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1998年(平成10年)

平成10年門審第20号
    件名
貨物船新相馬丸護岸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、清水正男、西山烝一
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:新相馬丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首外板に1メートルの凹損、右舷船首外板に1.5メートルの破口と4メートルの凹損ほか、護岸角上部のコンクリートが2メートルにわたって破損

    原因
操船不適切(港内操船計画)

    主文
本件護岸衝突は、夜間の出港時における港内操船計画が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月13日02時28分
高知県須崎港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船新相馬丸
総トン数 498トン
全長 71.730メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット
3 事実の経過
新相馬丸は、主としてセメントの原料、硅(けい)砂及び鋼材などの運搬に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首1.4メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、空倉のまま平成7年11月13日02時10分高知県須崎港の大阪セメント工場の岸壁を発し、京浜港に向かった。
ところで、A受審人は、須崎港に入港したのは初めてで、前12日00時ごろ和歌山下津港から須崎港の港外に到着し、投錨して日の出を待ち、06時ごろ大阪セメント工場岸壁対岸に転錨してのち、12時ごろ同岸壁の北端に船尾付けして、揚荷着岸の順番を待った。
これより先、A受審人は、港内移動中、箕越の沖に養殖筏(いかだ)が設置され、水路の可航幅が最狭部で180メートルばかりに狭まっているのを認め、現地代理店からも同養殖筏に注意するよう連絡を受けていたので、荷役待ちの時間を利用し、浅瀬や目測で感じた養殖筏沖合の可航幅などの港内事情の調べにかかったものの、夜間における船首目標、転針目標及び避険線の設定並びに出港部署配置など、出港時の港内操船計画の検討を十分に行わず、実施上の方針も立てないまま、大ざっぱに海図にあたっただけで調べを終え、23時ごろ陸上からの指示に従い、大阪セメント工場の岸壁に出船左舷付けに着岸し、揚荷を終えた。
こうして、A受審人は、離岸後、13日02時22分古城山山頂(143メートル)三角点(以下「古城山三角点」という。)から049度(真方位、以下同じ。)830メートルの地点で、右舷錨を巻き上げたとき、深夜の出港で港内操船に不安があったものの、入港時無難に港内操船を終えていたので大事に至ることもあるまいと思い、船首部署についていた一等航海士を昇橋させてレーダーなどの見張り要員に配置させるなど、船橋部署の補強をしなかったばかりか、船首尾の部署も解いて乗組員全員を倉内掃除につかせ、単独で操船にあたり、針路を目見当で水路のほぼ中央に向首する153度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの対地速力で、手動操舵のまま見張りを兼務しながら進行した。
02時25分A受審人は、古城山三角点から087度880メートルの地点に達したとき、水路の右寄りに寄せるため175度に転針し、同時26分古城山三角点から100度920メートルの地点に至ったとき、正船首やや右舷寄りの箕越沖合の養殖筏を示す赤色標識灯を視認し、養殖筏のことが急に気になりだし、山崎鼻ウカ碆照射灯によって照射されていたウカ碆の標柱がまだ視認できず、箕越沖合の水路を見通すことのできる地点に達していないのに、慌てて193度に右転したところ、水路右側の護岸の南東角に著しく接近する状況となったがこれに気づかず、同時27分少し過ぎ前方に再び別の赤色灯火を見かけ、同灯火までの距離さえも確かめず、気が動転したまま右舵10度をとり、船首が回頭し始めたところで直ぐ舵を中央に戻したものの、02時28分新相馬丸は、船首が230度に向いたとき、山崎鼻灯台から030度940メートルの護岸の角に原速力のまま衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は低潮時で、視界は良好で、当日の月齢は19.8であった。
護岸衝突の結果、船首外板に1メートルの凹損、右舷船首外板に1.5メートルの破口と4メートルの凹損及び右舷バラストタンク付近に4メートルの凹損を生じたほか、護岸角上部のコンクリートが2メートルにわたって破損したが、いずれものち修理された。

(原因)
本件護岸衝突は、夜間、高知県須崎港において、港内の岸壁から出港しようとした際、港内操船計画が不十分で、水路片側の護岸に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、高知県須崎港において、離岸後狭い水路を通って出港する場合、初めての港で港内事情に疎かったのであるから、無難に港内を通航できるよう、避険線を活用するなど、入念な港内操船計画を用意しておくべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、入港時無難に操船を終えていたので大事に至ることもあるまいと思い、入念な港内操船計画を用意しておかなかった職務上の過失により、船橋部署さえも補強しないまま一人で操船にあたり、水路片側の護岸に著しく接近して同護岸に衝突し、船首部外板に破口を伴う凹損を生じさせたうえ、護岸の一部を破損するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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