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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年8月28日08時40分 根室海峡 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三十八福聚丸
漁船第五宝祐丸 総トン数 185トン 7.9トン 登録長 34.56メートル 13.48メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
735キロワット 漁船底馬力数 120 3 事実の経過 第三十八福聚丸(以下「福聚丸」という。)は、刺網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか17人が乗り組み、ロシア人オブザーバー1人を乗せ、操業の目的をもって、船首2.8メートル船尾3.2メートルの喫水で、平成7年7月28日09時25分根室港を発し、オホーツク海の漁場に向かい刺し網漁に従事したのち、かれい約110トンを漁獲して操業を終え、翌8月26日12時00分北緯53度、東経150度ばかりの漁場を発し、根室港に向かった。 A受審人は、同月28日05時ごろ知床岬の北北東方約40海里の地点で漁労長と交代して単独で船橋当直に就き、08時04分知床岬灯台から119度(真方位、以下同じ。)7.2海里の地点で、針路を204度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で、根室海峡を南下した。 08時30分A受審人は、相泊港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から085度4.4海里の地点に達したとき、左舷船首44度2.8海里のところに第五宝祐丸以下「宝祐丸」という。)を初めて認め、船首の波切りの様子などから横切り船と判断した。 08時33分A受審人は、南防波堤灯台から092度4.3海里の地点に達したとき、前路を右方に横切る態勢の宝祐丸が左舷船首44度2.0海里となり、その後その方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近したが、初認したとき一見して自船の船尾を無難に替わっていくものと思い、以後その動静を監視していなかったので、そのことに気付かずに進行した。 A受審人は、その後宝祐丸が自船の進路を避けずに接近を続けたが依然動静を監視しないまま、警告信号を行わず、更に間近となっても右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、08時40分南防波堤灯台から114度4.0海里の地点において、福聚丸は、原針路、原速力のまま、その左舷中央部に宝祐丸の船首が後方から87度の角度で衝突した。 当時、天候は雨で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視程は約3海里だった。 また、宝祐丸は、FRP製漁船で、B受審人、同受審人の息子ほか1人が乗り組み、操業の目的をもって、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水で同月28日01時00分北海道目梨郡羅臼町の相泊漁港を発し、同漁港東南東方沖合の漁場で刺し網漁に従事し、まだら約100キログラムを漁獲したところで操業を打ち切り、08時10分南防波堤灯台から112度9.8海里の地点の漁場を発進し、針路を291度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ12.0ノットの対地速力で同漁港に向かった。 B受審人は、漁場発進時から単独で船橋当直にあたり、08時20分南防波堤灯台から112度7.8海里の地点に達したとき、前部甲板上で揚収した刺し網から魚を取外して同網を整理する作業を行っていた同人の息子の甲板員が手に怪我(けが)をし、もう1人の甲板員も漁師としての経験不足からその作業がはかどらなかったため、自らがその作業を行うこととした。そして、そのころ福聚丸が右舷船首49度5.7海里のところに存在したが、B受審人は、周囲を見渡したところ、雨のため視界が制限され、視野内に同船を認めなかったことから、周囲に支障となる他船はいないものと思い、船橋を無人としたまま離れ、前部甲板に赴いて前記の作業を開始した。 ところで、同船の前部甲板は、漁獲した魚の鮮度を保つ目的で、操舵室の前面から前部マストまでほぼ全面にわたってシートにより覆われ、その高さは、最高部の操舵室側が約1.5メートルで、船首に向かって低くなっていて最前部の前部マスト側が約1メートルであり、前部甲板右舷中央部付近と操舵室間のみがシートで覆われることなく開放されていた。 08時33分B受審人は、南防波堤灯台から113度5.1海里の地点に達したとき、右舷船首49度2.0海里のところに前略を左方に横切る態勢の福聚丸を視認できる状況にあり、その後同船はその方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近したが、船橋を無人としたまま、シートで覆われた前部甲板上で前記作業に従事し、右舷前方の見張りを行っていなかったので、そのことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行中、原針路、原速力のまま前記のとおり衝突した。 衝突の結果、福聚丸は左舷中央部に軽微な凹損を生じ、宝祐丸は船首部を圧壊したが、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、根室海峡において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近した際、西行中の宝祐丸が、船橋を無人とし、前路を左方に横切る福聚丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の福聚丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、根室海峡を相泊漁港に向けて帰航する場合、見張りに専念するため船橋を無人としないようにすべき注意義務があった。ところが、同人は、自ら前部甲板で作業を行うことを思い立ち、周囲を見渡したとき肉眼で他船を認めなかったので周囲に他船はいないものと思い、前部甲板に赴いて、船橋を無人とした職務上の過失により、前路を左方に横切る福聚丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避ける措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、福聚丸の左舷中央部に軽微な凹損及び宝祐丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、根室海峡を根室港に帰航するため南下中、左舷前方に宝祐丸を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、一見して自船の船尾を替わるものと思い、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で自船の進路を避けずに接近していることに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前記の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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