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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月29日03時24分 津軽海峡 2 船舶の要目 船種船名 旅客船サウンズオブセト
漁船漁神丸 総トン数 5,167トン 9.87トン 全長 96.74メートル 17.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
3,398キロワット 漁船法馬力数 80 3 事実の経過 サウンズオブセト(以下「サ号」という。)は、宿泊を要しない国内だけのクルージングに従事する鋼製の船首船橋型旅客船で、A及びB両受審人ほか、26人が乗り組み、燃料油補給の目的で、船首3.25メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成9年8月28日21時00分青森県八戸港を発し、北海道函館港に向かった。 A受審人は、船橋当直中のB受審人が津軽海峡を航行したことがなかったので、尻屋埼の手前で昇橋して操船の指揮を執り、翌29日01時25分尻屋埼灯台から059度(真方位、以下同じ。)4海里の地点で針路を291度に定めたのち、同人に対し漁船が多いから気をつけるようにと指示して降橋した。 03時00分少し過ぎB受審人は、汐首岬灯台から138度8.1海里の地点において、所定の灯火を表示のうえ、同一の針路で自動操舵とし、機関を13.5ノットの全速力にかけて折からの南東方に流れる海潮流により3度ばかり左方に圧流されながら、11.3ノットの対地速力で進行していたとき、右舷船首8度5.8海里に漂泊を開始した直後の漁神丸の集魚灯の灯火を初認した。 B受審人は、漁神丸の灯火の様子から、同船が漂泊していか釣りを行っているものと思い、その後その動静を監視することなく、操舵室中央のレピーターコンパスの右側に立ち、その左側にいた相当直の甲板手と左舷方を向いて雑談を始めた。 03時10分B受審人は、漁神丸が右舷船首15度3.7海里となったころ、同船は自船の前路に向けて投げ縄を開始し、03時16分少し過ぎ汐首岬灯台から153度5.3海里の地点に達したとき、右舷側に見る同船と同方位のまま2海里となり、同船は漁労に従事していることを表示する灯火を掲げていなかったものの、航行中の動力船が表示する灯火のほかに点灯していた集魚灯などの灯火の様子やその遅い速力から、通常の航行中の動力船とは異なる状態の船舶と判断できる状況にあり、その後、その方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然左舷方を向いて甲板手と雑談を続け、同船の動静を監視していなかったので、そのことに気付かず、同船を避けることなく続航した。 03時24分わずか前B受審人は、甲板手の右舷側の船が近いとの報告で右舷方を見たとき、至近に迫った漁神丸を認め、左舵を取ったが、及ばず、03時24分汐首岬灯台から167度4.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、サ号の右舷船尾に漁神丸の船首が前方から69度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に属し、衝突地点付近には2.5ノットの南東流があった。 また、漁神丸は、船体中央部に操舵室を有するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、まぐろ延縄(はえなわ)漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同月28日19時30分北海道亀田郡戸井町釜谷漁港を発した。 C受審人は、まぐろ延縄漁の餌(えさ)にするいかを獲るため函館市立待岬南東方沖合に至っていか釣りを行い、翌29日00時30分いか300匹ばかりを獲ていか釣りを終えたあと、後片付けとまぐろ延縄漁の準備をしたのち、魚群探索をしながら汐首岬南方沖合の延縄漁場に向かった。 ところで、漁神丸のまぐろ延縄漁は、45メートル間隔で3本の釣り針を付けた幹縄180メートルごとに浮子(うき)縄を介して浮子を取り付け、針数18本分を1つのかごに入れ、釣り針に活(い)きいかを付け、更に針数48本ごとにラジオブイを取り付けながら船尾から投入し、全部で10かごの投げ縄を行い、その後投げ縄開始地点に戻り、通常は、03時ごろから約1時間20分かけて揚げ縄をするというものであった。 03時00分C受審人は、汐首岬灯台から174度3.1海里の地点に達したとき、潮模様を見るため機関を中立にして、航行中の動力船の灯火のほか、集魚灯6個、作業灯9個及び黄色回転灯を、点灯のうえ漂泊を開始し、03時10分海潮流により圧流されて汐首岬灯台から173度3.4海里の地点に至ったとき、サ号は3.8海里に存在したが、3海里レンジとしたレーダーを見たものの、画面に同船の映像を認めなかったので、操業に支障となる他船はいないと思い、針路を180度に定めて自動操舵とし、機関を3.3ノットの微速力前進としたあと、主機のリモコン装置を持って船尾甲板に赴き、漁労に従事していることを表示する灯火を掲げないまま右舷方を向いて立ち、船尾から投げ縄を開始した。 03時16分少し過ぎC受審人は、海潮流により左方に約20度圧流され、6.0ノットの対地速力で投げ縄を行っていたとき、左舷船首54度2海里にサ号の白、白、緑の3灯を視認することができ、その後その方位が変わらず衝突のおそれのある態勢のまま自船を避けずにサ号が接近したが、延縄の投入に気を取られて左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に接近したものの、行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、同時24分わずか前船首至近にサ号を認め、機関を全速力後進にかけたが、及ばず、原針路、ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、サ号は右舷側後部外板に擦過傷を生じ、漁神丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、津軽海峡において、サ号と漁労に従事していることを表示する灯火を掲げないまま投げ縄中の漁神丸とが、互いに衝突のおそれがある態勢で接近した際、サ号が、動静監視不十分で、右舷側から接近する漁神丸を避けなかったことによって発生したが、漁神丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、船橋当直に当たり津軽海峡を西行中、右舷船首方に集魚灯を点灯した漁神丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、集魚灯を点灯していることから、漂泊していか釣りをしているものと思い、動静監視を行わなかった職務上の過失により、その後同船が投げ縄をしながら衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避ける措置をとらないまま進行して同船と衝突を招き、サ号の右舷側船尾外板に擦過傷を生じさせ、漁神丸の船首を圧壊させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、夜間、津軽海峡において、投げ縄を行う場合、接近するサ号を見落とさないよう、周囲の見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、延縄の投入に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、サ号と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための措置もとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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