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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年5月30日04時55分 瀬戸内海広島県三津口湾沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第八萬栄丸
貨物船吉福丸 総トン数 490トン 165トン 全長 55.00メートル 登録長
44.39メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 735キロワット
404キロワット 3 事実の経過 第八萬栄丸(以下「萬栄丸」という。)は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A、B両受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成8年5月30日02時30分広島市似島西方沖合の錨地を発し、法定灯火を表示して音戸瀬戸及び猫瀬戸経由で竹原市沖合の砂利採取地に向かった。 A受審人は、航海当直を同人、B受審人及び甲板員との単独による3直1時間交代制とし、出港操船に引き続き当直に立ち、音戸瀬戸通過後甲板員と当直を交代したところ、霧のため視界が制限された状態であったため引き続き在橋して操船に当たり、04時26分ごろ女猫島灯台南東方で、B受審人が甲板員と交代して当直に就いたが、そのころ、視界が約3,000メートルまで回復して上蒲刈島が見えるようになり、B受審人が航海士の免状を受有して本航路の航行経験も豊富で、日頃から何かあったら報告するよう指導しているので大丈夫と思い、再び視界制限状態となったら報告するよう具体的に指示をせず、操舵室後方のソファーで横になって休息した。 当直を交代したB受審人は、04時28分女猫島灯台から084度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点に達したとき、針路を070度に定め、機関を10.0ノットの全速力前進として手動操舵により進行したところ、04時43分少し前下碇磯灯標から237度3.4海里の地点に至ったとき、急に濃霧となって視程が約100メートルまで狭まり、視界制限状態となったが、毎日航行している海域であったことから、A受審人に報告せず、霧中信号を行うことも、安全な速力にすることもしないまま、レーダーを見ていつもの針路に乗せるため8度左転し、062度の針路として続航した。 04時45分半B受審人は、下碇磯灯標から236度2.9海里の地点に達したとき、レーダーにより右舷船首4度2.7海里に吉福丸の映像を探知したが、一瞥(べつ)しただけで右舷側をかわるものと思い、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うことなく進行した。 04時51分B受審人は、下碇磯灯標から234度2海里の地点に達したとき、吉福丸が同方位のまま1海里まで近づき、著しく接近することを避けることができない状況となったが依然レーダー監視不十分でこのことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま続航し、同時54分レーダーで500メートルに接近したことを認めてからは同画面から目を離していたところ、同時55分少し前、正船首至近に吉福丸の船体を初めて視認し、直ちに機関後進としたが及ばず、04時55分萬栄丸は、下碇磯灯標から230度1.35海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が吉福丸の左舷側中央部に前方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、付近には微弱な東北東流があり、視程は100メートルで、濃霧注意報が発令中であり、日出は05時00分であった。 A受審人は、衝突の衝撃で目を覚し、事後の措置に当たった。 また、吉福丸は、鋼材の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、C受審人と機関長が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同月29日15時00分大阪港を発し、日没後は法定灯火を表示して広島県釣士田港経由で大分港に向かった。 C受審人は、航海当直を機関長とほぼ6時間交代で行うこととし、同日23時45分ごろ下津井瀬戸を通過したとき再び当直に就き、白石瀬戸、三原瀬戸を西行し、翌30日04時31分下碇磯灯標から060度2.2海里の地点に達したとき、針路を230度に定めて自動操舵とし、機関を10.0ノットの全速力前進にかけて進行した。 C受審人は、定針したころ濃霧となって視界が約150メートルに狭まり、視界制限状態となったが、海面付近は濃かったものの、他船のマスト灯は比較的遠くから見えていたため、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもせず、6海里レンジとしたレーダーで見張りを続けるうち、更に霧が濃くなったため、しばらく横島南方沖合に漂泊して視界の回復を待とうと考え、04時44分半下碇磯灯標から150度900メートルの地点で針路を252度に転じ、レーダーレンジを3海里に切り替えて続航した。 04時45分半C受審人は、下碇磯灯標から174度900メートルの地点に達したとき、レーダーは見ていたものの、右舷船首方の横島の映像や漂泊予定地点の状況確認に気を奪われ、レーダーによる見張りが不十分となっていたことから、そのころ左舷船首5度2.7海里に存在した萬栄丸の映像を探知することができず、同船が霧中信号を行っていなかったこともあって、その後同船と接近する状況となったことに気付かなかった。 C受審人は、04時48分漂泊準備のため機関を280回転の半速力前進として6.0ノットまで減速することとし、徐々に速力を減じて続航中、同時51分下碇磯灯標から222度1海里の地点に達し、約6.5ノットの速力となったとき、萬栄丸が方位変化のないまま1海里まで近づき、著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、レーダーによる見張りが不十分で、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行した。 04時53分C受審人は、約6.0ノットの速力となったとき、機関を停止し、その後惰力前進していたところ、速力が減じるにつれて自動操舵が効かなくなり、潮流の影響で徐々に右転中、同時55分わずか前、左舷船首方至近に萬栄丸の船首マスト灯を初めて視認したが、どうすることもできず、吉福丸は、312度を向首して2.0ノットとなったとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、萬栄丸は、船首外板及び球形船首部に凹損を生じたが、のち、修理され、吉福丸は、左舷中央部外板に破口を生じて浸水し、同日06時18分下碇磯灯標から228度1,500メートルの地点で沈没し、C受審人が、同船から脱出する際、左大腿部を打撲し、2週間の安静加療を要する負傷をした。
(原因) 本件衝突は、日出前の薄明時、萬栄丸及び吉福丸の両船が、霧で視界制限状態となった広島県三津口湾沖合を航行中、東行する萬栄丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した吉福丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、西行する吉福丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーによる見張り不十分で、萬栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。 萬栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対し、視界制限状態となったら報告するよう指示しなかったことと、当直者が、船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は日出前の薄明時、霧で視界制限状態となった広島県猫瀬戸付近を航行中、いったん視界が回復して部下に船橋当直を任せる場合、視界制限状態となったら直ちに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は平素から何かあったら報告するように指導しているので特に指示することもあるまいと思い、視界制限状態となったら報告するよう指示しなかった職務上の過失により、自ら操船の指揮に当たることができなかったため、吉福丸と著しく接近する状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもできないまま進行して同船との衝突を招き、萬栄丸の船首部外板及び球形船首部に凹損を生じさせ、吉福丸の左舷側中央部に破口を生じさせて沈没せしめ、C受審人に大腿部打撲を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は日出前の薄明時、霧で視界制限状態となった三津口湾沖合を航行中、レーダーで前路に吉福丸を探知した場合、同船と著しく接近する状況となるかどうか、判断できるよう、引き続きレーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人はレーダーを一瞥しただけで右舷側をかわるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、吉福丸と著しく接近する状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷及び沈没を生じさせ、C受審人に打撲傷を負わせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は日出前の薄明時、霧で視界制限状態となった三津口湾沖合において、視程が回復するまで漂泊しようとその予定地点に向け航行する場合、前路の萬栄丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は漂泊予定地点の状況を確認することに気を奪われ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、萬栄丸と著しく接近する状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の沈没及び損傷を生じさせ、自身も打撲傷を負うに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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