間の入院を要する前頭部皮下出血及び左膝部打撲の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、操業を終えて帰港のため単独で伊予灘を西行する場合、前路に接近する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、船尾甲板上で魚の選別作業に熱中し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するあいりゅうに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に当たって伊予灘西部を北上中、前路を左方に横切る態勢で接近する築宝丸を認めた際、その旨を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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