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1998年(平成10年)

平成10年函審第5号
    件名
漁船第一広漁丸防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、米田裕、大山繁樹
    理事官
里憲、千手末年

    受審人
A 職名:第一広漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首外板に凹損、漁労長が胸椎骨折及び甲板員1人が右手背裂創などを負ったほか、乗組員7人がそれぞれ約1週間の加療を要する頚部挫傷

    原因
見張り不十分

    主文
本件防波堤衝突は、見張り不十分で、工事中の防波堤先端部に向首して進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月15日04時59分
北海道十勝港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一広漁丸
総トン数 16トン
全長 21.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
第一広漁丸(以下「広漁丸」という。)は、鋼製漁船で、A受審人ほか8人が乗り組み、漁具関係の業者1人を同乗させ、定置網の網起こしの目的で、船首1.0メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成9年10月15日04時55分十勝港漁港区の広尾漁業協同組合前の、十勝港北防波堤灯台(以下航路標識及び港湾施設については「十勝港」を省略する。)から187度(真方位、以下同じ。)510メートルの岸壁を発し、広尾郡豊似川河口沖合の定置網設置地点に向かった。
ところで、十勝港では、港口に向かってほぼ北東方向に築造された南防波堤の漁港区寄り内側の、北防波堤灯台から078度320メートルの地点から南防波堤と直角の320度方向に46メートルの長さで南副防波堤があり、同年9月2日から同堤を更に同方向に約44メートル延長する南波除堤工事が開始され、同月13日までに予定されていた延長部分の基礎となるコンクリートケーソンの据付け工事が全て終わり、同ケーソン先端から2メートルのところに高さ1メートルの標柱が設けられ、その頂部に単閃緑光毎2秒に1閃光の仮設の簡易標識灯が設置されていた。また、同工事の工事期間、同区域などについては、同年7月11日付の一管区水路通報第27号で、漁業協同組合などを通して関係者に周知されていた。
A受審人は、しけの日を除いてほぼ連日、前記発航地点から網起こし目的の出漁をしていたので、南副防波堤の延長工事が行われていることや、据え付けられたコンクリートケーソンの先端部に簡易標識灯が仮設されていてその光力が他の航路標識より弱いことを知っており、発航時から雨で視界が狭められ、視程が150メートルばかりとなっていたものの、広漁丸で習わしとなっている、おもて役と称する前部甲板に配置した操船の助言をする甲板員に対して、前路の見張りを厳重に行うよう指示しないまま、操舵室右舷側で、単独で操船に当たった。
A受審人は、レーダーを港内で使用する際に必要な感度調整などが面倒であったので、その手間を省いてレーダーを使用せずに肉眼による見張りにあたり、04時57分少し過ぎ北防波形灯台から183度140メートルの地点に達したとき、機関を半速力の6.5ノットにかけ、針路をいつも港口に向かうときの針路としていた045度に定めて遠隔手動操舵により進行した。
04時58分半A受審人は、北防波堤灯台から073度190メートルの地点に達したとき、正船首方100メートルのところに南波除堤に仮設された簡易標識灯の灯光を認め得る状況となったが、既設の南防波堤から一定の距離を保っていれば工事中の防波堤先端を替わせると思い、右舷側の南防波堤との距離の目測に気を取られ、前路の見張りを厳重に行っていなかったので、これに気付かなかった。
04時59分少し前A受審人は、依然船首方の見張りを不十分としたまま南波除堤に向首していることに気付かずに続航中、おもて役の甲板員が、前方至近に簡易標識灯の緑光を認めてA受審人に知らせようとして操舵室側に駆け寄ったが、間に合わず、04時59分広漁丸は、北防波堤灯台から063.5度290メートルの南波除堤先端部に、その船首が、原針路、原速力のままほぼ直角に衝突した。
当時、天候は雨で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約150メートルであった。
衝突の結果、船首外板に凹損を生じたが、のち修理され、漁労長Bが胸椎骨折及び甲板員Cが右手背裂創などを負ったほか、乗組員7人がそれぞれ約1週間の加療を要する頚部挫傷などを負った。

(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、雨で視界が狭められた北海道十勝港を出航するにあたり、見張りが不十分で、延長工事中の南波除堤先端に向首して進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、雨で視界が狭められた北海道十勝港を出航する場合、南波除堤の延長工事が行われ、同堤先端部に簡易標識灯が設置されているのを知っていたから、その灯火を見落とすことのないよう、前路の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷側の南防波堤との距離を一定に保っていれば、工事中の防波堤先端を替わせると思い、右舷側の南防波堤との距離の目測に気を取られ、前路の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、簡易漂識灯の灯火を見落とし、南波除堤先端付近に向首していることに気付かずに進行して同堤との衝突を招き、船首外板に凹損を生じさせ、漁労長に胸椎骨折を、甲板員に右手背裂創などを負わせたほか、自らを含め乗組員7人に頚部挫傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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