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1998年(平成10年)

平成9年門審第49号
    件名
油送船大弘丸油送船第五崎陽丸外1隻衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男
    理事官
副理事官 蓮池力

    受審人
A 職名:大弘丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
大弘丸…右舷側前部に擦過傷並びに同側後部の外板及びハンドレールに軽微な曲損
崎陽丸…左舷側前部の外板に凹損
にちあす丸…左舷側後部の外板に曲損

    原因
大弘丸…操船不適切(着桟時)

    主文
本件衝突は、大弘丸が、着桟時の操船が不適切で、桟橋に係船中の第五崎陽丸外1隻に向けて進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月29日08時20分
宮城県塩釜港
2 船舶の要目
船種船名 油送船大弘丸 油送船第五崎陽丸
総トン数 749トン 749トン
全長 76.61メートル
登録長 65.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 1,323キロワット
船種船名 油送船第五にちあす丸
総トン数 699トン
登録長 63.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
3 事実の経過
大弘丸は、専ら重油の輸送に従事する船尾船橋型の油送船で、A受審人ほか5人が乗り組み、重油約2,000キロリットルを載せ、荷揚げ桟橋へ移動する目的で、船首4.5メートル船尾5.5メートルの喫水をもって、平成8年3月29日08時00分塩釜港貞山ふ頭第2号岸壁を離れ、同港内貞山堀の三井物産株式会社の専用桟橋(以下「三井桟橋」という。)に向かった。
ところで、貞山堀は塩釜港の航路の西端付近から南西方向に分岐する水路の先端部分に当たり、貞山ふ頭東岸の同ふ頭第2号岸壁に続く同第4号岸壁の南端をその入り口とし、入り口から堀の奥までの長さが約1,000メートルの細長い水路で、同堀の南岸付近には水深5メートル以下の水域が存在し、可航幅は入り口から650メートルの間は約100メートル、それより奥はだんだんと狭まり、最奥では約70メートルとなっていた。
また、貞山堀の北岸は石油基地になっており、同堀に沿って9箇所の石油会社各社の専用桟橋が設置され、入り口から数えて5番目から9番目までの桟橋は、230度(真方位、以下同じ。)方向に約100メートルの間隔で配置され、入り口から数えて7番目が三井桟橋、8番目が丸紅ガス興産株式会社の専用桟橋(以下「丸紅桟橋」という。)、9番目が最奥のコスモ石油株式会社の専用桟橋(以下「コスモ桟橋」という。)となっていた。
A受審人は、船首に一等航海士及び甲板長、船尾に一等機関士及び操機長をそれぞれ配置し、機関長を船橋における機関の遠隔操縦に就け、単独で操舵操船に当たり、貞山ふ頭東岸に沿って貞山堀に入り、08時15分半塩釜港導灯(前灯)(以下「導灯」という。)から124度2,000メートルの地点に達したとき、針路を同堀に沿う230度に定め、機関を極微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
08時17分A受審人は、三井桟橋の先端まで150メートル手前の地点に当たる導灯から128度1,950メートルの地点に至り、機関を中立として前進惰力で進行し、三井桟橋以外の各桟橋には船舶が係船されており、三井桟橋は前後の停泊船によって挟まれて十分な余裕のない状況にあったが、操舵とさらに接近してからの機関の操作で着桟が可能と思い、十分に行きあしを減じて三井浅橋に接近できるよう、適宜機関を後進にかけたり桟橋前面で待機していた綱取りボートを有効に利用するなど、適切な操船を行うことなく、舵効を確保するための速力維持に気をとられ、3.0ノットの対地速力のまま続航した。
A受審人は08時18分半、三井浅橋の手前の桟橋に係船中の船舶を替わるころ、三井桟橋に向けて右舵一杯をとって着桟態勢に入り、同時19分左舵一杯として機関を全速力後進にかけたものの、行きあしが過大で、着桟予定の三井桟橋を航過し、08時20分導灯から136度1,880メートルの地点において、大弘丸は、船首が235度を向き、2.0ノットの対地速力となったときその右舷側前部が、丸紅桟橋に係船中の第五崎陽丸(以下「崎陽丸」という。)の左舷側前部に後方から5度の角度で衝突してこれを擦過し、続いて08時21分導灯から139度1,860メートルの地点において、船首が235度のままわずかな行きあしとなったときその右舷側前部がコスモ桟橋に係船中の第五にちあす丸(以下「にちあす丸」という。)の左舷側後部に後方から5度の角度で衝突して停止した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、崎陽丸は、船尾船橋型アスファルトタンカーで、船首を230度に向けた状態で丸紅桟橋に右舷付け係船して揚げ荷役中のところ、前示のとおり衝突した。
また、にちあす丸は、船尾船橋型アスファルトタンカーで、船首を230度に向けた状態でコスモ桟橋に右舷付け係船して揚げ荷役中のところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大弘丸は右舷側前部に擦過傷並びに同側後部の外板及びハンドレールに軽微な曲損を、崎陽丸は左舷側前部の外板に凹損を、にちあす丸は左舷側後部の外板に曲損をそれぞれ生じたが、のち崎陽丸及びにちあす丸は修理された。

(原因)
本件衝突は、大弘丸が、塩釜港貞山堀において、荷揚げ桟橋への着桟時の操船が不適切で、付近桟橋に係船中の崎陽丸及びにちあす丸に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、塩釜港貞山堀において、荷揚げ桟橋への着桟のための操船を行う場合、十分に行きあしを減じて同桟橋に接近できるよう、適宜機関を後進にかけたり待機していた綱取りボートを有効に利用するなど、適切な操船を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、舵効とさらに接近してからの機関の操作で着桟が可能と思い、舵効を確保するための速力維持に気をとられ、適宜機関を後進にかけたり待機していた綱取りボートを有効に活用するなどして適切な操船を行わなかった職務上の過失により、過大な行きあしのまま荷揚げ桟橋に接近してこれを航過し、付近桟橋に係船中の崎陽丸及びにちあす丸との衝突を招き、大弘丸の右舷側後部の外板及びハンドレールに軽微な曲損を、崎陽丸の左舷側前部の外板に凹損を、にちあす丸の左舷側後部の外板に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。

参考図






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