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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年11月30日23時30分 島根半島北方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第五十二簸川丸
漁船大成丸 総トン数 85トン 75トン 全長 32.9メートル 32.806メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
485キロワット 588キロワット 3 事実の経過 第五十二簸川丸(以下「簸川丸」という。)は、2そう引き底引き網漁業の従船として従事する鋼製漁船で、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、主船とともに、平成7年11月28日06時15分境港を発し、島根半島北方沖合10海里ばかりの漁場に向かった。 A受審人は、09時ごろ漁場に到着し、自船及び主船の船尾から延出した曳索に漁網を取り付け、船尾から漁網の後端までの長さを750ないし800メートルとし、進行方向に対し自船が左側に、主船が右側にそれぞれ位置し、両船の間隔を200メートルに保ちながら曳網を開始した。 A受審人は、東西方向に曳網を繰り返し、日没後は航海灯のほか、トロールによる漁労に従事していることを示す緑白全周灯及び甲板照明灯数灯を点灯して操業を続け、翌々30日22時00分恵曇灯台から348度(真方位、以下同じ。)11.4海里の地点に達したとき、当日5回目の操業にかかり、進路を263度に定め、3.0ノットの曳網速力で手動操舵により進行した。 A受審人は、単独で船橋当直に就き、魚群探知機を監視しながら立って操舵に当たっていたところ、23時20分恵曇灯台から330度12.4海里の地点に達したとき、主船の船長より左舷船尾方から接近する船がいる旨の無線連絡を受け、振り向くと左舷船尾43度1,500メートルに、来航する大成丸の白緑各1灯のほか船橋後部の作業灯を認め、その後方位が変わらないまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、そのうちに同船が漁労中の自船を避けるものと期待して続航した。 23時25分A受審人は、大成丸が同方位750メートルに接近してもいっこうに避航の気配が見られないことから、モーターサイレンの短音を連吹して警告信号を行ったが、いずれ相手船が信号に気付いて避けるものと思い、早めに右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく、同信号を続けながら進行中、同時30分少し前至近に迫った相手船を見てようやく衝突の危険を感じ、右舵一杯としたが及ばず、23時30分恵曇灯台から327度12.6海里の地点において、簸川丸は、原速力のまま272度を向首したその左舷側後部に、大成丸の船首が、後方から17度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、付近海域は穏やかであった。 また、大成丸は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人、C指定海難関係人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首1.3メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同月30日19時00分境港を発し、出雲日御碕灯台の北西方30海里ばかりの漁場に向かった。 B受審人は、漁場との往復航における船橋当直を、C指定海難関係人を含む4人の乗組員による単独の3ないし5時間交代制とし、出港後引き続き操船に当たり、19時50分美保関灯台から015度1,300メートルの地点に達したとき、針路を漁場に向く289度に定めて自動操舵とし、機関を7.1ノットの半速力前進にかけて進行し、昇橋してきたC指定海難関係人と当直を交代したが、その際、平素から当直中何かあれば報告するよう指導しているので特に指示することもあるまいと思い、眠気を催したら報告するよう指示することなく、操舵室内の海図台下のベッドで休息した。 ところで、当時、大成丸は、夕方境港を出港し、翌朝同港へ帰港して水揚げをするという形態で操業しており、乗組員がまとまった休息をとれるのは、日中の数時間だけであったが、当日、C指定海難関係人は、04時ごろ帰港後上陸してほとんど休息をとらないまま出港前に帰船し、当直交代で昇橋したときには睡眠不足気味となっていた。 C指定海難関係人は、操舵室右舷側の椅子に腰を掛け、ときどき立ち上がってレーダーにより見張りをしながら当直を続けるうち、徐々に睡眠不足による眠気を覚えるようになり、22時51分恵曇灯台から345度9.4海里の地点に達し、レーダーで右舷船首17度3海里に簸川丸の映像を初めて認めたころには強い眠気を催したが、この程度であれば少し我慢すれば居眠りすることはあるまいと思い、B受審人に報告しなかったため、当直を他の乗組員と交代するなどの居眠り運航の防止措置をとることができないまま続航中、いつしか居眠りに陥った。 23時20分C指定海難関係人は、右舷船首17度1,500メートルに簸川丸の航海灯及びトロールにより漁労に従事していることを示す灯火を視認することができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りしてこのことに気付かず、大成丸は、漁労に従事する簸川丸の進路を避けることができないまま進行し、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。 B受審人は、衝突の衝撃で目を覚まし、事後の措置に当たった。 衝突の結果、簸川丸は、左舷側中央部に凹傷を生じ、大成丸は、右舷船首部に擦過傷を生じた。
(原因) 本件衝突は、夜間、島根半島北方沖合において、大成丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、トロールにより漁労に従事する簸川丸の進路を避けなかったことによって発生したが、簸川丸が、衝突を避けるための措置をとる時機が遅かったことも一因をなすものである。 大成丸の運航が適切でなかったのは、船長が当直に就く乗組員に対し、眠気を催したら報告するよう指示しなかったことと、当直に就いた乗組員が、眠気を催した際、船長に報告せず、居眠りに陥ったこととによるものである。
(受審人等の所為) B受審人は、夜間、島根半島北方沖合を漁場に向けて航行中、乗組員に当直を行わせる場合、眠気を催したら報告するよう指示すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、平素から当直中何かあれば報告するよう指導しているので特に指示することもあるまいと思い、眠気を催したら報告するよう指示しなかった職務上の過失により、当直に就いた乗組員が眠気を催したことに気付かなかったため、他の乗組員と当直を交代させるなどの居眠り運航の防止措置をとることができず、居眠り運航となり、トロールにより漁労に従事する簸川丸の進路を避けることができないまま進行して衝突を招き、簸川丸の左舷中央部外板及び大成丸右舷船首部にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C指定海難関係人が、夜間、単独の船橋当直に就いて島根半島北方沖合を漁場に向けて航行中、眠気を催した際、船長に報告せず、居眠りしたことは本件発生の原因となる。 C指定海難関係人に対しては、勧告しない。 A受審人が、夜間、島根半島北方沖合でトロールにより漁労に従事中、衝突のおそれのある態勢で接近する大成丸の灯火を認め、同船に避航の気配が認められなかった際、早めに衝突を避けるための措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。 しかしながら、以上のA受審人の所為は、同人が警告信号を連吹したにもかかわらず、大成丸の船橋当直者が居眠りをしてこれに気付かなかった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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